「ペットフード原料の世界市場規模調査」から考える、悪いインフレと日本のペットマーケット

[2024/06/06 6:01 am | 編集長 国久豊史]

Meticulous Research社が発表したプレスリリースによると、ペットフード原料市場は2031年までに733億米ドルに達し、2024年から2031年までの年平均成長率は8.5%になると予測されています。

レポートによると、ペットフード原料市場の成長は、ペット人口増加とペットフードへの支出増加、プレミアムペットフードの需要増加、ペットの健康とウェルネスへの関心の高まりが要因となっています。

レポートでは、新しいペットフード原料の入手可能性と受け入れの増加、ペットフード分野における消費者直販(D2C)ブランドと新興企業の急増など、ペットフードマーケティングの成長機会を生み出す重要なトレンドが指摘されています。

アメリカは依然としてペットフード原料の主要地域ですが、ペット人口の大幅な増加が続いているブラジルなど中南米も注目すべき地域のようです。

レポートでは、世界のペットフード原料市場は、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋、ラテンアメリカ、中東およびアフリカの5つの地域に分類されています。

前述のとおり、アメリカを含む北米は2024年には、北米がペットフード原料市場の最大のシェア(32%)を占めると予想されています。その要因として、この地域でペットを飼っているミレニアル世代の増加、多数の大手ペットフードメーカーの存在、ペットの健康と食事への関心の高まりがあげられています。

ブラジルは、2024~2031年の予測期間中に最高のCAGR(年平均成長率)を記録すると予想されています。現在、ブラジルはペットの犬の数で世界第2位です。2022年には、約5,420万匹の犬と約2,390万匹の猫がいました。過去数年間で、ブラジルの中流階級が大幅に増加し、その結果、同国でのペットの飼育数が増加し、同国のペットフード原料市場の成長を促進すると予想されています。

このように、ペットフード原料市場は、原材料の生産国であると同時に、ペットの頭数とも関連があることがわかります。そして、ペットの頭数(増加)は、経済の成長にも関係してきます。

経済成長は主にGDP(国内総生産)によって測定されます。日本の2023年経済成長率は、G7の中ではアメリカに次いで2位、G20でも10位、OECD(38カ国)でも11位となっています。ちなみに、ブラジルはどのフォーラムにも属していませんが、世界で見ると94位で、日本(125位)よりも上位にいます。

しかし、これだけの数字にもかかわらず、不景気だと感じるのは物価上昇に賃金が追いついていないからともいわれています。いわゆる実質賃金の低下です。

よく「失われた30年」などといわれますが、これは、1991年のバブル崩壊後に日本経済が陥っている長期不景気状態を指します。

この間、物価も上がらないまま賃金も上昇しないデフレでした。しかし、賃金が上昇しないまま、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などによる資源高、そして歴史的円安によりインフレになりました。これは一般的には「悪いインフレ(スタグフレーション)」と呼ばれる状態です。

OECDの「2022年世界の国別平均年収(平均賃金)ランキング」を見ると、日本は38カ国中25位となっており、G7では最下位です。

実際のデータを見ると、アメリカが3位で77,463ドルで日本は41,509ドル。じつにアメリカの約54%でしかありません。お隣の韓国48,922ドル(19位)よりも低いだけでなく、日本より賃金が低い国は、旧社会主義国と、ギリシャ、メキシコ、チリぐらいしかありません。

このように、経済成長率は高いのに、賃金上昇が追いついていない状況では、景気がよいと実感できないのは当然のことです。

コロナ禍で持ち直したように見えた犬猫の飼育頭数は、微減傾向に戻りつつあります。これは当然のことではないでしょうか。

実質賃金がプラスになり、豊かさを実感できて、はじめてペットを飼おうという気持ちが生まれるからです。

この物価高で、ペットフードの価格も毎年15〜20%上昇しています。なかには年に2回も値上げしたメーカーもあり、コロナ禍以前と比較すると、2倍以上にもなっています。

ペット関連の支出におけるフードは約4割と高い比率になっています。また、フードだけでなく、用品の価格も上昇しており、さらに家計の負担はますます大きくなっています。

このような状況では、新たにペットを飼いたくても飼えないと諦める人がで大半でしょう。また、無理して飼って、結局飼えなくなる人も増えることも予想されます。

悪いインフレ不況を再燃させないために、何ができるのか……。今回の「ペットフード原料の世界市場規模調査」から、わが国の置かれている厳しい現実を思い知らされたように思います。

[編集長 国久豊史]