「高齢者とペットの豊かな共生」先進事例を学ぶ
日本の行政における「殺処分数」はこの10年で大幅に減っているものの、未だ年間に約12万8000頭(猫:約10万頭、犬:約2万8000頭)が尊い生命を失っている(ここで、行政などが使用する「殺処分」という言葉は、人間が動物を殺すという、ある意味、動物の生命を大切にしていない言葉だ。事実、自分自身でも使っていたが、今後、「尊い生命を奪われた動物の数」を用いることにする)。
その一方で、犬の飼育頭数は減り続けており、特に60歳以上のシニア世代では、多くの方が「飼いたいけれど、自分の年齢を考えると世話をする自信がないから」「別れがつらいから」「死ぬとかわいそうだから」と、犬や猫などペットと暮らしたいが、飼うことをあきらめてしまう場合がある。また、動物愛護団体の中には、60歳以上の高齢者には動物と暮らさないようにし、シェルターの動物を譲渡することを禁止している。
現在、日本の女性の平均寿命は86歳を超え、健康寿命は74歳である。さらに、男性の平均寿命も80歳を超え、健康寿命は71歳になった。私は高齢者こそ、特にひとり暮らしの高齢者こそ、動物と暮らすことを推奨したい。先月に開催された、ペットとの共生推進協議会のシンポジウムでは、高齢者に無理やり動物を飼わせようというような趣旨の発言は誰もしていなかった。また、基調講演をされた東京農業大学の太田光明教授は、健康寿命延伸を考えると、高齢者にペットと暮らすことを推奨している。高齢者にペット飼育を禁止することは簡単だが、高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を高めるため、ペットとの真の共生社会を実現し、ペットとできるだけ長く一緒に暮らせるように、日本社会全体でインフラを整備することが最も重要である。
動物の好きな高齢者がペットと一緒に暮らすことは、健康寿命を延伸し、生活の質を高める効果が明らかになっている。それであれば、高齢者がペットを終生飼育できるよう、そのサポートの方法を考えることは、高齢者が健康で豊かな老後をより長く過ごすためにも、そして、尊い生命を奪われた動物の数を減らしていくためにも、有効である。
今回は、ペット先進国であるアメリカへの視察ツアーを企画したが、全米でも唯一無二といえる「ペットと終生に渡って共に暮らせる高齢者専用住宅」である「Tiger Place」をはじめ、シカゴで高齢者の飼育支援を行っている動物保護団体等の視察を行い、「日本ではどのように高齢者がペットと暮らすことを支援していけばよいのか」を考えるためのヒントを探った。ご参加いただいた皆様から、非常に勉強になったとの感想をいただいたのは、うれしく思った次第である。ツアーの訪問先の写真も少し紹介することにしたい。
また、人と動物のよりよい関係性から人間が享受できる効果について、動物介在活動(AAA)、動物介在療法(AAT)の現場などの施設を実際に訪問したり、タイガープレイスでは、IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organizations = 人と動物の関係に関する国際組織)の会長であるレベッカ・ジョンソン博士をはじめとする研究者たちによる研究発表のプレゼンテーションで、高齢者とペットの関係について、より考えを深め、今後の日本において、実践への道を探ることができたことは意義深かった。
ツアーには、流通業界の幹部の皆様、獣医師会の先生方、動物福祉に従事する方々、メディアやボランティアの皆様など、総勢15名のツアーであった。詳しくは、参加されたメディアなどからも紹介があると思う。なお、今後もツアーを企画する予定であるが、計画が固まったら「人とペットの幸せ創造協会」でも紹介することにしたい。
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