毎日のお散歩や公園でのんびりしていると、愛犬が草を口にしている光景をよく目にします。なぜ犬は草を食べるのでしょうか?
多くの人は、犬が草を食べるのは、食べてはいけないものを吐き出すための本能的な行動だと考えています。また、草には食物繊維が含まれていて便を促進させる役割を果たしていると考える人もいます。さらには、胃や腸に異常があることを示していると考える人もいます。今回は犬が草を食べる行動のお話です。
犬が草を食べる理由
犬が草を食べる理由については、さまざまな推論や説がありますが、研究は限られています。そのため、はっきりとしたことは誰にもわからないというのが実情です。しかし、科学者たちは研究結果に基づいて誤った通説を否定しています。
【本能的な行動】
犬が草を食べるのは、オオカミを祖先とする犬の本能的な行動であるとする説があります。オオカミの研究では、胃の内容物の2~10%に植物が含まれている可能性があることがわかっています。また、野生のイヌ科動物(オオカミ、ジャッカル、キツネ、コヨーテなど)も草を食べることが確認されています。
【不足している栄養を補う】
植物や草を食べては嘔吐していた犬に食物繊維を多く含むフードを与えたところ、草を食べる行動は解消されました。これは、この犬が草や植物を食べることで食事の不足分を補っていた証拠です。食物繊維を十分に摂取させると問題は解決します。
では、犬は実際に草を消化できるのでしょうか? 犬は主に肉を食べる動物です。最近の研究では、犬は人間との共進化に伴い、一部の炭水化物を消化する能力を進化させたことがわかっています。炭水化物とは、主に果物、穀物、野菜、乳製品などに含まれる糖質、デンプン、食物繊維のことです。犬が炭水化物を消化できるということは、草を消化できることとは違います。草は消化されずに犬の腸管を通過して排泄されます。
【犬の正常な行動】
ある研究では、草を食べる行動は、犬の空腹度合いや時間帯に影響されることがわかりました。食事前には草を食べる量が増え、反対に食後は草を食べる量が減りました。また、一日の終わりに草を食べることはあまりありませんでした。研究者たちは、草を食べることは犬の正常な行動であり、根本的な病気を示唆するものではないと考えました。
【胃のむかつきを和らげる】
また別の研究では、一方のグループの犬にフラクトオリゴ糖を含むフードを与え、もう一方のグループには、通常のフードを与えて経過を観察しました。フラクトオリゴ糖は甜菜から抽出され、未消化のまま小腸を通過し大腸で発酵します。
フラクトオリゴ糖を大量に摂取すると緩い便が出ます。通常のフードを与えられた犬は、下痢をした犬に比べて草を食べる機会が増えました。つまり、胃腸の調子が悪い犬は草を食べる可能性が低いということでした。
【好奇心】
犬(特に幼犬)は、口で探索することがよくあります。一部の子供が公園などで土を食べてしまうのと同じように、試しに草を食べているのかもしれません。なかには、草の味が好きになる犬もいるかもしれません。
【飼い主の注目を引くため】
草を食べると、飼い主が注目してくれるということを覚えた犬もいるでしょう。草を食べるのをやめさせるために、犬に話しかけたり、おやつを与えたりすることがあります。ときには、飼い主が犬を草むらから引き離すこともあります。このように制限されることで、かえって草を見つけるとすぐに食べてしまうことに拍車をかけるかもしれません。
犬は吐くために草を食べるのか?
実際に行われた研究によると、草を食べた犬のうち、実際に嘔吐したのは1%にも満たなかったようです。この結果から、犬は自分が嘔吐するために草を食べるわけではないと結論づけています。
さらに、若い犬のほうがシニア犬よりも草を食べる機会が多いこともわかりました。犬が嘔吐を誘発するために草を食べるわけではないことを示すいくつかの証拠となります。
犬が草を食べても大丈夫?
犬が草を食べることには、いくつかの安全上のリスクがあります。代表的なものを紹介します。
▶農薬
飼い主は、犬が食べる草に有害な農薬や殺虫剤が付着していないことを確認する必要があります。農薬で処理された草を犬が食べた疑いがある場合は、すぐに動物病院で診察を受けてください。農薬で処理された草を食べた犬は、以下の兆候を示します。
・過度の唾液分泌
・吐き気
・嘔吐
・下痢
・食欲不振
▶糞便
草はほかの犬や動物の糞で汚染されていることがあります。糞便に汚染された草を食べると、犬が病気になる可能性があります。
パルボウイルスのような腸の病気は、糞便→口腔ルートで感染するものがあります。パルボウイルスは、ワクチンを接種していない犬や子犬に重篤な胃腸疾患を引き起こす可能性があります。この病気で死亡する犬もいます。
また、ほかの犬や動物の糞便には、腸内寄生虫の卵や幼虫が含まれていることがあります。腸内寄生虫に感染した犬は、体重が減り、下痢をすることがあります。子犬の場合は、貧血を起こして死亡するリスクが高くなります。成犬は、健康な免疫システムを持っていれば、死亡する可能性は低くなります。
草を食べる犬は、駆虫薬を服用し、定期的に糞便検査を受けて腸内寄生虫を調べる必要があります。腸内寄生虫の種類によっては、薬で治療する場合があります。
まとめ
これまで犬が草を食べるのを理由を説明してきました。研究も少ないことから、まだ明確な理由は解明されていないというのが現実です。ただし、むやみに与えると、かえって危険をはらむこともあります。できるだけ避けることをオススメします。
その際に私たち飼い主がとるべき行動は、散歩や外出は食事後にし、草の生い茂るような場所を避けること。そして、積極的に代替行動を強化することです。愛犬が草を食べようとするたびに、冷静にその行動を中断し(叱るのではなく気をそらす)、代わりに別の行動をするように促します。例えば、おやつをあげるとか、ボールで遊ぶなどです。
それでも積極的に草を食べようとするなら、飼い主が庭で育てた “安全な草” を与えましょう。ただし、駆虫薬を服用し、定期的に糞便検査を受けて腸内寄生虫を調べましょう。