犬との暮らしで知っておきたいこと Vol.153

【犬飼いTIPS】“スニッフウォーク”のすすめ~散歩中にニオイを嗅がせるべき理由

[2023/11/07 6:01 am | 編集部]

犬が自分の生活する環境を理解し、喜びを見出す主な方法は、観光名所や景色を楽しんだりするのではなく、鼻を使うことです。犬にとってニオイを嗅ぐことがすべてなのです。

彼らは、散歩中に盛んにニオイを嗅ぎます。私たちがスマホでニュースやSNSをチェックするのと同様で、「探索システム」を脳内で働かせているのです。彼らは、ニオイによって新しい発見や重要な洞察を得るのです。今回は、そんな彼らの能力についてのお話です。

愛犬の嗅覚は並外れている

犬の嗅覚は人間の1万倍から10万倍も優れているといわれています。学校にある25mプールに水を満たし、ひとつまみ(小さじ1/8くらい)の砂糖をいれても、そのニオイを感知できるのだそうです。

この驚異的な能力は、捜索救助活動から病気の発見まで、生死にかかわる多くの場面で活かされています。それはあなたのベッドが大好きな愛犬も同じで、“嗅覚のスーパーパワー”を持っているのです。

犬には約900種類2億程度の嗅覚受容体があるとされていますが、犬種によって異なります。たとえば、ビーグルやジャーマンシェパードは約2億2,500万個の嗅覚受容体を持っていますが、もっとも優れた嗅覚を持つ犬はブラッドハウンドです。「魔法の嗅覚」を持つ犬ともいわれるように嗅覚受容体の数は3億個に達します。

逆に、フォックス・テリアは約1億4,700万個、ダックスフントは約1億2,500万個、単頭種なども嗅覚受容体の数は少ないとされています。ただ、長頭種であっても、サルーキなど高速追跡に特化し、視覚に頼った狩猟能力を発展させてきた犬種は、嗅覚受容体の多様性が低いという研究結果もあります。

人間の嗅覚受容体は約400種類500万個程度しかなく、犬の嗅覚と人間の嗅覚は比べものになりません。また、犬は鼻孔を独立して動かすことができ、息を吸ったり吐いたりしてニオイを嗅ぐことができます。

また、犬は鼻孔を独立して動かすことができるので、息を吸うときと吐くときの両方でニオイを嗅ぐことができます。この特性により、犬は呼吸をしながらも周囲のニオイを感知できるのです。

散歩ではたくさんの匂いを嗅がせるべき

散歩中は、自由にニオイを嗅がせてあげるべきです。そのことで、犬の精神的健康が大幅に向上するといわれています。

犬はニオイを嗅ぐことで、そこに誰(何)がいたのか、地中に何が埋まっているのかを知ることができるのです。また、風のニオイを嗅いで、次に何が起こるか、誰(何)が近づいてくるかを察知したり、この先にどのような発見に遭遇するかという情報を得て、次に向かうべき場所を決めるのです。

犬の嗅覚は、単なるニオイだけでなくほかの情報も解読します。人間の鼻が一般的なニオイを感知するのに対し、犬はニオイ全体を構成する個々の要素を分離することができます。この能力によって、そこにいた動物の性別や年齢、健康状態などもわかるといいます。

たとえば、排泄物には「平穏な=正常」と「ストレス=異常」の相反する情報が残るようです。犬はそれを分類し、ストレスを抱える同種の排泄物を積極的に避け、よりリラックスした幸せな個体の排泄物に引き寄せられ、その排泄物をさらに調査する傾向にあるようです。

スニッフウォーク(匂いを嗅ぐ散歩)

スニッフウォークは、身体と脳の両方を鍛え、体の機能を正常に働かせるための散歩です。普通の散歩と同じように歩きながらも、愛犬に自由にゆっくりとニオイを嗅がせるという違いがあります。

動物行動学者であり認知科学者でもあるアレクサンドラ・ホロウィッツ博士は、著書『Being A Dog』のなかで「愛犬との日常生活では、その驚異的な鼻の能力をフルに発揮させることはできない。そして私たちは、散歩中に愛犬を急かし、散歩そのものよりも目的地(自宅に帰る)ことのみを考えてしまう」と語っています。

私たちは犬の鼻にリードさせることで、嗅覚の充実を促すことができるのです。スニッフウォークは、いわば「急がば回れ」ともいえます。

犬を引っ張るのではなく、より快適なペースで歩けるようにしましょう。犬がニオイを嗅ぐために立ち止まったら、心ゆくまでニオイを嗅がせてください。または、特定のエリアを調査したそうな場合は、そうさせてあげます。

たとえば、公園の茂みに沿って歩いたり、湖の近くを歩いたり、野生動物が生息しているような場所は、犬にとって魅力的なニオイが漂う興味深いエリアなのです。こうしたエリアを散歩するだけで、彼らは嗅覚を総動員して、脳を活性化させることでしょう。

散歩の距離は関係ありませんが、人が多かったり、ほかの犬が近づいてくるなど、愛犬の気が散らないような場所やコースを選ぶなど、気を配ってください。

ドッグトレーニングでは「Sniffari(スニファリ)」が推奨されています。「safari」「sniff」を組み合わせた洒落た用語ですが、愛犬と一緒に自然環境で時間を過ごし、犬が周囲のニオイを嗅ぐことや探索することを楽しむアクティビティで、犬の幸福感を高めストレスを軽減するのに役立つだけでなく、絆を強化する機会にもなります。

どれくらいの時間が必要?

具体的なガイドラインはありませんが、できる限り愛犬の要望に応えてあげましょう。犬種や年齢、健康状態によって異なりますが、一般的な推奨時間は30~60分です。

ただ、そこまで時間がとれないようなら、1日2回10~15分ずつでもよいでしょう。たとえば、愛犬をおしっこに連れ出したら、用を足したあとに数分余計にぶらぶらして、できるだけ多くのニオイを嗅がせてあげましょう。

まとめ

愛犬がいろいろなニオイを嗅ぐのは恥ずかしい行為ではなく、彼らの本能であり精神を安定させる重要な行為なのです。

犬には生来、体を動かして自分の生活する環境を調べたいという欲求があります。スニッフウォークはこのニーズに応えます。鼻に従って歩き、学ぶ機会を得ることで、犬はより幸せになり、満足し、満たされるのです。

散歩のときは、つねに犬を引っ張るのではなく、犬について行く時間も必要です。愛犬がニオイを嗅いでいる時間は、あなたも一緒に深呼吸して周りを観察してはいかがでしょうか。何か新しい発見があるかもしれませんよ。

[編集部]