情熱人 Vol.1

日本で初めてペット保険をつくった男

[2016/04/19 6:00 am | 編集部]

日本初のペット保険創設までの「茨の道」

今ではあたりまえになっているペット保険だが、日本における歴史は意外にも浅い。日本初のペット保険が誕生したのは1995年で、まだ20年程度しか経っていない。そして、新分野を開拓してビジネスにしていくには、単なる苦労話に終わらないストーリーがあるのだ。日本でペット保険を創設し、どのように普及させてきたかを追ってみた。

日本ペットオーナーズクラブ 代表取締役社長 野川 亮輔

日本初のペット保険を生み出したのは、日本ペットオーナーズクラブの野川 亮輔。世界最大の保険会社に勤務していた野川は、保険の業界紙を読んでいたところ、「動物愛護の先進国であるイギリスで、ペット保険の普及が進んでいる」という記事を偶然目にする。そのころの日本はといえば、まさにバブル絶頂期で、ペットは多くの家庭で飼われていたし、自身もペットを飼っていた。イギリスでのペット保険についての記事を読んだ野川のアンテナが反応したのは、まさにこのときだった。日本にはなぜペット保険がないのだろうか、と。

すぐにイギリスのペット事情やペット保険について、さらに日本のペット事情についてもリサーチを開始し、徹底的に追求していった。ペットの医療には公的制度がないために飼い主が治療費を全額負担していること。日本の臨床獣医師の医療技術レベルがペット先進国より20~30年は遅れていること。ペット保険はこのようなペットを取り巻く環境を改善する努力をしなければ、健全な発展は遂げられない、ということが見えてきた。

保険業界での経験が長い野川は、日本国内での事情や課題を踏まえたうえで、方法さえ間違えなければ、健全なペット保険を普及させることが可能だと確信した。「ペットに特化したよい商品をつくっていけば、必ず売れる」。そして、すぐに行動を開始。事業化を目指して50歳を前にして保険会社を退職した。ずいぶん安易に退職したと振り返るが、新分野の開拓は平坦なはずはなく、このときに「茨の道」に踏み出したのだ。

保険商品をつくる際には、病気の症例数などの統計を知る必要があるが、国内のどこを調べても、そんなものは一切存在もせず、しばらくは途方に暮れていたという。しかし、サクセスストーリーには、どこかで必ず明るい光が射すシーンがあるものだ。日本のペット保険においては、野川と日本を代表する獣医師との出会いだった。その獣医師から多くの指導を受けたうえ、数十名の臨床獣医師から統計に使えるデータをもらえることになったのだ。その統計がペット保険をつくるベースになった。

しかし、追い風は簡単には吹いてくれない。当時はペット保険という保険商品は認められていなかったのだ。そこで野川は1993年に会員制の「日本ペットオーナーズクラブ」を設立し、1995年に日本初のペット健康保険である「ペット共済制度」の販売を開始した。保険業界で長く生きてきたからには、いいかげんなものはつくれないという厳しい考えのもとに動いてきたため、健全な共済制度であるということを多くの飼い主たちに認識してほしいという強い気持ちがあった。

さて発売すると、ものすごい反響となる。ペットの飼い主は、ペット保険を望んでいたのだ。NHKの番組で紹介されたのがきっかけとなり、放送直後から電話が鳴りやまなくなった。契約者数も順調に伸びていった。日本初のペット保険は、ようやく帆に風を受けて進み出した。

追い風を受けて損保へも拡大

2003年に保険業法の改正に向けた動きが出ると、すぐに損害保険会社化を目指して準備会社を設立した。

その後、保険業法が改正されることになり、2006年4月に少額短期保険会社の登録申請を行う。日本初のペット保険を創設した身としては、どこよりも早く営業許可を取得したかったのだ。その甲斐もあり2006年11月に、ペット保険としては日本初の、少額短期保険「ペット&ファミリー少額短期保険会社」が誕生し、初代社長に就任。しかし、1年半後には辞任し、代理店として活動しながら次の展開を考えることにした。

その後、日本国内にペット保険を扱う保険会社が次々に設立され、現在でのマーケット規模は、保険料で推定280億円という規模に成長した。日本初のペット保険の創業者である野川にとって、誇らしい数字ではあるものの、健全経営という視点で見てみると、ペット保険業界全体が必ずしもそうではないと分析し、残念がる。

保険会社を経営するベースに「損害率」というものがあり、損害率が5割未満だと健全経営と言われている。しかし、実際には、損害率が7割を超えてしまっている会社が実に多いというのだ。健全経営のためには、損害率の改善は必須である。さらに、保証内容なども早急に再検討する必要がある。競争激化による新たな課題も出てきており、健全経営の原点に立ち戻り、さまざまな面で見直す時期が来ているのではないかと、野川は語る。

ペットと高齢者との「安心」関係

少額短期保険会社の社長を辞任し新たな展開としたのは、主に50歳以上の中高齢者および年齢不問の独身者向けの新しいペット事業「ペットあんしんケア制度」だった。経営理念は、「人と動物の絆の大切さを理解し合い、ともに健康で心豊かな潤いのある社会の実現に貢献する」。

現在の日本は本格的な高齢化社会を迎え、2025年には65歳以上の高齢者が全人口の約3割を占めると予想されている。ペット業界では年々、飼育動物が5%減少している(ペットフード協会調べ)という危機的状況にあり、そこには高齢者が動物を飼育するのをためらうケースが浮かんでくる。ペットを飼いたいけれど、自分の年齢を考えると最後まで面倒を見られるか心配である。自分が万が一のときにペットが行き場を失うのではないかという心配など、飼うこと自体をあきらめてしまう。

ペットが人に癒しを与えることは、飼い主なら誰もが感じることだろう。実際にペットと触れ合ったり、愛おしさを感じたりすると、「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンの分泌が促進されることが解明されている。これはオキシトシン研究の第一人者である東京農業大学の太田光明教授らが行ってきた研究だが、飼い主とペットの関係が良好であるほど、愛着が深いほど、オキシトシンの濃度が高まり、飼い主もペットも幸せを感じるというもので、自閉症や認知症への効果も研究されている。

とくに高齢者にとっては、ペットの存在意義は大きいものだ。夫婦ふたりの生活のなかで、また配偶者に先立たれた高齢者にとって、ペットはかけがえのない大切な家族の一員だろう。その家族が残されてしまった場合のことを心配するのは、当然の気持ちだといえる。それならば、その心配をなくしてあげられるような制度をつくろうと思ったのがきっかけとなり、「ペットあんしんケア制度」が生まれたのだ。また、飼育動物の減少傾向にある業界に対する危機感もあり、次のステップとしての意味合いも大きかったと野川はいう。

ペットあんしんケア制度は、日本ペットオーナーズクラブの会員を対象に2015年4月より会員募集を開始した。何かの理由でペットの面倒を見られなくなった場合に、登録している動物病院で飼い主に代わってペットを生涯預かるというものだ。

契約時には、何かあったときのための費用の準備が必要だが、日本ペットオーナーズクラブと信託契約を結んでいる信託会社の専用口座に預けられるため、法律により100%担保される。また、ペット保険の事業を通じて信頼のおける動物病院に登録してもらっているので、ペットを安心して預けることができる。この制度により高齢者のペット飼育が少しでも多くなり、幸せに暮らすことができればと語る。

獣医師会の推薦で全国展開を目指す

ペットあんしんケア制度は、東京都獣医師会から推薦を受けている。同理事会の推薦事業として民間企業に対して初めて承認されたものであり、野川としても大きな責任を感じているという。そして、社会的なニーズに応えるためにも、全国的な普及を目指すとのことだ。

推薦の言葉

                         公益社団法人 東京獣医師会
                              会長 村中 志朗

公益社団法人東京獣医師会は「人と動物のより良い共生社会を構築する」ことを目的とし、多種多様な公益事業を展開しています。また、中高齢者が動物と一緒に暮らすことは心身の健康を促進するうえで、非常に有益であることがわかっております。

この度登場したペットあんしんケア制度は、中高齢者が安心してペットを飼育できるシステムでありますので、動物の終生飼育、動物の福祉という点においても歓迎すべきものと思います。

飼い主は、ジェントルマンであれ

野川は、このペットあんしんケア制度は、まだ完成だとは思っていないという。世の中の人口減少のなかで、これはひとつの理想形であり、この仕組みと現在の料金体系などを受け入れてもらえるのは、ほんのひと握りの飼い主だ。今後は、もっと多くの人に受け入れてもらえるしくみを構築する必要があると考えている。

動物は飼い主にとても従順に寄り添い、癒やしを与えてくれる存在だ。その動物を守ってあげたいと考えるのは普通の心情である。飼い主の事情ですぐに保健所に連れて行くようなことは絶対にあってはならない。ペットというのは本来、誰でも飼えるものではないのだ。きちんと最後まで責任をもつことができなければ、飼う資格がないのだ。

だから飼い主は、社会生活を送る上でも模範にならなければいけない、ジェントルマンでなければならないと、野川は考えているという。この制度が世の中に必要とされてつくられたものであることを示すことで、多くの飼い主に「動物を飼うことの責任」を感じ取ってほしいと、熱く語ってくれた。

<野川 亮輔 (株)日本ペットオーナーズクラブ 代表取締役社長>
1969年:中央大学卒業 同年AIU保険入社 仙台支店長 東京本社営業推進部次長 事業開発本部営業開発室長など歴任
1993年:日本ペットオーナーズクラブ設立
1995年:日本初「ペット共済制度」の販売を開始
2003年:保険準備会社を設立
2006年:日本初の少額短期保険会社 ペット&ファミリー少額短期保険(株)誕生
     代表取締役に就任
2008年:代表取締役を退任
2014年:日本ペットオーナーズクラブの新事務所を千代田区に開設
2015年:「ペットあんしんケア制度」会員募集開始

【日本ペットオーナーズクラブ】
住所:〒102-0084 東京都千代田区二番町9-10
TEL:03-6261-4880 / 0120-111-876(お客様専用)
URL:http://www.petowner.co.jp

[編集部]