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ヒトと犬の歯周病と「キーストーン病原体」のカンケイ(前編)

[2021/09/28 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

歯周病は歯の表面に細菌がベタっとくっついて、ネバネバ(バイオフィルム)をつくる病気(バイオフィルム感染症)で、ヒトの場合はジンジバリス菌を主犯格とする特定の細菌が原因だとわかっています。細菌がネバネバをつくると、厄介なことに薬が効かなくなるという大きな問題に直面します。

最近の研究では、歯周病菌のなかにもいろいろな菌がいることが明らかになっています。いつもはおとなしい菌、ひとりでは何にもできないけど仲間を扇動して暴動を起こす菌、チャンスがあれば全身への侵略を虎視眈々と狙っている菌などがいるんです。歯周病菌のなかでもっとも病原性が強いといわれている3つの主犯格の細菌を「Red Complex」と呼んでいます。

【Red Complex(3菌種)】
 ・ジンジバリス菌
 ・デンティコーラ菌
 ・フォーサイセンシス菌


次に、歯周病がどういうステップで悪化するのかをザックリと説明すると、以下のようになります。

①口腔内細菌が暴動を起こし歯茎が炎症を起こす
②歯と歯肉の間に歯周ポケットという秘密基地をつくる
③バイオフィルムというバリアで秘密基地を補強する
④ジンジバリス菌が強力な毒素を注入して歯肉炎を引き起こして出血しやすいように細工する
⑤出血した血液(鉄分)を食べる(虫歯菌は砂糖が大好きだけど歯周病菌はタンパク質や鉄が大好き)
⑥ジンジバリス菌はモンスター化し、歯を支える歯茎を破壊し秘密基地を拡大する
⑦Red Complexたちは秘密基地のさらに奥に逃げる(彼らは酸素が苦手)
⑧バイオフィルムというバリアを拡大して歯石で秘密基地をガードする
⑨歯周病菌たちが快適に過ごせる環境が整い歯周病がガンガン進行する


じゃあ、ジンジバリス菌を撃退したら歯周病にならないんじゃないの?って考えたくなりますが、じつはジンジバリス菌は口腔内では少数派であり、歯周病のRed Complex自体も歯周病の部位からそれほど多量には見つかりません。

マウスを使った実験では、ジンジバリス菌が全菌量の0.01%未満でも歯周炎が起こり、その数は歯周病の有無に関係しませんでした。さらに、無菌マウスにジンジバリスを投与しても歯茎は破壊されなかったけど、無菌じゃない普通のマウスの口腔内細菌にジンジバリスを投与したら歯周病になりました。そして、口腔内の細菌の総数がめちゃくちゃ増えて、口腔内細菌のバランスも崩れた。つまり、歯周病になるにはジンジバリスだけではイマイチで、ほかの細菌の力が必要だということがわかったんです。

ひとりでは何にもできないけど仲間を扇動して暴動を起こす菌を「キーストーン病原体」と呼びますが、まさにジンジバリス菌は歯周病のキーストーン病原体ということなんです。今回は、歯周病と「キーストーン病原体」のカンケイを説明しました。後編では歯周病と全身疾患、その予防を考えてみたいと思います。

[獣医学博士 川野浩志]