ペットの健康を考えよう Vol.1
ペットと暮らしていると、やっぱり気になるのは病気や健康管理のこと。ここ最近、ペットの衣食住環境が向上したこともあり、人間同様にペットも高齢化が進んでいます。いまは元気いっぱいで健康でも、体調を崩したり体力が衰えたりする老後時代は必ず訪れるのです。そのときになって慌てないためにも、いまの元気なうちからペット医療についてきちんと考えておきましょう。
人や社会と生涯をともにする「コンパニオンアニマル」
愛するペットの体調が悪いときはもちろん、予防接種や健康診断、フードの購入など、さまざまな場面でお世話になることが多いのが獣医師、親しみを込めて呼ぶなら獣医さんです。みなさんのまわりにも、何かあったらすぐに駆けつけられる、頼もしい獣医さんがいらっしゃることでしょう。
では、その獣医さんは、私たちのペットライフにどのような恩恵を与えてくれるのでしょうか。日本獣医師会副会長の酒井健夫さんにお話をうかがってみましょう。酒井さんは、日本大学生物資源科学科学部教授として若き獣医師の育成に携わり、2008年からは同大学の総長も務められたという、世界の動物医療を知り尽くす方です。
「私たちは、ペットのことを『コンパニオンアニマル』、伴侶動物と呼んでいます。飼い主さんと連携を図りながら、人と動物が共存、共生する豊かで健全な社会をつくり上げることが私たちの仕事です。動物は家族の一員、生命の伴侶です。どちらか一方が健康であればいいというものではありません。私たちは、動物の健康管理はもちろん、飼い主の健康管理も大切に考え、マイクロチップの装着による個体識別の取り組み、犬猫殺処分ゼロを目指す国民運動の展開など、動物愛護と福祉の推進にも力を注いでいます。動物を飼育することは、その生涯をともに暮らす覚悟を持つということです。動物と人がともに幸せになるのです」
飼い主と動物、そして獣医さんが手を取り合って歩む世界が、真に素晴らしい共生社会だということです。ところでその獣医さんですが、どんなお仕事をされていると思いますか? 犬や猫を中心に診療している、街のお医者さん、というイメージしか思い浮かばない方も多いでしょう。しかし、こういった私たちに馴染みのある獣医さんは、獣医師の半数程度なのだそうです。
獣医さんは、私たちの暮らしの幅広い分野で活躍
「犬や猫、小鳥、エキゾチックアニマルなどの診療に携わる獣医師は『小動物臨床分野』と呼ばれる獣医師です。地域によっては、牛や豚など家畜の診療に携わる『産業動物臨床分野』の獣医師も身近な存在でしょう。しかし、獣医師の活動の場はさらに広いのです。家畜の伝染病の予防、食品の安全性確保や人畜共通感染症に取り組む『家畜衛生・公衆衛生分野』、医薬品の開発や安全性の確保を担う『バイオメディカル分野』、ほかにも教育分野や野生生物分野、動物愛護関係など多彩な分野で獣医師が活動し、公務員として仕事に携わる獣医師も少なくありません」
つまり獣医さんは、人々の暮らしのあらゆる場面で活躍しているのです。そして、動物医療技術や研究は、いわゆる動物医療先進国である欧米と肩を並べるレベルであり続ける必要があります。たとえば、動物や畜産物を国内に持ち込んだり、海外に持ち出したりする際に、健康状態や安全性を確認する検疫制度は世界共通で、獣医さんもその検疫の一翼を担っています。世界共通ですから、欧米と日本で技術力や研究力に差があっては成り立ちません。科学技術が進んだ日本は、動物医療も世界の最先端をリードしているものと思い込んでいました。欧米などに比べると、まだまだ見習うべきことはあるのだそうです。
「動物医療に対する歴史や文化の違いが大きいですね。動物医療は数千年前から存在したといわれます。狩猟民族にとって馬は生きていくために必要不可欠の存在ですから、早くから獣医療が発展したのです。対して農耕民族である日本では、馬が戦に使われた時代に”馬医者”がいましたが、獣医師免許ができたのは明治時代、現在のような、犬や猫を扱う獣医師が増えたのは1950年代です。しかし、その後の日本は獣医療技術や研究が急速に発展しました。とくにコンパニオンアニマルの医療体勢は、近年急速に充実してきています」
大手の動物病院を訪ねると、CTやMRIなど人と同じような高度医療機器が備えられていて驚くことがあります。各種の検査機関や薬品も充実し、高度な診断と治療が受けられるようになりました。また、ペットフードの進化も獣医療の発展に大きく寄与しているのだそうです。
「コンパニオンアニマルの医療体制は、人の医療体制に近づいています。医療技術の高度化に合わせ、獣医師と動物看護師に加えトリマーなどさまざまな職種のスタッフが協力する『チーム獣医療』が増加し、数人から数十人の獣医師が診療にあたる中規模病院、大規模病院も増えています。また、街の開業医が『かかりつけ医』となり、中大規模病院が高度医療を担う2次診療、3次診療も一般化しています。これらの取り組みもあって、昔は屋外で飼育されていたため4~5歳だった犬や猫の寿命は、主に室内で飼育されている現在は15歳前後にまでのびています」
獣医療の発展と進歩が、動物たちの健康と寿命を飛躍的に向上させたわけです。しかし、寿命が延びるにつれ、昔では考えられなかった問題も起こり始めています。次回は、どの子も避けることができない「ペットの老後」について、家族はどんなことをしてあげられるのか、介護や予防策など、私たちがすべきことをうかがっていきましょう。
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