要求噛みは飼い主でも直せるが、攻撃咬みは手に負えない
噛み癖のしつけ方、前回の「甘噛み」に続き、今回は「要求噛み」「攻撃咬み」です。子犬ならほとんどの犬に見られ、しつけも比較的簡単な甘噛みに比べ、要求噛みや攻撃咬みのしつけはかなり難しく、飼い主さんの手に負えないこともしばしば。さらに怖いのは、しつけの途中で咬まれて大ケガをしかねないことです。少しでも危険を感じるようならプロに任せましょう。
思い込み厳禁! 噛む理由をじっくり観察しましょう
犬の行動には、ほぼすべて理由があります。「噛む」という行動も例外ではありません。藤田先生のアドバイスでは、犬の行動をよく観察し、犬が何を考えているのかを確実に理解することがしつけの基本だ、ということがしばしば登場しますが、噛み癖のしつけは、この観察と理解がもっとも重視されます。
「噛み癖を直してほしいというご依頼を受けた場合、私はいきなり実際のしつけを始めることはありません。まず飼い主さんに対してカウンセリングを行い、普段どういう生活をしているのか、家に来てから現在までの育て方は、どういう場面でどのように噛んでくるのかなどをじっくりうかがう中で、噛む原因を探っていきます。いきなりスイッチが入って噛むんだ、という飼い主さんもいらっしゃいますが、これは飼い主さんの思い込み。ご自身が気づいていないだけで、そこには必ず原因があります」
愛犬とずっと一緒にいる飼い主さんは、その犬のことをいちばん理解しているように思えるかもしれません。しかし、実際には勘違いしていることがかなり多いのだそうです。トレーニングの知識がないから勘違いする、という技術的な理由もあるのですが、もっとも陥りがちなのは、犬を擬人化してしまうこと。人とはまったく異なる生物である犬の気持ちを理解するためには、人間の常識や考え方を押しつけてはいけません。「いつ」「どんな状況で」「何をすると」噛むのか、噛む前にはどのような前兆があるのか、噛む対象は何なのか、など事実のみを正確に細かく観察し、できればノートなどに記録しておきましょう。
「要求噛みなのか攻撃咬みなのかを正確に見極めてください。まず要求噛みは、噛むことで自分の要求を実現させようという行動ですから、犬のほうから寄ってきて、積極的に噛んできます。攻撃咬みは、嫌なことや怖いことを排除しようとして咬む行動ですから、何かしらのツボを押してしまったときにやむを得ず咬むことになります。犬は、自分が危害を加えられそうになったり、排除したい状況に出会ったりすると、『ファイト(戦う) オア フライト(逃げる)』という行動をとります。咬む行為はファイトにあたるのですが、フライトを試みても逃げ場がない場合も、咬むことによって難を逃れようとします」
見境いなく手当たり次第に咬みまくる犬はごく稀なのだそうです。ただし、行動が反対のように思える両者には、共通する特徴があります。それは「社会化ができていない」こと。ですから、噛み癖を直そうとするならまず、子犬のころに培われなかった社会化を行う必要があります。生活全般から改善していかなくてはならず、手間はそれなりにかかりますが、成犬になってからでも社会性を養うことは可能ですから、諦めずに毎日心がけていきましょう。
「人やほかの犬が近寄って体に触れても、触れられることを嫌がらない犬にしなくてはなりません。触られるのが好きか嫌いかは犬の性格によっても異なります。たとえば子犬では、お尻を触ったときに攻撃してくる子はアグレッシブな子ですから、譲ってもらう際に何頭かの中から選べる場合は、お尻を触ってみることをオススメします」
要求噛みには「無視」で対応しましょう
では、要求噛みと攻撃咬みは、それぞれどうしつければいいのでしょうか。まず要求噛みは、要求吠えと同様に「無視」が基本です。
「とはいえ、噛まれてから無視をしても、あまり効果が出ない場合もあります。噛むことによって実現させようとしている要求に応えてはいけないのはもちろんですが、それと同時に、毅然とした態度で拒絶することが大切です。噛まれるのを怖がるあまり逃げ回っていては、しつけはうまくいきません。動物は、相手が強いか弱いかを敏感に感じ取ります。たとえば、観光地などに出没する猿が人の持ち物を奪う場合は、まず声などで威嚇し、いちばん怯えた人を襲うのだそうです」
ただ単に無視をするのではなく、この人に要求噛みをしてもはね返される、メリットはないということを犬に理解してもらわなくてはなりません。このあたりの犬との駆け引きを上手に行うためには知識や経験が必要ですので、プロのアドバイスを受けながら行うほうがいいでしょう。では、攻撃咬みをはどうすれば直せるのでしょうか。
「飼い主さんご自身が安全に、効果的に攻撃咬みを直すのは難しいと考えてください。自分で何とかしようと考えると大ケガをするかもしれません。攻撃咬みの兆候が少しでも見られたら、なるべく早くプロを頼りましょう。攻撃咬みが固定化されてしまうと、私でも咬傷防止用のミトンを装着してトレーニングに臨むほど危険な状況に陥ります」
体があんなに小さなチワワですら、本気で攻撃咬みされると大ケガを負います。犬の噛む力を侮ってはいけません。また、プロが手を焼くほどひどい状況に陥る前に、攻撃咬みをしない犬に育てるコツを知っておいた方がよさそうです。
「たとえば、子犬のころの撫で方ひとつをとっても、社会化や噛み癖に影響してきます。撫でるときはやさしくゆっくり、あごの下など犬が心地よいと感じてくれやすい場所を中心に撫でてください。頭をつかんでゴシゴシと強く撫でまわす飼い主さんがよくいますが、子犬のころからそういう撫で方をしていると、犬は撫でられることが嫌になり、そのうち攻撃咬みが始まる危険があります。しつけが上手な飼い主さんは、ほとんどが触り上手です」
撫で方ひとつのような些細なことが、犬の将来を左右されるとはビックリです。犬と暮らす飼い主には、より一層の勉強が求められそうですね。
次回は、「お留守番がうまくできない」犬のしつけ方について、藤田先生にお話を伺っていきます。
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