犬種維持から災害救助犬の育成まで幅広く活躍
一般社団法人 ジャパンケネルクラブ(以下、JKC)という団体をご存知でしょうか。血統書つきの犬をお飼いの人なら、ああ、血統書を発行しているところね、とお気づきになるでしょう。しかし、JKCの活動は単なる血統管理に留まらず、ペットと共生する社会の推進に大きな役割を果たしているようです。どんな活動をされているのか、専務理事の吉田稔さんにお話をうかがってみました。
そもそも、血統書って何ですか?
私たちが純血犬種を飼う際に、血統書がついてくることがよくあります。その子のお父さん犬とお母さん犬、さらには祖父犬と祖母犬が載っていて、まるで家系図のようです。しかし、この血統書を宝石の鑑定書的なものととらえている人も多いのではないでしょうか。そこでまず、私たちにとって馴染み深い『血統書』についてお話をうかがいましょう。血統書とは何か。それを知るためには、JKCの歴史と“犬種標準”を知る必要があるようです。
「JKCは、戦後まもなくの1949年に創設された団体です。当時は“日本警備犬協会”という名称でした。戦前からシェパードや日本犬など、犬種ごとの団体はあったのですが、戦後になって、国内の純粋犬種を保護し血統管理を行うという機運が高まり設立されたのです。当時は、犬といえば番犬や警察犬としての需要が多かったため“警備犬”の名がつけられました。しかしその後、日本が復興していくにつれ、日本スピッツやアメリカン・コッカー・スパニエルなどの愛玩犬が多くの方に愛されるようになったことを受け、現在ではすべての純粋犬種を対象に、JKCとして活動を行っています」
血統管理ということですから、どの親からどの子が生まれたのかが、過去にさかのぼってわかるようになります。血統登録された純血種に発行される血統書は、こうして誕生したわけですね。ちなみに、日本の家庭犬のなかで、純血種が珍しくなくなったのは、そう古い話ではありません。40年以上前、私が子どものころの家庭犬はいわゆる雑種が中心。玄関や軒下に鎖でつながれ、放し飼いの犬や野良犬がウロウロしている風景も日常的で、純血種はお金持ちが飼うものという雰囲気がありました。そのころに比べると、日本の犬飼育環境は大きく改善され、ペットとの共生という意識も高まっています。愛玩犬を飼うということは、幸せの証明、平和の象徴なのかもしれませんね。
「犬の種類は世界中で700~800種類存在するという学者もいます。そのなかから、JKCが加入している国際畜犬連盟(FCI)では現在343犬種を、JKCでは194犬種を公認しています。FCIに比べJKCの登録犬種が少ないのは、日本にいる犬、またはかつていた犬を対象としているからです。また、これらの犬種については”犬種標準”を作成し、繁殖の際の指針として役立てています。犬種標準は、各犬種の体つきや外貌(見た目)だけでなく、歩き方などの運動性や性格も規定し、その犬種のあるべき姿、理想的な姿を定めたものです」
世界83カ国が加盟するFCIですが、JKCは1979年に加盟。それはそうと、犬は体型も性格も個体によってまちまちですから、当然ながら犬種標準に外れた犬もいるはずです。犬種標準に近いほどいい犬、外れているほど悪い犬ということなのでしょうか。
「いえ、犬種標準は、いい犬か悪い犬かを定めたものではありません。あくまでも、その犬種の理想的な姿を規定したもので、犬種を維持するための指針です。時代とともに基準は変わっていきますが、純血種を繁殖させる際は、この犬種標準に可能な限り近づけるよう努力しているのです。犬は、個体数や外見が珍しければ注目される傾向があるため、犬の生態や犬種の特徴を無視した繁殖が行われるなどの弊害が出ることも考えられます。そうしたことを防いで犬の健康を守るために、犬種標準の存在は大きな役割を果たしています。また、現在の血統書には、所有者の任意により各種の遺伝病や股関節・肘関節形成不全についての情報が記載され、DNAの登録番号も知ることができます。これらの情報や親犬、祖父母犬の情報をもとにブリーダーは、より犬種標準に近い健康な犬の繁殖に役立てているのです」
つまり、血統書は繁殖のための情報として活用するためのもの。純血種にもかかわらず血統登録をしない犬もいますから、血統書があるからいい犬で、ないから悪い犬、純血種だからいい犬で、ミックス犬だから悪い犬、などと決めつけるのは間違いであることがわかります。ちなみに、血統書には標準で3世代、申し込めば4世代の個体情報が記されます。さらに、それ以前の血統情報もJKCのデータベースに蓄積されており、犬によっては60年前の先祖犬までさかのぼれるのだとか。聞いただけで胸がワクワクしそうな話ですね。
血統維持以外の活動は?
JKCの主要な活動のひとつが血統維持であることはわかりました。では、それ以外にJKCではどのような活動を行っているのでしょうか。
「大きなイベントとしては、ドッグショーが挙げられます。純血犬種を保護し、より質の高い犬を繁殖するために開催され、いかに犬種標準に近いかが審査されます。また、犬の社会性を育み、人とペットのよりよい共生社会を推進するお手伝いとして、トリミング競技大会、訓練競技大会、アジリティー競技大会、フライボール競技大会を開催しています」
これらの競技会は、私たちにとっても身近な、犬の健康管理やしつけ、遊びの技術を競うもので、犬とより積極的に触れ合いたい方にとっては見逃せません。見学するだけでも楽しいのですが、競技出場を目指せばより毎日が充実しそうです。
「さらに、JKCでは災害救助犬の育成や、社会福祉への貢献活動、動物愛護精神の普及などの取り組みも行っています。たとえば災害救助犬の育成は1990年から開始され、現在は国内最大規模となる180頭が登録。阪神淡路大震災、新潟県中越地震、岩手宮城内陸地震、東日本大震災などにも出動し、救助活動を行っています。一般の飼い主さん向けのイベントとしては、愛犬との触れ合い写真コンテスト、犬の絵コンクール、愛犬との触れ合いの俳句など、各種コンクールを開催。犬と共生する毎日がより豊かなものになるよう力を注いでいます」
パソコンやスマートフォンで「JKC」と検索すると、JKCのサイトが現れますが、じつはJKCにはもうひとつ「JKC 犬のひろば」という、一般の愛犬家に的を絞ったページがあり、JKC公式ページのトップ画面からアクセスすることもできます。「JKC 犬のひろば」では、犬用品販売店やトリミングサロン、犬のしつけ、ドッグラン、犬と泊まれる宿、動物病院など、犬に関わるさまざまな情報が検索可能。さらに「愛犬のごはん大研究」「愛犬とのお出かけガイド」「ドッグショー完全攻略ガイド」など、JKCの会報誌「JKCガゼット」掲載記事の一部を見ることもできます。ブックマークしておけばじつに便利に使えそうです。
また、JKCは一般の愛犬家であっても、会員として登録することができるのだそうです。じつは、JKC発行の血統書つき犬のパパである私も知りませんでした。
「会員になると、“JKC 犬のひろば”に登録している各種ショップやトリミングサロン、訓練所、ドッグラン、犬と泊まれる宿などで会員だけのサービスを受けることができます。さらに、JKCが主催するドッグショーやアジリティーなどのイベントに、愛犬とともにご参加いただけます。年10回発行される会報誌“JKCガゼット”は、イベント告知などを行っていますが、しつけや健康管理など、一般の愛犬家の方にも楽しんでいただける記事にも力を注いでいます。記事の質には自信がありますので、ぜひ一度ご覧になってください」
気になる会費ですが、年会費は4000円(2015年10月現在・入会金2000円)ですから、無理なく払える金額ではないでしょうか。また、加入は個人単位ではなく、全国900のJKC愛犬クラブのいずれかにメンバーとして加入する方式を採っていますから、地域の愛犬家たちとのコミュニケーションも楽しめそうです。散歩中に出会う犬友達に止まらない、人と犬とのよりよい共生生活を目指す方は、入会を検討してみるのもいいかもしれません。
コメントを送信