愛犬と家族を守る! レプトスピラ症の全知識:症状から予防、飼い主ができることまで
愛犬との暮らしは、私たちに大きな喜びと癒しを与えてくれます。しかし、健康で幸せな毎日を送るためには、飼い主が病気に関する正しい知識を持ち、予防と対策を行うことが欠かせません。
今回は、犬と人の双方に感染する可能性がある「レプトスピラ症」について、原因から症状、診断、治療、そして予防策まで詳しくお伝えします。

レプトスピラ症とは
レプトスピラ症は、「レプトスピラ属菌」というらせん状の細菌に感染して発症する感染症です。病原性を持つ菌種は10種以上、血清型は250以上確認されています。温暖湿潤な環境を好み、水や湿った土壌中で数週間から数カ月生存します。
特にこの病気が重要視されるのは、犬だけでなくヒトにも感染する「人獣共通感染症」であるためです。感染犬は症状がなくても長期間尿中に菌を排出し続け、飼い主やほかのペットへの感染源になる恐れがあります。そのため、愛犬の予防は家族全体の健康を守るうえでも極めて重要です。
世界的に発生が確認されており、熱帯・亜熱帯地域では毎年100万件以上のヒト感染例があり、約6万人が死亡していると推定されています。米国では年間100〜150例、日本では1970年代に年間50人以上の死亡者が報告されていましたが、衛生環境の改善により減少傾向です。
しかし、依然として発生は続き、2016年1月〜2022年10月に国内29都道府県で273例(94%が国内感染)が報告されました。発生は7〜10月に集中し、8割が河川など水系感染によるもので、大雨や台風後に増加する傾向があります。
犬においても国内外で発生があり、2007〜2011年の調査では283頭中83頭で確定診断され、致命率は53%と高率でした。8〜11月、特に9月に多く見られます。気候変動や都市化により、これまで低リスクだった地域でも発生が増える可能性が指摘されています。都市部ではネズミが主要な保菌動物であり、移動による菌株拡散のリスクも報告されています。
レプトスピラ症の感染経路
レプトスピラ症の主な感染源は、レプトスピラ菌を体内に保菌している野生動物(特にネズミ、イノシシ、シカなど)や家畜、そして感染した犬の尿です。これらの動物は、自身は症状を示さなくても、腎臓に菌を保菌し、尿中に菌を排出し続けます。
感染経路は主にふたつあります。
【経皮感染】
菌に汚染された水や土が皮膚の傷口や粘膜(目・鼻・口)に接触することで感染します。川遊びや洪水後の水たまりでの感染例が多く報告されています。
【経口感染】
レプトスピラ菌に汚染された水や食物を口にすることで感染します。散歩中の水たまりや土壌を舐めることも原因となります。
レプトスピラ菌は高温多湿の環境を好むため、日本では夏から秋にかけて感染リスクが高まる傾向にあります。特に、以下のような場所や状況では感染リスクが高まります。
| リスクが高まる環境・状況 | 具体的な内容 |
| 水辺の環境 | 川、湖、池、沼地、水たまり、側溝、下水など、滞留している水や泥水は、レプトスピラ菌が生存・増殖しやすい環境です。 |
| 野生動物の生息地 | ネズミなどのげっ歯類や、アライグマ、キツネ、イノシシなどの野生動物が多く生息する地域は、菌の保菌動物が多いため、感染リスクが高まります。草むらや茂み、ゴミ捨て場なども注意が必要です。 |
| 大雨や洪水後 | 台風や大雨による水害後は、汚染された水が広範囲に流れ出し、レプトスピラ菌が拡散しやすくなるため、感染リスクが非常に高まります。 |
| 都市部でのリスク | 都心部でもネズミが増えているため、水害時だけでなく、日常的に水たまりや下水、泥の中など、ネズミの尿で汚染された場所には注意が必要です。 |
| 愛犬の健康状態 | 愛犬に傷口や皮膚病がある場合、また体力が落ちている場合は感染しやすく、特にリスクの高い場所への外出は控えることが推奨されます。 |
レプトスピラ症の症状
犬の潜伏期間は通常数日から約2週間ですが、最長で30日に及ぶこともあります。この幅広い潜伏期間のため、飼い主が感染の時期や場所を特定するのは困難です。
初期症状は他の病気と似ていて軽度な場合も多く、見過ごされやすいですが、早期発見と治療が重症化を防ぐ鍵となります。主な初期症状は以下の通りです。
| 症状 | 具体的なサイン |
| 発熱 | 犬の平熱(約38.5℃前後)よりも体温が高くなり、時には40℃近くまで上昇することもあります。鼻が乾いて熱っぽい、耳や体全体が熱いと感じる、あるいは震えが見られるといった兆候は、発熱のサインである可能性があります。 |
| 食欲不振 | いつもはご飯をねだる愛犬が急にご飯を食べたがらなくなったり、食べ残すようになったり、おやつにも興味を示さなくなったりします。 |
| 元気消失 | 散歩に行きたがらない、遊びに誘っても反応が鈍い、一日中寝ている時間が増えた、といった普段とは異なる様子が見られます。なんとなく「いつもと違う」「だるそう」といった印象を受けることが多いでしょう。 |
| 嘔吐・下痢 | 胃腸の調子が悪くなることで、食べたものを吐いたり、胃液を吐いたり、下痢をしたりすることがあります。頻繁な嘔吐は脱水症状を招くため、特に注意が必要です。 |
| 脱水 | 嘔吐や食欲不振が続くと、体内の水分が失われ脱水症状になります。歯茎が乾燥している、皮膚をつまんで離してもすぐに戻らない(皮膚の弾力がない)、目のくぼみが見られるなどのサインがあります。 |
| 筋肉痛・関節痛 | 全身の倦怠感からくる症状として、触られるのを嫌がったり、歩き方がおかしくなったりすることがあります。 |
レプトスピラ症は進行が早く、腎臓や肝臓に深刻な障害を与え、多臓器不全に至る危険性があります。重症化すると次のような症状が現れます。
黄疸:目の白い部分、歯茎、皮膚などが黄色くなる症状は、肝機能の重度な障害とビリルビンの蓄積を示します。
出血傾向:血管炎や血液凝固障害により、歯茎や皮膚に小さな出血点やあざが見られたり、鼻血、血便(タール状の黒い便)、血尿、吐血などが現れることがあります。
尿量の異常:腎臓の障害により、病気の初期には尿量が増える(多尿)こともありますが、進行すると尿量が極端に減る(乏尿)または全く出なくなる(無尿)状態になり、急性腎不全を示唆します。
呼吸器症状:稀に肺炎、咳、呼吸困難が見られることもあります。
ぐったりとした状態:極度の脱力感や沈鬱が見られ、非常に重度の場合は2~3日で死に至ることもあります。
レプトスピラ症は進行が非常に早く、治療が遅れると命にかかわることが多い病気です。国内における犬の致命率は53%と非常に高く、その危険性が際立っています。このような病状の進行の速さと高い致死率を考慮すると、「様子を見る」という対応は非常に危険です。

レプトスピラ症の診断と治療
レプトスピラ症の診断は、初期症状がほかの病気と似ているため、非常に難しい場合があります。そのため、飼い主からの詳細な情報(いつ、どこで、どんな行動をしたか、ワクチン接種歴など)と、獣医師によるさまざまな検査を組み合わせることが不可欠です。
獣医師は、まず問診と身体診察で愛犬の症状や状態を確認します。その後、血液検査で感染や炎症の有無、貧血、肝臓や腎臓の機能などを確認し、尿検査で腎臓の機能や尿の異常を確認します。必要に応じて、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査を行うこともあります。
確定診断のためには、血液や尿からレプトスピラ菌の遺伝子を検出するPCR検査や、抗体検査(MAT)などが用いられます。ただし、これらの検査は結果が出るまでに時間がかかる場合があります。
レプトスピラ症の治療は、迅速な開始が予後を大きく左右します。病状の進行が非常に早く、重症化すると命にかかわるため、早期の介入が求められます。
レプトスピラ菌は細菌であるため、抗菌薬(抗生物質)の投与が治療の中心となります。また、腎臓や肝臓の障害、脱水、嘔吐などの症状に対しては、点滴や吐き気止めなどの対症療法や支持療法が行われます。重症の場合は、入院して集中的な治療が必要となることもあります。
レプトスピラ症の予防
レプトスピラ症を防ぐためにもっとも重要なのは、感染源への曝露を避けることです。これは単発的な行動ではなく、継続的かつ多面的な取り組みが必要です。
環境管理と日常の注意点
愛犬をレプトスピラ症から守るためには、汚染されている可能性のある川、湖、池、沼地、水たまり、側溝、下水など滞留水域での飲水や水遊び、立ち入りを避けましょう。特に大雨や洪水後の地域はリスクが高まります。
また、ネズミなど野生動物が多く生息する場所や、その排泄物で汚染されている可能性のある草むらや茂み、ゴミ捨て場、農村部なども避けるべきです。水辺でのレジャー時には水中での怪我に注意し、愛犬に傷や皮膚病がある場合、あるいは体力が落ちている場合は特にリスクの高い場所への外出を控えてください。
ネズミ対策も重要です。食べ物や水は密閉容器に入れ、ゴミは適切に処理してネズミを遠ざけましょう。
日常の衛生管理としては、生活環境を清潔に保ち、散歩後は足や体を丁寧に拭くか洗浄し、特に泥や水に触れた場合は念入りに行います。清潔な飲み水を常に与え、水たまりや共有給水器からの飲水は避けましょう。感染が疑われる動物の尿や体液に触れる可能性がある場合はゴム手袋など保護具を着用し、手洗いを徹底します。汚染の可能性がある場所や物は、消毒液で洗浄・消毒し、乾燥させることで菌の拡散を防げます。
ワクチン
ワクチン接種は発症や重症化を予防する有効な手段であり、感染犬からヒトや同居犬への伝播防止効果も期待できます。予防効果の持続期間は12カ月未満とされるため、年1回の追加接種が推奨されます。抗体価は保護効果と相関しないため、追加接種前の抗体検査は不要です。
まとめ
レプトスピラ症は犬とヒトに感染する深刻な人獣共通感染症です。初期症状は見過ごされがちですが、進行が早く命に関わるため、愛犬の「いつもと違う」変化を見逃さず、早期に獣医師へ相談することが重要です。予防には、汚染環境の回避と適切なワクチン接種が不可欠です。日常的な予防と早期発見を心がけ、愛犬と家族の健康を守りましょう。


