犬種によって、しつけやすさは違うの?
「うちの子はおばかさんだから、しつけてもなかなか覚えてくれないの」と笑いながら愚痴をこぼす飼い主さんがいます。犬の性格はみんな違いますし、犬種ごとの個性も見逃せません。では、藤田先生が1300頭以上ものトレーニング経験から割り出した、しつけにくい犬種はどれでしょう? しつけに失敗する飼い主さんの傾向なども交え、話をうかがっていきましょう。
しつけは、じつは難しいのです
藤田先生は、獣医学部を卒業され、JKCの家庭犬訓練士資格を持っています。JKCの資格は、誰でも気軽に受けられるものではありません。藤田先生も、師匠のもとで何年も修行を積み、何段階もの試験をクリアしたのちにドッグトレーナーとして活動を始めました。それだけ知識と経験が豊富なのですから、開業当時から敏腕トレーナーとして活躍されていたのでしょうか?
「とんでもない。最初はうまくいかないことも多かったですね。飼い主さんを脅かすつもりはないのですが、じつは、犬を思いどおりにしつけるのは、案外難しいものなのです。トレーニング中にガブッと咬まれたり、トレーニングの効果がなかなか出なくて悩んだり、しつけの方法を飼い主さんにうまくお伝えできなかったり、いろいろと苦労しました」
藤田先生の腕を見せていただいたら、あちこちに咬み傷が。なかには咬まれたばかりで、治りきっていない傷もありました。プロでも咬まれてしまうのですから、何の勉強もしつけもせず、安易に犬を飼うべきでないことがよくわかります。
「最近は咬まれていなかったのですが、先日久しぶりにガブリと。一般的に、犬が自分から進んで人を咬みに来ることはほぼありません。しかしその犬は、飼い主さんと話していたときにスーッと寄ってきて、前触れもなくいきなりガブリ、でした。咬まれたのが私ですから大事にはなりませんでしたけれど、子どもなどをいきなり咬んでしまったら大事件ですよね」
もちろん、ドッグトレーナーの指導を受けなくても、犬をうまくしつけている飼い主さんはたくさんいらっしゃいます。ただそのしつけ方は、どんな犬にでも通用するとは限りません。
「教科書どおりにしつけをして、問題なくうまくいくこともありますが、うまくいかないことも多いのです。吠え癖や咬み癖など、直したい行動が見られる犬を、自然体でしつけようとすると失敗します。自然体でいた結果、いまの状態になったのですから、考え方を変えなくてはなりません」
しつけが下手な飼い主さんの傾向とは?
藤田先生によると、しつけがうまくできない飼い主さんには、いくつかの傾向があるようです。もっともうまくいかないのは、やる気のない人。飼い主にやる気がないと、ドッグトレーナーがいくらアドバイスをしても効果は上がりません。また、犬の生態や犬種の特徴などを勉強せず、犬を擬人化して、何か起きたときに人間の理屈だけで判断しがちな人も、犬との意思疎通がうまく行かない傾向があります。こういう場合にはこうすればいい、と決めつけがちな人も、しつけ下手といえるでしょう。
「残念ですが、犬の生態や心にまで考えが及ばない方は珍しくありません。しつけ書を読んだり、TVのしつけ関連番組を見たりする以上に、愛犬のことをもっとよく見て考えることのほうが、ずっと大切です。以前、TV番組の出演依頼をいただいたことがありますが、ツルツルの坂を登らせて競争させるとか、暑さに弱いフレンチ・ブルドッグを炎天下に連れ出し、パラシュート花火をキャッチさせるとか、犬の福祉のことなど何も考えていない企画だったのでお断りしました。本やTVで紹介されているしつけは必ず正しいんだ、と鵜呑みしないほうがいいですね」
ミニチュア・ピンシャーやジャック・ラッセル・テリアは要注意
犬は、犬種によって生み出された目的や性格が異なりますから、勉強はたいへん重要です。小型犬だからしつけやすい、と考えてはいけません。私たちのまわりでよく見かける小型犬の中にも、しつけをしにくい犬種がいるようです。
「たとえばミニチュア・ピンシャーは、落ち着きがない子が多いうえに、運動欲求をさまざまな方法で解消しようとしますから、アクティブな飼い主さん向けの犬種と言えます。同じく、ジャック・ラッセル・テリアは運動能力が非常に高いので、小型犬だと思ってしつけるとうまくいかないことがあります。どちらの犬種も、力で押さえようとすると反抗しがちですね。また、フレンチ・ブルドッグやチワワはとにかく頑固。自分が納得しないと動かないところがありますので、焦りは禁物です。柴犬などの日本犬は、ペットだと思わずに、厳しく明確にしつけましょう。咬まれることも多いですし、そのときの被害も大きくなりがちです」
イタリアン・グレイハウンドやアフガン・ハウンドなどのサイト(視覚)ハウンド犬種も、全体的にしつけにくい傾向があるそうです。では、しつけやすい犬種にはどんなものがあるのでしょうか?
「マルチーズやシー・ズーなど、トイ(愛玩犬)グループの犬種は、運動要求を満たしやすいので、ストレスによる反抗が少なく、比較的しつけやすいですね。ただし、しつけやすく飼いやすい犬種として知られているトイ・プードルは要注意。学習能力が高いため、間違ったことや悪いこともすぐ学習してしまいます。飼い主さんのしつけ力が試される犬種ですから、その子の親になったつもりで、いいことはいい、悪いことは悪いと毅然とした態度でしつけましょう」
少し前に、犬の偏差値ランキングが話題になりましたが、やはり賢いと言われる犬種のほうが、しつけやすい傾向があるようです。こういった情報も、勉強しなくてはわかりません。犬をしつけることは飼い主をしつけること、と考えて、日々の努力を怠らないようにしたいですね。
いかがでしたか? 次回は、クレートトレーニングのコツについてうかがっていきます。
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