シニア期の猫に気を付けるべき病気、健康を守るために知っておきたいこと
猫も人間と同じように、年齢を重ねるにつれて体にさまざまな変化が現れます。元気いっぱいに動き回っていた子猫時代や、大人猫として安定した生活を送っていたころと比べて、シニア期には健康面での注意が特に必要です。
しかし、猫は本能的に体調の悪さを隠す習性があるため、飼い主が異変に気づくのが遅れることがあります。そのため、シニア猫特有の病気や体調変化について深く理解し、早期に対処することが大切です。
今回は、シニア猫によく見られる病気や健康状態の変化について詳しく解説し、適切なケアや予防策について考えます。
加齢による猫の体の変化
シニア猫は、7歳ころから老化の兆候が見え始めることが多いです。体力の低下や毛艶の変化、食欲の減退などがその初期兆候です。また、免疫力が低下することで感染症にかかりやすくなったり、代謝が遅くなることで体重の変化が見られることもあります。
これらの変化は必ずしも病気を意味するわけではありませんが、日々の観察を通じて猫の健康状態をしっかり把握することが求められます。
シニア猫に多い病気
歯科疾患
猫の歯科疾患でもっとも多いのが歯周病です。歯垢や歯石が歯と歯肉の間に入り込み、歯周組織を破壊することで、口臭、歯のぐらつき、歯肉炎、そして最終的には歯の喪失を引き起こします。
歯周病は、口腔内の細菌が原因となり、歯磨きなどの口腔ケアが不十分な場合や、遺伝的な要因、全身疾患などが複合的に作用して発症します。
症状としては、口臭、歯肉が赤く腫れ、出血しやすい、歯の表面に黄色や茶色の歯石が付着する、歯がグラグラと揺れる、食欲不振、口を触られるのを嫌がるなどが挙げられます。
治療法としては、歯石除去、歯周ポケットの清掃、抗生物質投与、重症の場合は歯の抜歯などが行われます。予防には、毎日の歯磨きがもっとも効果的ですが、難しい場合には、歯磨きシートや指ハブラシなどもあります。また、定期的な獣医検診も忘れずに行いましょう。
胃腸疾患
胃腸疾患は、嘔吐、下痢、便秘、食欲不振など、消化器系の症状を総称して呼ばれます。原因はさまざまで、感染症(ウイルス、細菌、寄生虫など)、食物アレルギー、異物摂取、ストレス、膵炎、肝疾患、腎臓疾患などが挙げられます。
原因となる疾患によって異なりますが、共通して見られる症状としては、嘔吐、下痢、食欲不振などが挙げられます。
治療法は、原因となる疾患に応じて異なり、感染症の場合は抗生物質、アレルギーの場合はアレルゲン除去、異物摂取の場合は外科手術などが行われます。また、対症療法として、吐き気止めや整腸剤などが使用されることもあります。
関節炎
猫の関節炎は、関節軟骨がすり減り、関節に炎症を起こす病気です。特に高齢猫に多く見られます。関節軟骨は、関節のクッションのような役割を果たし、スムーズな動きをサポートします。しかし、この軟骨がすり減ると、関節に痛みや炎症が生じ、歩行困難や運動量の低下を引き起こします。
痛みを感じる猫は、関節を触られるのを嫌がり、ジャンプや高い場所への移動を避け、足を引きずって歩く跛行(はこう)が見られる場合もあります。関節炎の原因としては、加齢による軟骨の変性に加え、肥満や外傷、遺伝などが挙げられます。特に肥満は関節への負担を増大させ、発症リスクを高めます。
治療法としては、痛み止め、関節炎治療薬、運動療法、体重管理などが行われます。痛み止めは炎症を抑え、運動療法は関節の動きを維持し、筋肉を強化します。体重管理は関節への負担を軽減するために重要です。
心臓疾患
猫の心臓疾患は、心臓の構造や機能に異常が生じる病気の総称です。代表的なものに肥大型心筋症(HCM)があります。肥大型心筋症は、心臓の筋肉が肥大し、血液を送り出す力が弱まる病気です。
肥大型心筋症の症状としては、呼吸困難、咳、運動不耐性、食欲不振、体重減少などが挙げられます。これらの症状は、心臓が十分に血液を送り出せないために起こります。肥大型心筋症の原因は、遺伝的な要因が大きいと考えられています。一部の猫種は、肥大型心筋症になりやすい傾向があります。
治療法としては、利尿剤、心臓薬などの投与、食事療法などが行われます。利尿剤は、体内にたまった水分を排出することで、心臓の負担を軽減します。心臓薬は、心臓の収縮力を高めたり、心拍数を調整したりする作用があります。食事療法では、ナトリウム制限やタンパク質制限を行うことで、心臓への負担を軽減します。
腎臓疾患(特に慢性腎不全)
腎臓は、血液中の老廃物をろ過し、体外へ排出する重要な役割を担っています。慢性腎不全は、この腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。初期には自覚症状が乏しいことも多く、進行すると食欲不振、多飲多尿、体重減少、嘔吐、下痢などがみられます。
原因は、遺伝的な要因や感染症、高血圧、尿路閉塞などが挙げられます。治療は、食事療法や水分補給、薬物療法などが中心となります。食事療法では、リンやタンパク質の摂取量を制限し、カリウムの多い食品を避けることが重要です。水分補給は、脱水症状を防ぎ、老廃物の排出を促すために欠かせません。薬物療法では、血圧をコントロールしたり、貧血を改善したりする薬剤が使用されます。
糖尿病
膵臓から分泌されるインスリンが不足したり、効きが悪くなったりすることで、血糖値が上昇する病気です。高血糖状態が続くと、多飲多尿や体重減少、食欲増加にエネルギー低下、白内障、口内炎、被毛の脱毛、皮膚感染症などの症状が現れます。
遺伝的な要因は、肥満や膵炎などの原因が考えられます。インスリン注射や食事療法、運動療法などの治療が行われます。インスリン注射は、不足しているインスリンを補い、血糖値をコントロールするために必要です。食事療法では、炭水化物の摂取量を制限し、血糖値の急上昇を防ぐことが重要です。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。甲状腺ホルモンには代謝を促進する働きがあり、過剰に分泌されることで体が興奮状態になり、体重減少、多動、食欲増加、嘔吐、下痢、心拍数の増加、被毛の脱毛、神経過敏などの症状が現れることがあります。
主な原因は甲状腺腫瘍であり、その多くは良性(腺腫)ですが、まれに悪性(癌)である場合もあります。治療法としては、薬物療法、放射線治療、手術などがあります。薬物療法では、甲状腺ホルモンの合成を抑制する薬剤が使用されます。放射線治療は、放射性ヨウ素を用いて甲状腺組織を破壊し、ホルモン分泌を抑制します。手術では、腫瘍を含む甲状腺組織を摘出します。
がん
猫のがんは、ヒトと同様にさまざまな臓器に発生する可能性があります。リンパ腫、乳腺腫瘍、皮膚腫瘍などが比較的多く見られます。腫瘍の種類や進行度によって症状は異なりますが、一般的に、腫瘤の形成、体重減少、食欲不振、元気消失、咳、呼吸困難などが挙げられます。
がんの原因は明確に解明されていませんが、遺伝的な要因、ウイルス感染(猫白血病ウイルス(FeLV))や猫免疫不全ウイルス(FIV))、環境要因(タバコの煙や有害物質への曝露)などが複合的に関与していると考えられています。
治療法としては、手術、化学療法、放射線療法が行われます。手術では腫瘍を可能な限り切除し、化学療法では抗がん剤を用いてがん細胞の成長を抑制または破壊します。放射線療法では、高エネルギーの放射線を用いてがん細胞を破壊します。これらの治療法は、がんの種類や進行度、猫の年齢、全身状態によって選択されます。
また、がん治療の予後は、がんの種類や進行度だけでなく、早期発見かどうかによっても大きく影響を受けます。定期的な健康診断や早期の異常発見が、治療成功の鍵となります。
認知症
猫の認知症は、加齢に伴い脳の機能が低下することで、記憶力、学習能力、判断力などが低下する病気です。徘徊、夜鳴き、排泄の失敗、隠れる、人とのコミュニケーションが減るなどの症状が現れます。原因としては、脳の老化、脳血管性の変化、神経変性疾患などが考えられています。
治療法としては、原因となる疾患に対する治療、薬物療法などが行われます。環境エンリッチメント(おもちゃや隠れ家などを設置したり、静かな場所で生活できるように生活環境を豊かにする)も、認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。薬物療法では、認知機能改善薬や抗不安薬などが使用されることがあります。認知症にはさまざまな種類があり、症状も個体差が大きいため、早期に獣医師に相談することが重要です。
耳や目の障害
猫の聴覚や視覚の喪失は、加齢や病気によって起こります。聴覚障害は、呼びかけに反応しない、大きな音に驚かない、頻繁に頭を傾けるなどの症状が現れます。視覚障害は、物にぶつかる、目が充血する、瞳孔の反応が悪いなどの症状が現れます。
聴覚障害の原因としては、内耳炎、中耳炎、加齢などが挙げられます。視覚障害の原因としては、白内障、緑内障、網膜剥離、高血圧、糖尿病などが挙げられます。治療法は、原因となる疾患によって異なり、内科治療、外科手術などが行われます。
自宅でできるケア
シニア猫の健康管理では、早期の兆候に気づくことが重要です。特に、食事やトイレ、行動に変化が見られた場合は、すぐに獣医師に相談しましょう。慢性腎臓病の予防には適切な水分補給が欠かせません。ウェットフードを取り入れたり、猫用の水飲み場を複数設置することで、水分摂取量を増やすことができます。さらに、低リン食を提供することで、腎臓への負担を軽減できます。
甲状腺機能亢進症や糖尿病の予防には、適切な体重管理と栄養バランスの取れた食事が大切です。定期的な健康診断を受けることも重要で、シニア猫には年に2回以上の健康チェックを受けることを推奨します。体重管理を行い、肥満や痩せすぎを防ぎましょう。
関節炎のリスクを軽減するためには、猫が快適に過ごせる環境作りが必要です。高い場所に登りやすいステップを設置したり、柔らかい寝床を用意することで、関節への負担を減らせます。歯周病予防には、歯磨き習慣の確立と定期的な歯科検診が効果的です。
シニア猫は環境の変化に敏感になりやすいため、急激な変化を避け、静かな空間を提供することがストレスの軽減につながります。また、軽い運動を取り入れることも健康維持に役立ちます。おもちゃを使って無理なく遊んだり、猫が自然に動く環境を整えましょう。
シニア猫のケアは、日常的に注意を払い、早期に対処することで、健康なシニアライフをサポートできます。
まとめ
シニア猫の健康を守るためには、日常的な観察と早期の対応が重要です。この記事で紹介した病気や体調の変化を参考にしながら、定期的な獣医師の診察を受けることや、適切なケアを実践しましょう。
愛猫との健やかな日々を長く楽しむためには、ちょっとした工夫や意識の変化が大きな差を生むことを忘れずに、愛猫に最適なサポートを続けていきましょう。