自治体の「殺処分ゼロ」を手放しで喜んではいけない…「人間の都合で不幸になる犬・猫」が抱える”隠れた問題”

[2024/05/09 6:01 am | 編集長 国久豊史]

自治体の「殺処分ゼロ」を手放しで喜んではいけない

「人間の都合で不幸になる犬・猫」が抱える”隠れた問題”

PRESIDENT Online | 2024/5/3

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このコーナーでは、注目ニュースに対する編集部や識者のコメントを紹介します。

動物愛護の精神が浸透し、各自治体では動物の保護や譲渡を積極的に進めています。そのかいもあって、「殺処分ゼロ」を達成したとアピールする自治体も増えています。

しかし、その実態はこの記事で指摘されているとおり、自治体の努力というよりも動物愛護団体や保護活動を行っている個人などの多大な尽力があってこその成果ということです。

すでに多くの保護施設では、増え続ける保護犬や猫で収容数に限界がきています。そして、譲渡の現状も飽和状態=供給過多にあるといえます。それは、アフターコロナによる飼育放棄も拍車をかけています。

「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)は、改正のたびに厳格化されたり罰則が厳しくなったりしています。これまでも動物取扱業の適正化や終生飼養の明文化がなされ、令和元年(2019年)の改正では、規定の明確化など動物の権利と福祉にも踏み込みました。

しかし、法は万能ではありません。現に数値規制においてもいろいろな抜け道で事業を継続している繁殖業者(悪徳ブリーダー)はなくなっていません。

さらに、引き取り屋が動物愛護団体に名前を変えて堂々と譲渡会を開いているケースもあります。例えば、ある団体はペットイベントなどで繁殖を引退した犬や猫、さらには売れ残った犬や猫の譲渡会を開催しています。

その譲渡の条件には、諸費用だけでなくペット保険の加入が必須だったりしています。提携しているペット保険の営業が常駐している有り様です。そこには、動物に対する愛情や福祉よりも、利益目的としか思えない現状があります。

では、どうしたらよいのでしょうか。それはこの記事で指摘されているように「蛇口を閉める」ことだと思います。保護の現状は「流しそうめん」に例えることができます。流しそうめんは、半分に割った竹をつなげて水路のようにし、上流から水と一緒に素麺を流して、下流ですくって食べるものです。

当然ですが、ある程度でお腹いっぱいになってしまいます。素麺を消費するには、食べる人を変えないといけません。それも限度があります。素麺を流すのを止めないと下流で素麺が溜まっていきます。

素麺をペットの置き換えれば、蛇口を閉める=不幸なペットを生み出さないということです。具体的には、まず動物愛護管理法の数値規制をより厳密にすることです。段階的に厳格化されてきた数値規制が今年の6月から完全施行され、ブリーダーが飼育できる繁殖犬が15頭、繁殖猫が25頭になります。

しかし、この規制にも抜け穴があります。アルバイトを雇えば無限に増やすことができるのです。例えば、アルバイトを9人雇えば(雇ったことにすれば)、繁殖犬は150頭、繁殖猫は250頭飼育できることになります。そこで生み出される子犬や子猫の数も10倍になります。

ブリーダーは第一種動物取扱業として登録し規制もあります。しかし、アルバイトには厳密なルールが設定されているわけではなく、週に40時間以上勤務すればいいのです。実際に、ほとんど何もしていない家族をアルバイトとして雇用したことにして、数十頭の繁殖犬・猫を飼育している者もいます。

ブリーダーであれ、アルバイトであれ、動物の飼育に対する責任は同じです。であるならば、アルバイトであっても第一種動物取扱業の登録や動物取扱責任者にするなどの要件を設定すべきです。

むしろアルバイトにブリーダーと同じ飼育頭数を当てはめるべきではないと考えます。アルバイトを雇うのはブリーダーの自由ですが、飼育できる頭数はブリーダーごとに繁殖犬15頭、繁殖猫25頭に限定すべきでしょう。

そうすれば多頭飼育を防ぐことができ、動物の飼育環境も保たれます。さらに、自治体の内見でも違反を取り締まりやすくなります。

そして、その先にあるのが、ブリーダーの資格化です。獣医師や動物看護師と同様に、しっかり学び、試験を実施して合格した者だけがブリーダーとして業を営むべきなのです。

法律上はどうであれば、ペットはモノではありません。私たちと同じように命があります。安易に行を営むべきではありません。同時に私たちも、安易に飼って安易に放棄してはいけないのです。

[編集長 国久豊史]