ドッグマッサージは愛犬との絆を深める その効果と自宅でできる簡単テクニック
近年、犬の健康とウェルビーイングに対する関心が高まっており、その一環としてドッグマッサージが注目されています。単なるスキンシップを超え、心身を癒し、飼い主と愛犬の絆を深める効果が期待されます。
今回は、ドッグマッサージの基本的な知識から、その効果や自宅で実践できる簡単なテクニックを網羅的に解説します。

ドッグマッサージの基本と役割
ドッグマッサージとは、犬の体の筋肉、筋膜、腱、靭帯といった軟部組織に対して、手や指を使ってさまざまな手技を施すセラピーです。単に気持ちよさを与えるだけでなく、犬の心身の健康を促進することが目的です。
具体的には、撫でる、押す、揉む、温める、軽く叩くといった多様なテクニックが用いられます。これらの手技を通じて、リラクゼーション効果を高め、痛みを和らげ、血液循環を改善し、可動域を広げ、全体的な健康状態を向上させることを目指します。
人間におけるマッサージの効果と類似した働きを犬にももたらすため、高齢犬や筋骨格系の問題を抱える犬にとって重要な補助療法となります。さらに、日常的なケアとして行うことで、犬自身が内在するストレスや不調に対するサインを早期にキャッチしやすくなる点も注目すべきポイントです。
ドッグマッサージの効果
ドッグマッサージは、身体面と精神面の両方において多岐にわたる効果をもたらし、愛犬の生活の質を大きく向上させる可能性があります。
まず、身体面においては、関節炎、股関節形成不全、筋肉の張り、怪我といった症状による痛みを緩和する効果が期待されます。マッサージにより筋肉の緊張がほぐれ、エンドルフィンという天然の鎮痛物質の分泌が促進されるため、運動後の筋肉痛や加齢に伴う関節の痛みの改善に寄与します。
さらに、全身の血液循環が活性化され、酸素や栄養素の供給がスムーズになるとともに、リンパの流れも改善するため、老廃物の排出が促され免疫機能が向上します。また、筋肉のほぐしによって柔軟性が高まり、特に高齢犬やリハビリ中の犬にとっては、関節の可動域を維持・拡大する点で有効です。
一方、精神面に関しては、マッサージによる優しい触れ合いが犬のストレスや不安を軽減し、コルチゾールなどのストレスホルモンの低下、セロトニンなど幸福感をもたらすホルモンの分泌促進が期待できます。また、飼い主との温かなコミュニケーションを通じて、オキシトシンの分泌が促され、双方の絆が深まります。
さらに、日常的なマッサージにより、普段は気付かれにくい皮膚の異常や筋肉の変化に気づきやすくなるため、健康問題の早期発見にも繋がります。
基本テクニックと部位別アプローチ
ドッグマッサージには、目的や犬の状態に応じた複数の技法が存在し、飼い主が自宅で実践できる基本テクニックと、専門家が用いる高度な手法に大別されます。ここでは、自宅でできる基本的なマッサージをご紹介します。
エフルラージュ(軽擦法)
手のひら全体を使って、犬の体の表面を優しくゆっくりと撫でる手技です。マッサージの最初と最後に行うことで、筋肉を温め、リラックス効果を高め、血行を促進します。心臓に向かって、毛の流れに沿って行うのが基本です。
ペトリサージュ(揉捏法)
筋肉を優しく揉んだり、つまんだりする手技です。血行とリンパの流れを促進し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。特に、肩や太ももなど、特にこわばりやすい部位に適しています。
プレシオン(圧迫法)
筋肉を骨に向かって優しく押し付ける手技です。筋肉の繊維を広げ、血行を促進する効果があります。四肢に対して、両手で挟むように行うことが多いです。力を入れすぎないように注意しましょう。
サーキュラーフリクション(円形摩擦法)
指の腹や手のひらを使って、小さな円を描くように皮膚の上を滑らせる手技です。血行を促進し、筋肉内の癒着を剥がす効果が期待できます。関節周辺や筋肉の硬い部分に優しく行うとよいでしょう。
パッシブジョイントムーブメント(関節他動運動)
犬の関節を無理のない範囲でゆっくりと動かす手技です。関節の可動域を維持・改善し、こわばりを軽減する効果があります。抵抗を感じたら無理に動かさないようにしましょう。
次に部位別のマッサージ方法です。
首と肩
円を描くように優しく撫でたり、軽くつまんだりして、首から肩にかけての筋肉をマッサージします。犬は飼い主を見上げることが多いため、首や肩の筋肉が凝りやすい傾向があります。頭蓋骨の付け根にある風池(ふうち)というツボを軽く押すのも効果的です。ただし、背骨に直接圧力をかけないように注意しましょう。
背中
首の付け根から尻尾の付け根にかけて、手のひらで優しく撫で下ろします。遊びや運動で負担がかかりやすい部位なので、丁寧にマッサージしてあげましょう。背骨の両側を優しくマッサージしたり、皮膚を軽くつまみ上げるようにするのも効果的です。
脚
前足の付け根から足先、後ろ足の付け根から足先に向かって、優しく撫でたり、円を描くようにマッサージします。特に、太ももの裏側は疲れが溜まりやすいので、忘れずにマッサージしてあげましょう。股関節に不安のある犬種には、股関節周辺を優しくマッサージするのも良いでしょう。
肉球
指の腹を使って、肉球を優しく押したり、指の間を軽くマッサージします。肉球には労宮(ろうきゅう)や湧泉(ゆうせん)といったツボがあり、リラックス効果や血行促進効果が期待できます。普段あまり触らない部位ですが、丁寧にマッサージすることで、触られることに慣れさせるというメリットもあります。
頭と耳
耳の付け根から指で円を描くようにマッサージしたり、耳の縁を優しく引っ張ったりします。頭のてっぺんを優しく撫でたり、眉間から鼻先にかけて指でなでるのもリラックス効果があります。目の周りをマッサージする際は、目を傷つけないように注意が必要です。
お腹と胸
胸の部分を上から下へ優しく撫で下ろします。お腹はデリケートな部位なので、手のひら全体で「の」の字を描くように優しく撫でます。消化を助ける効果が期待できます。
専門のセラピストは、基本技法に加え、筋膜リリース、トリガーポイントセラピー、水中セラピー、オステオパシーといった、より専門的なテクニックを用いることがあります。これらのテクニックは、特定の症状の改善や、より深いレベルでの筋肉の緩和を目的としており、専門的な知識と技術が必要です。

安全に実施するための注意点と避けるべきケース
ドッグマッサージは多くのメリットがありますが、安全に行うためにはいくつかの注意点と、マッサージを避けるべき場合を理解しておくことが重要です。
【マッサージを行う前の確認事項】
・犬がリラックスしている状態で行いましょう
・最初は優しく撫でることから始め、徐々に慣らしていきましょう
・犬の反応を注意深く観察し、嫌がるようなら無理に行わない
・手を温めてから行いましょう
※落ち着いた静かな環境で行うと犬もリラックスしやすくなります
【マッサージを避けるべき場合】
・発熱、感染症、皮膚炎、出血、腫瘍がある場合
・手術後や怪我の直後、または治療中の場合
・心臓病や凝固障害などの持病がある場合
・食後すぐ(少なくとも1〜2時間空ける)
・激しい運動の直後
・妊娠中の場合
・狂犬病予防接種やワクチン接種、マイクロチップ挿入後1週間以内
・攻撃的な犬や、触られるのを極端に嫌がる場合
・原因不明の痛みや腫れがある場合
※精油や香料は、犬にとって有害な場合があるので使用は避けましょう
【重要な注意点】
・力を入れすぎず、優しくマッサージすることを心がけましょう
※犬と人間では体の大きさが違うため、人間の肩もみのような力加減は犬には強すぎることがあります
・背骨や膝の皿など、骨が直接触れる部分には強い圧力をかけないようにしましょう
・常に犬の反応を見ながら、気持ちよさそうな部位や嫌がる部位を把握しましょう
・爪は短く切り、アクセサリーは外してからマッサージを行いましょう
・飼い主自身もリラックスして行うことが大切です
自宅でできる簡単なドッグマッサージ
自宅で愛犬に簡単なマッサージをすることは、スキンシップを通じて絆を深め、リラックスさせるための素晴らしい方法です。ここでは、飼い主がすぐに実践できる基本的なテクニックをご紹介します。
部位 | 説明 | 行い方 | メリット |
全身 | 全身をゆっくりと撫でる | 頭から尻尾まで、全身を優しく撫でる | リラックス効果、安心感を与える |
首 | 首の筋肉を優しく揉む | 指の腹で円を描くように、首の付け根から肩にかけてマッサージする | 首の筋肉の緊張を和らげる |
背中 | 背中の筋肉を優しく撫でる | 手のひらで背骨を避けながら、首から尻尾にかけて撫で下ろす | 背中の筋肉の緊張を和らげる |
脚 | 脚の筋肉を優しく揉む | 脚の付け根から足先に向かって、優しく撫でたり、円を描くようにマッサージする | 脚の筋肉の疲れを和らげ、血行を促進する |
お腹 | お腹を優しく撫でる | 手のひらで時計回りに「の」の字を描くように優しく撫でる | 消化を助ける |
顔 | 顔を優しく撫でる | 鼻の付け根からおでこ、頬にかけて優しく撫でる | リラックス効果 |
耳 | 耳を優しく揉む | 耳の付け根から耳先に向かって優しく揉む | 血行促進、リラックス効果 |
肉球 | 肉球を優しく押す | 指の腹で肉球を優しく押したり、指の間を軽く揉んだりする | リラックス効果、触られることに慣れさせる |
まとめ
ドッグマッサージは、痛みやストレスの軽減、血行促進や柔軟性向上など、犬の心身の健康に対して多大な効果が期待できるケア方法です。また、飼い主と愛犬が互いに安心感と信頼を深める大切なコミュニケーションの機会にもなります。
実施にあたっては、愛犬の反応を常に観察し、無理のない範囲で優しく施術すること。そして、健康上の問題がある場合には獣医師に相談することが重要です。ドッグマッサージを通じて、日常に小さな癒しと安心を取り入れ、より豊かな生活を実現しましょう。