人、ペット、そして社会のための「飼い主の教育」(後編)
前編では、日本愛玩動物協会の取り組みとして、教育、とくに愛玩動物飼養管理士の資格についてふれてきました。毎年1万人以上が受講し、資格取得者の累計は約14万人。ともに立派な数字ですが、東海林会長は就任当初からこう考えていたそうです。
「年間1万人受講したとしても、全国のペット飼養者を約4000万人とすると、教育の機会を広げるという意味では物足りません。もっと平易で、たとえばこれからペットを飼い始める家族が、手軽に勉強できる機会をつくれないものかと考えていました。ようやく形になったのが『ペットオーナー検定』。今年度は7都市のみですが、来年度からは全国の各支所で最低1回は実施していく予定です。検定の内容は、40分の飼い方セミナーに参加していただき、10分の休憩を挟んでの試験。公式テキストを用意しているので、事前に勉強しておけば、かなりの確率で合格できるのではないでしょうか。愛玩動物飼養管理士に比べるとやさしい基礎的な内容です。もちろん合格者には資格認定証を発行します。まずは年間1万人を目指していますが、自治体や企業から一緒にやろうという問い合わせもいただいているので、出だしは順調です」
公式テキストを見ると、体の仕組み、飼い方、しつけ方、ペットフード、法律、ペットの意思表示など、飼い主として知っておくべき内容で、確かに問題としてはやさしいもの。子どもでも答えられる問題も多く、家族がそろって受験することにより、家族のコミュニケーションを活発にする効果もありそうです。
基本知識とマナー、道徳心を盛り込む「ペットオーナー検定」
ペットオーナー検定の問題も東海林会長が考えたそうですが、基礎知識以外に、飼い主やこれから飼い主になる人たちに知っておいてほしい情報も問題として盛り込まれています。たとえば「犬や猫の入手先の説明として、正しいものは次のどれでしょうか?」という問題。回答だけでなく、それぞれに解説文があり、犬の場合は約50%がペットショップから。欧米ではアニマルシェルターなどから譲り受けるケースが多いのに、日本では認知度が低い、などとあります。
「アニマルシェルターなら、ある程度しつけられた犬を無償で譲り受けられます。最初からしつけるより負担は少なくなるし、やんちゃな子犬より成犬のほうが高齢者も飼いやすい。そういう情報を知ってもらうきっかけとしても、ペットオーナー検定を利用していきたいと思います」
災害時の同行避難についての項目もあります。避難所には学校の体育館などが使われるケースが多くなりますが、知らない人が大勢いる場所で、おとなしくしていられるか。ほかの動物に興奮したりしないか。基本的なしつけができていないと、同行避難ができなくなることもあります。実際、犬が騒ぐため避難所にいられず、クルマのなかで寝起きしていた結果、エコノミークラス症候群で亡くなってしまったケースもあるのです。
マイクロチップについても、東海林会長は「飼い主ならその必要性を認識しておくべき」として、テキストの項目として入れています。以前に比べれば数は増えていますが、その背景には、環境省時代の東海林会長の働きかけがあったそうです。
「獣医師会と一緒に、マイクロチップの普及を目指したとき、問題は読み取るリーダーを持っている自治体がほとんどなかったことです。財務省に掛け合い、モデル事業として予算をつけてもらい、いくつかの自治体に設置しましたが、それだけでは限界があります。自治体はどこも予算が厳しく、なかなかリーダーの普及は進まなかったのですが、動物愛護法の改正のとき、危険動物にマイクロチップの装着が義務づけられました。すると、自治体としてはリーダーがなければ対応できません。それがきっかけで全国の自治体にリーダーの導入が進み、現在は100万頭のペットがマイクロチップを装着しています。とはいえ、欧米に比べればまだまだ。異物を埋め込むことに拒否反応を示す飼い主も多いのですが、たとえば災害で離ればなれになったとき、自分が飼っていたペットかどうかを見分けるのは大変です。でも、マイクロチップを装着していればすぐに識別できます。メリットの多いものなので、もっと理解を広めていくのも我々の役目だと思っています」
成熟した飼い主を増やし、将来的に「ゆるやかなライセンス制」へ
東海林会長が思い描く理想の形は、ペットを飼うときの「ゆるやかなライセンス制」だといいます。ペットはいうまでもなく命を持つ生き物であり、飼い主にはそれ相応の知識と責任、倫理観を求められるべきだと。それが「ペットオーナー検定」の目指すところで、ペットを飼うハードルを上げるのではなく、成熟した飼い主を増やすことで、ペットと一緒に暮らす機会を増やすことにつなげたいと考えています。ペットと過ごす時間は楽しいもの。その時間が少しでも長く続くように、飼い主として勉強しなくてはいけないと、東海林氏は何度も繰り返しました。
「ただ、ライセンス制の導入といっても、なかなかハードルは高い状況にあります。平成17年の法改正の際、ペットショップに対して購入時に事前説明をすることが義務づけられました。これは見方を変えると、飼い主は事前説明をペットショップから受けなければ飼えないわけですから、形を変えたライセンス制といってもいいかもしれません。私は行政の現場を離れましたが、将来、ゆるやかなライセンス制へと発展することを期待しています」
ライセンス制というと、厳しく管理される印象を受けるかもしれませんが、ただ規制するのではなく、イメージするのは、人とペットがどちらも安らかに暮らせる社会。そのために、ペットツーリズムの協議会をつくったり、ペットの未来を語り合うコンソーシアムを開催したりするなどして、さまざまな団体、企業が大同団結する仕組みも東海林氏は模索しています。
どんな未来が待っているのか期待しながら、私たちもこれまで以上に飼い主としての知識やマナーを身につけていきたいですね。
コメントを送信