家庭動物の防災対策、十分な備えを

東日本大震災では、死亡した犬は約3100頭、保護された犬と猫は約2000頭、飼い主と一緒に避難所に避難した犬と猫は約1400頭と推定されています。保護された犬や猫は、3カ所のシェルターで過ごしていましたが、飼い主や新たな飼い主に引き取られ、シェルターは閉鎖されました。

日本獣医師会や地方獣医師会をはじめ、全国の獣医師は、1995年1月の阪神淡路大震災、2000年3月の有珠山や2000年7月の三宅島の噴火災害、2004年10月の新潟中越地震等の際に行ってきた動物救護活動の経験を生かし、東日本大震災直後より、被災地で被災動物の救護や保護、傷病動物の治療、避難所や仮設住宅で暮らす飼い主への飼育相談、動物救護活動を行う獣医師への支援、動物救護シェルターの運営に取り組んできました。

また、日本獣医師会は、動物愛護の推進及び動物と人の絆を守る観点から、緊急災害時に被災した動物の迅速かつ適切な救護を目的に、日本動物愛護協会、日本動物福祉協会、日本愛玩動物協会と協力して、1996年から「全国緊急災害時動物救援本部」の活動に参画しています。

 こうした中で、アニコム損害保険株式会社がペット保険契約者に対して行った家庭飼育動物の防災対策に関する調査結果が、「アニコム家庭どうぶつ白書2014」に掲載されており、たいへん興味深く読みました。家庭動物のための防災対策を行っている飼い主は64.9%と過半数を超えており、防災に対する意識の高いことがわかります。また、具体的対策としては、キャリーバックやリード等のペット用避難用品の準備が60.8%、共同生活できるようワクチン接種やノミやダニの予防措置が56.3%、鑑札や迷子札の装着が32.2%、マイクロチップの装着が29.5%、ケージに入れたり、吠えないなど他人に迷惑をかけないしつけが27.1%であり、多くの飼い主が具体的な対策を講じています。

さらに、「避難用品として準備しているもの」として、キャリーバッグやケージが60.7%、リードや首輪が60.1%、備蓄フードや飲み水が52.2%、トイレ用品が45.2%、携帯用の食器類が33.5%で、同行避難を重視して準備が十分にされていると推測できます。また、実際に災害に遭われた経験のある飼い主への調査では、「準備しておけばよかったと感じたもの」は、備蓄フード・飲み水、トイレ用品、預かってくれる場所、マイクロチップ、鑑札や迷子札、避難場所や避難経路の確認、ケージなどに入れても落ち着いていられるしつけでした。このように動物に日常的に使用するものや、動物が特定できるマイクロチップや迷子札の装着などが大切であると回答していています。

なお、2015年6月に環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室が発行した「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」で、「同行避難」とは災害発生時に飼い主が飼育している動物を同行して避難場所まで安全に避難することであり、避難所での人とペットの同居を意味するものではないと定義しています。また、同「救護対策ガイドライン」には、これまでの大規模災害の経験から、飼い主とペットは同行避難すべきであり、その同行避難を円滑に実施するためには、災害時だけでなく、日頃から飼い主の備えが重要であると記載されており、「アニコム家庭どうぶつ白書2014」の記載と同様でした。

環境省自然環境局のサイトには、「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」が掲載されているので、ぜひ一度チェックしてください

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、大規模な地震とそれに伴う津波、さらに原子力発電所被災によって甚大な被害が生じました。災害発生時、住民は緊急避難を余儀なくされたため、自宅に取り残され、飼い主とはぐれたペットが放浪状態となった例が多数生じました。そして、飼い主とペットがともに避難できた場合でも、避難所では動物が苦手な人たちや、アレルギーを含む多くの避難者が共同生活を送るため、一緒に避難したペットの取扱いに苦慮する例も見られたと記載されています。このため、環境省では、自治体等が地域の状況に適した独自の対策マニュアルや動物救護体制を検討する際に、参考となるよう災害時におけるペットの救護対策ガイドラインを作成しました。

首都直下型地震や南海トラフ地震等、巨大地震の発生が論じられる今日、災害時には飼い主に平常時以上の多くの負担と責任が求められるので、飼い主は平常時からこのようなガイドラインや行政機関、地方獣医師会からのアドバイスを参考に、具体的対策を準備しておく必要があります。