殺処分ゼロへの近道、それは優良ブリーダーから

[2017/08/10 6:01 am | ペットジャーナリスト 阪根美果]

数年前から「殺処分ゼロ」という言葉をさまざまなところで目にするようになりました。東京都の小池都知事をはじめ、各都道府県の自治体の取り組みとして、また多くの動物愛護団体などがこの言葉を掲げ、懸命に取り組んでいます。

しかしながら、年間の殺処分数は少しずつ減ってきてはいるものの、基本的な問題は解決していないと、7月12日に東洋経済オンラインに掲載された記事『「捨て犬」「殺処分」がなくならない本当の理由』に書かれていました。

なぜ、捨て犬が減らないのか。そこには日本のペット流通の「闇」があると指摘し、店頭での生体販売やビジネスライクでしか考えない生体販売業者等のペットの扱いについて言及しています。

そのうえで、新たに犬を飼いたい人にオススメの方法として、ブリーダーから直接譲り受けることと伝えています。しかし、ブリーダーとひとことで言っても玉石混交なのが現状です。理想的なのは、優良ブリーダーから迎えるという選択。では、優良ブリーダーとは? そして、そこから迎えるメリットは?

“真の”優良ブリーダーとは? その考えと見極め方

ペトハピでは、優良なブリーダーから子犬・子猫を迎えることを推奨しています。「ペトハピ太鼓判ブリーダー」は、飼い主と子犬・子猫にとって限りなく幸せに、また限りなく安全に家族に迎えることができるブリーダーを紹介している連載です。最前線にいるプロフェッショナルの優良ブリーダーから、同じ志を持ったブリーダーを紹介していただくのですが、そこにはいくつかの推薦の基準があります。そして、実際に取材して、掲載基準をクリアしたブリーダーのみを掲載しています。今回はその基準の詳細を説明しながら、“真の”優良なブリーダーから子犬・子猫を迎えることが、いかに健康で幸せな生活に繋がるのかを知っていただければと思います。

基準その1:愛情をかけて親犬・親猫を育て、健康重視の繁殖をしているか

動物は愛情をかけて育ててもらえば、とても穏やかで人懐っこく、従順な気質を持つようになります。そんな親から生まれた子犬・子猫は、同じような気質を受け継いでいることが多いのです。一般家庭で人と共に生活しながら暮らしている親犬・親猫も多いので、何ごとにも馴染みやすく、ストレスも感じにくい。自然と良い性格が形成されていきます。逆に言えば、性格に問題のある犬・猫は繁殖には向かないので、ブリードのラインには入れないという考えです。飼い主が困らないよう、良い気質を持った飼いやすい子犬・子猫を産出するよう努力しているからです。また、ブリーダーが親犬・親猫と毎日接することで、体調管理を万全にすることができます。それらは、多くの時間や手間を必要とします。ブリーダーにはそれができる深い愛情が必要なのです。

基準その2:飼育環境を重視しているか

飼育環境は健康を維持するためにとても重要です。ストレスを感じるような飼育環境では、親犬・親猫も病気になったり、体調を崩したりと、健康な子犬・子猫は望めません。清潔で衛生状態が良い、嫌なニオイがない、整理整頓された環境であることが望ましいと考えます。温度管理、空調管理、除菌消臭などへの対策がなされていること。また、運動ができる十分な飼育スペースを確保していることが大切なのです。狭いケージに閉じ込めたままなどということは皆無です。ただし、過度な除菌は自己免疫を作れず、逆に免疫力を低下させることになります。その点も考慮しながら、飼育環境を整える裁量が必要なのです。

基準その3:繁殖、そのほかに対するビジョンをきちんと持っているか

繁殖に対してきちんとしたビジョンを持っていないと、優れたブリーダーにはなれません。理想や展望を描くことができ、先々への見通しができる能力が必要です。計画的に繁殖を行うことが重要だからです。例えば、繁殖の頻度は、母犬・母猫の体調を考えたうえで、多くても2年間に3回の出産を基本にしています。それ以上の乱繁殖をすることはありません。また、繁殖した子犬・子猫が必要以上に残ってしまうことがないように交配も計画的に行っています。優良ブリーダーには、それぞれに繁殖に対する考え方、理想や展望をしっかりと語っています。そのビジョンがあるからこそ健康で、魅力溢れる子犬・子猫を作出することができるのです。

基準その4:親犬・親猫の血統を考えた繁殖、またスタンダードを理解し、それに沿った繁殖を目指しているか

血統を考えて繁殖をすることはとても重要なことです。過度なインブリード(近親交配)にならないようにすること、遺伝的疾患を継承しない組み合わせであることなど、健康な子犬、子猫を産出するために血統を考える必要があります。また、よりスタンダードに近い子犬・子猫を作出することはブリーダーとしての使命でもあり、「種の保存」を実践し、後世に繋げていくことが大切です。

犬であればJKC(ジャパン ケネル クラブ)KCジャパン、猫であればTICA(The International Cat Association)CFA(The Cat fanciers’Association)のショーに参加し、よりスタンダードに近い子犬・子猫を作出するためにつねに勉強をしています。その努力があるからこそ、健康で、その「種」の魅力をたくさん持っている子犬・子猫が産まれてくるのです。

基準その5:親犬・親猫・兄弟姉妹から離す時期をしっかりと考えているか(生後2カ月以降)

子犬や子猫は生後1カ月で離乳し、このころから広い場所に出て遊ぶようになります。ヨチヨチと歩き始め、いろいろなものに興味を持ち始めたころから生後3カ月くらいまでが子犬・子猫の社会化期と呼ばれ、この時期に母犬・母猫やそのほかの成犬・成猫、兄弟姉妹、人間と接しながら社会性を学んでいきます。接し方、遊び方などをその環境の中で習得していくのです。

この時期の経験が、成犬・成猫になってからの性格形成に大きく影響します。この時期に形成された性格は成犬・成猫になってもあまり変化がないと言われているので、社会化期にブリーダーのもとで過ごすことがいかに大切かわかるでしょう。早くに親や兄弟姉妹から離された子犬・子猫は、問題行動を起こすことが多いと言われているので、この時間こそ重要なのです。

基準その6:繁殖する犬種・猫種について深い知識があるか

繁殖をする以上は、その犬種・猫種についての知識が必要となります。ひとくちに、犬・猫といっても、種によって育て方や交配・繁殖・出産など留意することが違うのです。また、かかりやすい疾患や遺伝的疾患についても違いがあります。そして、「種の保存」をブリーダーの使命と考えて繁殖をしているため、その種のスタンダードについて勉強をしています。質の高い子犬・子猫を作出するためには、その種に関する高い知識が必要となってきます。優良ブリーダーは1~3種程度の犬種・猫種に限定して繁殖をしているため、その種について卓越した知識を持っています。それは机上の知識だけでなく、繁殖現場の経験からのみ得られる知見なのです。

基準その7:繁殖する犬種・猫種についての最新情報を収集しているか

ほとんどの優良ブリーダーは、ドッグショーやキャットショーに参加し、つねに自分の繁殖した犬・猫がスタンダードに沿っているかどうかを確認しています。また、同種のブリーダーと交流を持ち、情報交換をしています。国内だけでなく、海外のブリーダーとも交流を持っていることも多く、ワールドワイドで最新情報を入手しているのです。とくに遺伝子疾患に関することは海外のほうが進んでいるので、その情報をいち早く入手することは繁殖するうえで大切な要素と言えます。

基準その8:遺伝的疾患に対する予防や定期的な検査をしているか

それぞれの犬種・猫種によって、多いと言われる遺伝的疾患は違います。繁殖をする場合には、その種に多いといわれる遺伝的疾患を子犬・子猫が継承しないように、親犬・親猫に対して予防や検査をする必要があります。検査方法は疾患によりさまざまですが、優良ブリーダーたちは、それらの検査をクリアした親犬・親猫だけを繁殖のラインに入れて交配をしているのです。検査をしたからといって100%防げるわけではありませんが、予防や検査をしていない繁殖よりは格段に継承率は下がります。万が一、親犬・親猫に問題が見られた場合には、繁殖のラインからはずして継承を防ぎます。不幸な子犬・子猫を産出しないように、できる限りの対策をしているのです。

基準その9:自ら飼い主を厳選し、譲渡時には契約書等を交わしているか

子犬・子猫は飼い主を選ぶことができません。彼らの幸せな生涯はブリーダーにかかっています。優良ブリーダーは自ら飼い主を選びます。飼い主と対面し、衝動買いではなく、責任を持って飼ってくれるかどうか、しっかりと見極めます。犬種の使役目的や特徴、猫種の特徴などを飼い主に説明し、そのうえで、契約書を交わし、お互いの責任を確認しています。決してハードルが高いということではありません。子犬・子猫に対して愛情があるかどうか、それがブリーダーにとって最も重要な要素なのです。生涯にわたって大切にしてくれる愛情がある飼い主になら、魅力溢れる素敵な子犬・子猫を託してくれることでしょう。飼い主もブリーダーの人柄に触れることや、飼育環境、さらに親犬・親猫を見ることができるので、納得したうえで子犬・子猫を迎えることができるでしょう。

基準その10:譲渡後も飼い主からの相談にアドバイスし、犬・猫の生涯に渡って交流しているか

飼い主が生後2カ月以降に迎える子犬・子猫を、産まれる瞬間から愛情を込めてサポートしているのが優良ブリーダーです。その間にどのように成長したのかを知っている唯一の存在です。また、その種についての高い知識を持っているので、飼い主は安心してアドバイスを受けることができます。定期的にブリーダーから連絡をしたり、飼い主が近況報告をしたりして、良い交流が続いています。健康上何かあったとき、飼育上問題が生じたときなど飼い主が困ったときには、必ず手を差し伸べてくれる頼もしい存在です。万が一、飼い主が何かの事情で愛犬・愛猫を手放さなければならない場合もブリーダーがきちんと対応するので路頭に迷うことはありません。ブリーダーと飼い主が直接つながっているからこそ、生涯に渡りサポートできるのです。

「捨て犬」「捨て猫」「殺処分」になることはない

今回ご紹介した東洋経済オンラインの記事のような問題は、上記の基準をクリアしている優良ブリーダーから子犬・子猫を迎えることによって、解決できることが多いといえます。迎える段階からきちんと話し合い、ブリーダーと飼い主が責任を持ってその子犬・子猫の生涯を見守っていくことで、「捨て犬」「捨て猫」「殺処分」は確実に減ると思うのです。たとえば、下記のようなことです。

・迎える前にしっかりと話をするので、飼い主の衝動買いはない。=捨てられることはない。
・スタンダードに沿った繁殖で成犬・成猫になった姿が、その両親を見れば想像できる。思っていた成長時の姿とは違うということはない。=捨てられることはない。
・十分な社会性を身に付けてから飼い主に迎えられるので、しつけに困ることが少ない。問題があっても矯正できることが多い。=捨てられることはない。
・飼い主が困ったときには生涯にわたってブリーダーがサポートをしてくれる。=捨てられることはない。

優良ブリーダーにビジネスライクの思考はない

優良ブリーダーは、ビジネスのためだけに繁殖はしていません。家族の一員としてそれぞれに深い愛情を注ぎながら、「種の保存」のため、自らの幸せのため、また飼い主となる人に幸せを届けるために日々努力をしています。ですから、親犬・親猫が、また子犬・子猫が不幸になることはしないのです。例えば、下記のようなことです。

・飼い主が迎えるまでの移動が1回(ブリーダー→飼い主)で、直接お引き渡しをしているので、流通過程で子犬・子猫が亡くなることはない。
・計画的に繁殖をし、過剰な交配はしないので、増えすぎることがない。
・繁殖に対してきちんとしたビジョンを持っているので、ブリーダー崩壊にはならない。
・飼育環境を重視しているので、狭いケージに閉じ込めるような「飼い殺し」など皆無である。
・親猫の健康や遺伝的疾患について対策をしているので、不幸な子犬・子猫の産出を可能な限り防いでいる。

命あるものを迎えるための選択

子犬・子猫を飼いたいと考えたとき、どこから迎えるのかは飼い主となるあなたの選択です。命あるものですから、どこから迎えるにしても、生涯にわたり責任を全うする覚悟がなければ、飼い主も子犬・子猫も幸せな共生は望めないでしょう。とはいえ、ともに生活する中で、さまざまな壁にぶつかることがあります。そんなとき、自分の愛犬・愛猫を産まれたときから見守り、育ててくれたブリーダーがサポートしてくれたら、どんなに心強いことか。飼い主の大きな力になってくれることでしょう。

ペトハピでは幸せなペットとの共生のために、これからも「ペトハピ太鼓判ブリーダー」で優良ブリーダーを紹介していきます。

もし、あなたが子犬・子猫を新たに迎えたいと考えたときには、ぜひペトハピ太鼓判ブリーダーの記事をご覧ください。そして、命あるものを迎えるための最良の選択をしていただければと思います。

[ペットジャーナリスト 阪根美果]