猫のゴロゴロ音には個体差がある? 鳴き声との違いを最新研究で解説
姿が見えなくても、「ニャー」という声や「ゴロゴロ音」を聞いただけで「鳴いているのはあの子だ」とわかる、という飼い主は少なくありません。複数の猫と暮らしている場合は、なおさらそう感じやすいかもしれません。
こうした感覚は、単なる思い込みなのでしょうか。それとも、猫の声には本当に一匹ずつ異なる音響的な特徴が含まれているのでしょうか。もし違いがあるとしても、それをどこまで「聞き分けている」と言えるのかは、簡単に判断できる話ではありません。
2025年に発表された研究では、猫のニャーとゴロゴロ音を音響解析し、どちらに個体由来の特徴が強く表れるかが比較されました。今回は、この研究でわかったことと、まだわかっていないことを区別しながら、愛猫の「いつもの音」を知るための観察のポイントを紹介します。

最新研究
ニャーよりゴロゴロ音に強い個体差が見つかった
イタリアとドイツの研究者らによる研究チームは、イエネコのニャーとゴロゴロ音に、どの程度の個体情報が含まれているかを音響解析によって調べました。
研究チームが当初立てていた仮説は、人への働きかけに使われることが多いニャーのほうに強い個体差が表れる、というものでした。しかし、実際の分析結果はその予想とは異なるものでした。
研究全体では、「ニャー」を14匹の猫から276件、「ゴロゴロ音」を21匹の猫から557件収集し、このうち両方の音を提供した8匹については、ニャーとゴロゴロ音を公平に比較するための均衡データセットとして、それぞれ117件ずつが抽出されています。音声を収集したイエネコは合計27匹でした。
この均衡データセットを使って、録音サンプルが正しい個体に分類できるかを分析したところ、ニャーは64.4%、ゴロゴロ音は85.5%の精度で、正しい個体に分類されました。
ちなみに8匹をランダムに分類した場合の偶然の一致率は12.5%であるため、いずれの音も偶然を大きく上回る精度ではありますが、ゴロゴロ音のほうが明確に高い数値を示したことになります。
ここで注意しておきたいのは、この「85.5%」が意味する内容です。これは猫そのものの85.5%を識別できたということではなく、飼い主や猫が85.5%の精度で音を聞き分けられたという意味でもありません。
録音されたゴロゴロ音のサンプルのうち85.5%が、音声認識にも使われるMFCCという音響特徴を用いたコンピューター上の判別分析によって、正しい個体に分類されたという結果です。人間の耳による聞き分けを調べた聴取実験ではない、という点は押さえておく必要があります。
研究チームは、分類精度とは別に、音にどれだけ個体情報が含まれているかを示す「stereotypy index(H_S)」も算出しました。ゴロゴロ音は4.47bit、ニャーは2.65bitでした。個体数に換算すると、ゴロゴロ音は約22個体分、ニャーは約6個体分のカテゴリーを符号化しうる情報量に相当します。
ただし、これはゴロゴロ音を使って22匹の猫を実際に聞き分ける実験に成功したという意味ではありません。人や猫が22匹を区別できることを示した結果でもなく、あくまで情報量としての理論的な換算値です。
なぜこのような差が生じたのでしょうか。ニャーは、食べ物への期待や人への働きかけなど、状況に応じて柔軟に変わる音です。猫が人に向かってニャーと鳴く理由には、猫の学習も関係していると考えられています。
一方、ゴロゴロ音は低い周波数でリズミカルに繰り返される比較的定型的な音であり、今回の研究では主に撫でられている場面で録音されました。研究者は、ゴロゴロ音に個体差が強く表れる背景として、発声器官の大きさや喉頭の構造、神経筋の働きなど、個体ごとの解剖学的・生理学的な違いが関わっている可能性を考察していますが、その因果関係を直接証明したものではありません。
研究では、イエネコの「ニャー」と、アフリカヤマネコやヨーロッパヤマネコ、ジャングルキャット、チーター、ピューマといった野生ネコ科5種の「ニャー」も比較されています。その結果、イエネコのニャーは、比較対象となった野生種よりも種内での音響的なばらつきが大きいことがわかりました。
この結果は、人間との生活のなかでイエネコのニャーが柔軟なコミュニケーション手段として使われるようになったという解釈と整合しますが、家畜化が音の変化を直接引き起こしたと実験的に証明したわけではありません。ただし、家畜化が音の変化を直接引き起こしたと証明した研究ではありません。
なお、今回の研究には、対象となったイエネコが限られた頭数であること、ニャーとゴロゴロ音の均衡比較は同じ8匹を対象にしていること、ゴロゴロ音は主に撫でられている場面で録音されたものであることといった条件があります。
飼い主や猫自身がどの程度声を聞き分けられるのかは調べられておらず、猫同士がゴロゴロ音で相手を個体認識しているかどうかも検証されていません。感情や健康状態を音から判定する研究でもなく、この個体差が長期間にわたって同じように保たれるのかも、今回の研究だけでは判断できません。
「音に個体差があること」と「動物の声を人間の言葉に翻訳する」ことは、まったく別の問題です。録音サンプルを個体別に分類できたとしても、その音が何を意味しているかを翻訳できたわけではないという点は、次のセクション以降でもたびたび触れることになります。
また、猫が人に向かってニャーと鳴く理由については、人とのやり取りのなかで学習的に発達してきた可能性が以前から指摘されており、今回の研究が示すニャーの柔軟さとも重なる部分があります。
日常での観察
愛猫の「いつもの音」を知るポイント
研究で確認されたのは、音響解析によって捉えられる個体差です。飼い主がコンピューターと同じ方法で聞き分けるためのコツが示されたわけではありません。日常生活で大切なのは、愛猫にとっての「いつもの音」と、その音が出る場面を、無理のない範囲で観察することです。
観察するときは、まずどのような場面で音を出したかが挙げられます。
食事の前、帰宅したとき、遊びたいとき、撫でられているときなど、場面によって音の出方が変わることは多くの飼い主が経験しているはずです。そのうえで、音の高さや音量、リズム、長さ、繰り返す回数、いつも同じ場面で似たような音を出しているかどうかにも目を向けてみると、その猫らしい傾向が見えてくることがあります。
音を出す直前と直後の行動、たとえば耳や目元、ひげ、尻尾、姿勢、体の緊張の具合、さらに食欲や活動性、睡眠、排泄、呼吸といった全身の様子も合わせて見ておくと、後で変化に気づきやすくなります。
これらの観察ポイントは、今回の研究で「飼い主による聞き分けに有効」と証明されたものではありません。あくまで、愛猫の普段の状態を知るための一般的な観察の視点として紹介しています。
多頭飼育の家庭では、「どの猫が、どの場面で、どのような音を出したか」を意識してみると、それぞれの違いに気づきやすくなるかもしれません。ただし、聞き分けられないからといって、猫への理解や愛情が不足しているわけではありません。猫を鳴かせるために触り続けたり、行動を強要したりする必要もありません。
必要であれば、スマートフォンなどで短く録音し、日時と「食事前」「撫でていた」といった状況をメモしておく方法もあります。実際の猫のゴロゴロ音を録音した例からも、一匹ずつ音の大きさや聞こえ方が異なる様子がわかります。
録音は、あくまで普段のふれあいを妨げない範囲で行いましょう。嫌がる猫を拘束したり、スマートフォンやマイクを顔や喉元に押しつけたりしてはいけません。睡眠や休息も妨げないようにします。
家庭で録音した音声は生活記録にはなりますが、感情や病気を判定する検査ではありません。音の波形や高さから、猫の感情や病気を自己診断しないことも必要です。
判断の注意点
個体を分類できても、気持ちは翻訳できない
ゴロゴロ音に個体由来の特徴が含まれていても、その音だけで猫の感情や要求、健康状態がわかるわけではありません。
ゴロゴロ音は、撫でられているときや親和的な接触の場面で聞かれることが多い一方で、不安やストレス、痛みを伴う場面で見られることもあります。そのため、「ゴロゴロしているから幸せ」「安心している」と一律に決めつけることはできません。
同じように、「音が変わった=病気」と決めつけることもできません。聞こえ方は、猫の姿勢や録音機器との距離、部屋の反響、周囲の生活音、マイクの性能、猫が動いているか横になっているかといった条件によっても変化します。一度だけ音が違って聞こえたからといって、それがすぐに病気を意味するわけではありません。
気になる変化があったときは、その変化が一時的なものか繰り返しているものかを確認したうえで、次のような点も合わせて見ておくとよいでしょう。
- 声枯れが続いていないか
- 食欲や飲水量に変化がないか
- 元気や活動性が低下していないか
- よだれや吐き戻しがないか
- 鼻水や目やにが出ていないか
- 呼吸が荒くないか
- 腹部を大きく使って呼吸していないか
- 歯ぐきの色に異常がないか
声の変化が続いていたり、食欲や活動性の低下、よだれや吐き戻しなどを伴う場合は、早めに獣医師へ相談しましょう。猫の鳴き声の変化には、上気道感染症をはじめ、喉頭の構造や機能に関係する異常が隠れていることもあります。
呼吸が苦しそう、腹部を大きく使って呼吸している、歯ぐきが青色や紫色、極端に赤く見えるといった場合は、様子を見るべきではありません。速やかに動物病院へ連絡してください。
まとめ
愛猫の「いつもの音」を知ることから始めよう
今回の研究が教えてくれるのは、猫の個体差を機械が聞き分けられるという事実と、鳴き声から気持ちや病気を読み取れるという話は、まったく別物だということです。
大切なのは、音そのものを診断材料にすることではなく、愛猫の「いつもの声」を普段から知っておくこと。それが、いつか訪れる変化に気づくための一番のヒントになります。
特別な聞き分けの技術を身につけようとせず、日々のふれあいの中で自然に育っていくものだと考えて、気になる変化があれば一つの音だけで判断せず、獣医師にも相談してみてください。


