慢性腎不全に負けてたまるか!!

[2017/06/13 6:00 am | 編集部]

家族の一員である愛するペットが突然病気やケガに見舞われてしまった……。また、元気な姿に戻ってほしいと願い、インターネットで情報を集め、何度も病院へ。でも、不安な気持ちはぬぐい切れず、何が正解なのか、悩みは尽きません。この連載では、そんな愛犬・愛猫と飼い主の奮闘をご紹介していきます。同じ病気やケガを抱えるみなさんと一緒に、愛犬・愛猫の回復を願い、頑張りたいという飼い主の想いが込められています。読者のみなさまからの情報や応援メッセージもお待ちしています。

気がついた愛猫の異変

今回ご紹介するのは、滋賀県大津市の山本家の愛猫・リリーちゃんです。リリーちゃんは2010年2月24日生まれの現在7歳のメインクーンの女の子です。ブリーダーのところから里子としてやってきました。性格は少しシャイで、お客様が来ると隠れてしまうことがありますが、家族にはとても甘えん坊。お姫様のように大切に育てられています。今まで特に病気にもかからず元気に過ごしてきましたが、昨年末から気になる症状が……。

リリーちゃんの異変に気が付いたのは昨年末。食欲がなくなり、やせてきて、活力がなく、遊ぶことが少なくなってきたのです。好きだったフードもほとんど食べないため、飽きたのかといろいろなフードを用意してみましたが、状況は変わりませんでした。ちょうど、そのころ、ゴールデンレトリーバーが新しい家族になり、そのストレスがあるのかと思っていたのですが……。その後、尿が透明になってきたことで、これはおかしいとすぐにかかりつけの獣医に診察をしてもらいました。

愕然とした病名

2017年1月7日。血液検査の結果から告げられた病名は「慢性腎不全」。それも80%以上腎臓が機能していない進行状況を示す数値だと獣医師から説明がありました。BUN(尿素窒素)の基準値が16-36mg/dlに対して101.6mg/dlでした。これは脱水・腎不全・尿毒症・尿路閉塞などが考えられることを示します。

また、CRE(クレアチニン)の基準値が0.8-2.1mg/dlに対して6.1mg/dlでした。これは腎不全・尿毒症・尿路閉塞などが考えられることを示します。数値は腎不全が進み、尿毒症を起こしていることを告げていました。更に基準値ではあるものの、赤血球やヘマトクリットの数値が低く、貧血気味であることもわかりました。その結果には愕然としました。なんでもっと早く病気だと気が付いて、病院へ連れて来てあげなかったのかと悔やみました。その場ですぐに抗生剤の入った点滴(皮下補液)で主に水分を補う治療をし、自宅にて1日1回セミントラを飲ませるように、また、貧血に対しても3日間の造血剤を処方されました。
※セミントラは有効成分のテルミサルタンを含有する猫用の慢性腎不全の治療薬です。体重1kg当たりテルミサルタンとして1.0mlを、計量シリンジを用いて直接経口投与するものです。

情報収集の日々

この日を境に毎日夜中まで、この病気に関する情報収集が始まりました。とにかく心配で、藁にもすがる思いで見続けました。いままで、リリーちゃんが病気になるなんて思いもせず、病気に対して関心がなかったので、この病気に関する知識もありませんでした。知識があれば、もっと早い時期に病院へ連れて行くことができたでしょう。

慢性腎不全に関する情報を見れば見るほど「リリーちゃんに万が一のことがあったらどうしよう」という不安が募りました。しかしながら、ネットの情報はあまりにも多すぎて、また内容もさまざまで、どの情報を信用してよいのか迷いました。食べないときにはどうしたらいいかなど、もっと具体的なことが載っているサイトがあればよいのにと思いました。相談できる猫友達もいなかったため、ブリーダーにも相談しました。最終的には信頼する獣医師にその都度相談し、その指示に従うことが一番だという結論に達しました。

病院通いが始まる

病院までは片道車で40分。近くに別の動物病院がありますが、やはり以前から通っている獣医師に診てもらうほうが安心だと思い、少々遠くてもその病院へ行くことにしました。自営業なので比較的時間に融通が利くので、その点は本当に助かりました。食欲がまったくくないため、病院での毎日の治療は点滴(皮下補液)で、強制給餌もしました。リリーちゃんは嫌がる仕草を見せながらも我慢して少しずつ食べてくれたのが救いでした。

しかしながら、その姿は飼い主にとってはとてもつらいもので、涙がこぼれる思いでした。でも、食べなければ命が危険……。本当に複雑な思いでした。

慢性腎不全の食事(その1)

慢性腎不全の食事は専用の療養食があり、動物病院で購入できます。ドライフード、缶詰、パウチなど各社からでています。しかし、どれを与えてもリリーちゃんはまったく食べませんでした。

「とにかく食べないと体力が落ちて違う病気も併発することもあるため、療養食でなくてもいいから、とにかく食べることが大切です」と獣医師に言われました。そこで、10種類くらい用意してみました。しかし、どのフードもニオイは嗅ぐものの、食べることはありません。仕方なく、療養食も含め強制的に少しずつ口の中に入れて、時間をかけて食べてもらいました。少しでも食べるものを探して与えていました。ドクターズケアの療養食のキドニーケアは粒が小さいので飲み込みやすくリリーちゃんも食べてくれました。

また、ロイヤルカナンのパウチタイプ、それと「腎臓にやさしくつくられているので」とブリーダーに送ってもらった老猫用のスープタイプのウエットフードをスプーンで口の奥まで入れて与えました。これらも少しずつですが食べてくれました。水もたくさん飲んでもらいたいと願いながら、水飲み場も4カ所に増やしました。

2回目の血液検査

2017年1月13日。前回の血液検査から1週間後、2日目の血液検査をしました。BUN(尿素窒素)は48.1mg/dlCREが3.3 mg/dlで、基準値にはまだ届きませんが、半分の数値に下がっていました。ただ、貧血を表す数値に変化が見られませんでした。食欲不振が続いているための貧血かもしれないと、獣医師より食欲が出るという漢方薬を処方していただきました。これで、自力で食べてくれるといいなあと願いながら、今までの薬とともに毎日飲ませることにしました。

3回目の血液検査

2017年1月31日。2回目の血液検査から約2週間空けて、3回目の血液検査を行いました。相変わらず食欲もなく、元気もないので心配だったのですが、BUNは40.1 mg/dl、CREは2.9 mg/dlで、基準値にはまだ届かないものの、だいぶ近くなってきました。貧血の数値には大きな変化はありませんでしたが、食事を自力でとるようになれば改善されるでしょうとの見解でした。このまましばらくは同じ治療を続けることになりました。

慢性腎不全の食事(その2)

血液検査で数値が下がってきたこと、また獣医師より処方された漢方薬が功を奏したのか、リリーちゃんはしばらくすると少しずつ自力で食べ始めました。食べたフードは小さいころから好きだったロイヤルカナンの大粒のメインクーン、カナガン、銀のスプーンの15歳以上の海のグルメ。やはり好きだったフードが一番いいようです。これが体調回復のバロメーターかもしれません。

食欲が出てくるとともに、活力が出てきて、おもちゃなどにも関心を示すようになりました。じゃれて遊ぶ姿も見られるようになりました。飼い主にとって本当にうれしい瞬間でした。まだまだ心配がありますが、少しだけ安堵もしました。

続く通院

通院は2017年1月7日から2月末まで毎日続きました。そして、3月からは病状に回復が見られたため2~3日に1回の通院に変更になりました。環境の変化を嫌うリリーちゃんにとっては毎日の通院は本当につらいものだと思いますが、命を繋ぐためにはほかに選択肢はありませんでした。

1回の治療費は薬代も含めて3150円。血液検査などがある場合は1万円を超えました。1カ月(30日)に換算すると9万4500円。お金の問題ではないと思ってはいても、現実は飼い主にとって大きな負担です。山本さんはペット保険に入っていなかったため、全額を自費で支払っている状態。病気が発覚してからでは保険には入れないので、もしものときに備えて、保険を検討するべきだったと後悔しました。

慢性腎不全の新薬発売

リリーちゃんの体重は4.9kgに増えて、現在は小康状態を保っています。相変わらず療養食は食べませんが、自力で食事を取れるようになり、元気を取り戻してきました。おもちゃとじゃれたり、グルーミングもするようになりました。普段では当たり前のような行動や仕草も飼い主にはとても嬉しく、そして愛らしく思えます。

慢性腎不全は治ることはありませんが、少しでもいい方向に進むようにと願います。2017年4月から猫慢性腎臓病治療薬「ラプロス」(東レ)が発売となりました。これは1回1錠、1日2回飲ませるもので、ステージ2~3の慢性腎不全に対して腎機能低下の抑制と臨床症状の改善を促す薬です。

「今までの薬と成分的には似ているので、リリーちゃんに対して効果があるかどうかはわかりませんが、試してみましょう」と獣医師には言われています。飼い主としては効果があることを願うばかり……。ただ、完全に治る薬ではないので、小康状態を保ちながら、上手に病気と付き合う必要があるそうです。リリーちゃんとともに頑張ります!!

飼い主の教訓

  • 猫に体調の変化を見つけたらすぐに病院へ行くことが大切
  • もしものときに備えて猫に多い慢性腎不全について日頃から学んでおくことが大切
  • 療養食を食べなくても体力維持のためとにかく食べさせることが大切
  • 病気やケガで慌てないようにペット保険や貯蓄を検討することが大切
  • なんでも相談できる猫友達をつくっておくことが大切

参考:「イラストでみる猫の病気」
小野 憲一、今井 壯一、多川 政弘、その他編集 講談社 1998年

[編集部]