さまざまな病気から愛犬を守る、混合ワクチンって何?

狂犬病予防接種、フィラリア対策とともに、愛犬の健康と生命を守るための重要な対策が「混合ワクチンの接種」です。しかし、混合ワクチンの内容について詳しく知っている飼い主さんは、案外少ない印象があります。今回は、混合ワクチンの基礎をご紹介しましょう。

混合ワクチンは、複数のワクチンをまとめたワクチンです

まず、混合ワクチンとは何か? について考えていきましょう。ワクチンについては、人も接種しますから、ご存じの人も多いと思われます。インフルエンザワクチンを毎年接種している人もいらっしゃることでしょう。

ワクチンとは、ウイルスなどの感染によって起きる病気を、自らの免疫力を高めることによって予防するための薬です。毒性を弱めたり無毒化した病原体を注射することで、体内に免疫をつくり出し、次に病原体に感染した際の発症を抑えたり、症状を軽くすることが期待できるわけです。

混合ワクチンとは、さまざまなワクチンをひとつにまとめ(混合し)、1度の接種で複数の感染症に対する免疫をつくり出すワクチンです。ジフテリア、百日咳、破傷風・ポリオの4種混合ワクチンなどいくつもの種類があり、子育て中の人にとっては馴染み深いものでしょう。犬の混合ワクチンも、人の混合ワクチンと基本的な考え方は同じです。もちろん、人と犬ではかかる病気が異なりますから、混合ワクチンは犬専用の物が使われます。

では、なぜ混合ワクチンを接種するのでしょうか。愛犬が病気にかかるのを防ぐため、と答えた人は、残念ながら半分だけ正解。もうひとつの重要な理由は「病気が広がるのを防ぐ」ためです。狂犬病対策フィラリア対策の回でもご説明しましたが、自分の愛犬なのだから予防接種を打つも打たないも個人の自由だ、などと考えてはいけません。それは言い換えれば「自分さえよければ、他人やほかの犬がどうなってもかまわない」と宣言しているのと同じことだからです。人と犬とが幸せに、健康的な共生社会を築いていくためには許されない考え方だと言えます。

とはいえ、ネットなどを検索すると、混合ワクチンは不要だ、ワクチンを接種すると副作用があるから打つべきではない、ワクチンの免疫は1年では失われない、家の中だけで飼っていれば感染症など気にしなくていい、など、ワクチン接種を忌避するさまざまな情報が見つかります。なかには、混合ワクチンは製薬会社や獣医さんが儲けるために接種をゴリ押ししているだけだ、などという情報もあります。こういった情報にはついつい飛びついてしまいがちですが、ちょっと待ってください。そもそも、獣医さんが儲けているかどうかと混合ワクチンの有効性については何の関連もありません。できれば混合ワクチンについて勉強し、正確で科学的なデータを集めて判断したほうがいいでしょう。

混合ワクチンには、いくつかの種類があります

犬用の混合ワクチンには、2種~9種混合までさまざまな種類があります。専門知識を持たない私たち一般の飼い主にとっては、どれを選んだらいいものか迷うところです。よく耳にするのは「5種混合」「8種混合」ですが、ここはやはり獣医さんに相談するのがもっとも確実でしょう。とはいえ、そのワクチンを選ぶことでどんな病気の予防になるのか、程度は知っておくべきです。

「5種混合ワクチン」は、犬に感染すると危険性が高く、命を落とすことが珍しくない5種の感染症を予防するためのワクチン。対応する5つの病気は以下のとおりです。

  • 【犬ジステンパー】
    ワクチン接種の習慣が広く行き渡る前は、犬の感染症としてよく耳にした病気です。ジステンパーウイルスの感染によって発病し、接触感染に加え、空気感染の危険もあります。発熱や咳、鼻水、下痢など人間の風邪のような症状が現れ、1~2カ月の間に9割前後の犬が死亡します。
  • 【犬伝染性肝炎】
    犬アデノウイルスの感染によって発病し、肝臓が侵されます。子犬のころに感染すると1日も耐えられずに死ぬ場合が多い、恐ろしい病気です。
  • 【犬伝染性喉頭気管炎】
    犬伝染性肝炎とは型が異なるアデノウイルスなどの感染によって発症します。風邪と聞くとたいしたことがなさそうに思えるかもしれませんが、感染力が強いうえに、肺炎に移行すると生命に関わります。
  • 【犬パラインフルエンザ】
    「ケンネルコフ(犬の風邪)」などと呼ばれます。人の風邪と同じように冬に多く見られ、くしゃみや咳、鼻水、発熱、下痢などの症状が現れます。
  • 【犬パルボウイルス感染症】
    犬パルボウイルスの感染によって発症する伝染病で、消化器が侵され激しい下痢や嘔吐を引き起こします。子犬のころにかかると死亡することも珍しくありません。

以上5種類が、必ず予防しておきたい病気です。8種、9種混合などのワクチンは、上記の5種類に「犬コロナウイルス感染症」「犬レプトスピラ感染症(型が異なるもの各種)」を追加したワクチンですが、この2種類は感染の機会が比較的小さいため、自然の中に出かけることが少ない都市部の犬にとっては、必ず予防しなくてはならないとまでは言えません。とはいえ、犬と一緒に旅行をする、ドッグランなどでほかの犬と遊ばせるなどの機会がある場合は、5種混合ではなく8種、9種を選んでおくと安心でしょう。

ワクチン接種の費用は、ワクチンの種類や犬の体重、獣医さんによって異なりますが、小型犬~中型犬で1万円を見ておけば足りるでしょう。また、成犬は基本的に年1回の接種が目安となります。接種時期はとくに決まっていませんが、ワクチンは毒性が抑えられているとはいえ、犬の身体にそれなりの負担をかけますので、犬の体調がいい時期、犬にとって負担が少ない季節を選ぶと安心です。ちなみにわが家のサモエドは、気温が低くなり夏バテから回復した晩秋から初冬に接種。狂犬病ワクチンやフィラリア対策と時期を分けるという狙いもあります。日ごろから獣医さんと仲よくしておくと、こういった接種のコツも教えてくれるはずです。