【犬飼いTIPS】手術前に知っておきたい! ペットの避妊・去勢手術のポイントと最新ガイドライン

私たち飼い主は、ペットの避妊・去勢手術の重要性を知っています。命にかかわる病気を防ぎ、行動を改善し、そして人道的な方法だからです。

しかし、愛犬がリスクを負うことなくすべてのメリットを享受できる避妊・去勢手術の理想的な時期はいつなのでしょうか?

獣医療の現場では、最初の発情期が訪れる前、生後6~9カ月ころに行うべきだという意見で一致しています。しかし、新しい研究により、ペットの不妊手術のタイミングと、早すぎる避妊去勢手術がもたらす危険性について、さらに詳しく明らかにされています。

今回は、避妊・去勢手術の適切時期と必要性についてのお話です。

避妊・去勢手術とは

一般的に、メスの場合は避妊手術と呼ばれる卵巣摘出術(子宮と卵巣の摘出)、オスの場合は去勢術と呼ばれる睾丸摘出術(精巣の摘出)です。これらの手術は医学的にはオスメス問わず、生殖腺摘出術、生殖腺または生殖器の除去と呼ばれます。

卵巣を除去すると、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの分泌がなくなります。精巣を除去すると、テストステロンという男性ホルモンの分泌がなくなります。

これらのホルモンが分泌されなくなると、メスの発情行動、外陰部の腫脹、発情出血、オスのマーキングやマウンティングなど、ホルモンの分泌に関連した行動や身体的変化が明らかに減少します。

しかし、性ホルモンは体内のほかの組織にも影響を及ぼすため、これらのホルモンを除去すると、意図せずそれらの機能に悪影響を与える可能性があります。

また、生殖腺摘出後には、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロンの分泌を制御するホルモンの変化も起こります。これらのホルモンの変化がほかの機能にプラスに作用するかマイナスに作用するかは、いまだ研究段階にあります。

最新の研究による避妊・去勢手術のガイドライン

カリフォルニア大学デービス校の研究チームは、最新の「避妊去勢手術ガイドライン」を発表しました。この研究は2013年に開始され、犬の早すぎる去勢は癌や特定の関節疾患のリスクを高める可能性があることが示されました。

そして、10年後の今、研究はより多くの犬種を対象に拡大され、より詳細な結果が得られています。カリフォルニア大学動物病院で治療を受けたすべての犬について、10年以上にわたって収集されたデータを詳細に分析しました。

研究の対象となったのは、ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、ジャーマン・ワイアーヘアード・ポインター、ニューファンドランド、ローデシアン・リッジバック、マスティフ、シベリアン・ハスキーの5犬種です。

これらの犬種は、生後1年未満の避妊・去勢手術を受けた場合の影響について分析されました。ポインター種では、早期の手術により関節疾患のリスクが大幅に高まることが判明しました。マスティフのオスとニューファンドランドのメスでも同様の結果が出ました。

また、ローデシアン・リッジバックのメスでは、早期手術により細胞腫瘍の可能性が高まることがわかりました。シベリアンハスキーは、ほかの犬種よりもやや良好な結果を示し、オスでは有意なリスクは見られず、メスでは若干の異常の可能性が見られただけでした。

研究チームのリーダーであるカリフォルニア大学獣医学部副学部長兼教授のリネット・ハード博士は「代替のパラダイムを考えるのはつねに困難を伴います。これは、アメリカやヨーロッパの多くの地域で生後6カ月以内に避妊・去勢手術を行うという長年の慣行からの転換ですが、早期の手術による性ホルモンの減少と潜在的な健康問題の関連を考慮することが重要です」とコメントしています。

ガイドラインでは、研究チームは、犬の去勢・避妊手術に関しては、「個々の状態に応じた判断」の必要性を強調しています。犬種、年齢、性別、健康状態を考慮したうえで手術を受けるべきです。飼い主は、手術の前に獣医としっかり話し合いましょう。

また、早期の避妊・去勢手術は、特に血管、リンパ節、肥満細胞の癌のリスクを高める可能性があることも強調されています。癌と手術の関係は、犬の性ホルモンの除去に起因します。また、性ホルモンの分泌がとまると、成長板(骨端線)が閉鎖しその後の犬の発育に極めて重要な影響を及ぼします。

しかし、それでも適切な時期に去勢手術をすることで、将来的にほかの健康問題、特に子宮内膜炎や子宮蓄膿症、乳腺腫瘍(乳がん)、前立腺がんのリスクを大幅に減らすことができます。

同様に、犬の行動、特にオスの行動に役立ちます。徘徊や凶暴性、攻撃性、縄張りのマーキング行動などが少なくなります。また、犬の個体数を調整(意図しない繁殖や乱繁殖)し、結果的に野良犬の数を減らし、動物保護施設の負担を減らすことにもつながります。

まとめ

現時点で、ペットの避妊・去勢は完全に義務化されていませんが、動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)では、「適正飼養が困難になる恐れがある場合には、繁殖防止のために避妊去勢手術などの措置を行うこと」とあります。

不幸な犬や猫を生み出さないという観点からは、飼い主の責任として避妊・去勢は必須だと考えられます。知識のない一般の飼い主が、「この子の子どもが見てみたいから」という安易な理由で繁殖すべきではないのです。

このガイダンスは、獣医が飼い主に提供できる情報と選択肢を提供します。避妊・去勢について、最終的な決定を下すのは飼い主です。愛犬の健康と幸福のために、情報を整理し、愛犬の状態に応じた適切な時期を見極めましょう。