世界レベルの技術で犬・猫を救う整形外科のスペシャリスト
近年の飼育環境の変化でペットの高齢化が進行し、飼い主が望む獣医療が変化しつつある。従来は大学病院で行われていた二次医療は、民間の獣医師の専門化により、ホームドクター的な一次医療を超えて可能になってきている。さらに大学病院やほかの専門病院との連携により、より高度な獣医療を提供している獣医師も増えてきた。
多様化・細分化する獣医療。飼い主は「どんな病院を」「どんな獣医師を」選ぶべきか。知識・技術は当然だが、ペットとともに飼い主も思いやる心も望まれる。多くの飼い主たちが信頼を寄せて全国から集まる病院、ペット業界のプロたちが推薦する病院、そして獣医師が信頼して紹介する病院にこそ、その答えがあるのだ。ここでは、そんな「選ばれし獣医師」を紹介していく。
チーム医療を牽引する整形外科のスペシャリスト
1989年、大阪に誕生したネオベッツVRセンター。獣医療では初の二次診療専門の高度医療センターとしてオープンした民間施設である。大阪の有志の獣医師たちが、高度医療を行うことに加え、地域の獣医療全体をよくしていこうという目的とともに立ち上げ、獣医師たちの「熱き思い」が込められた動物病院なのだ。
飼い主はかかりつけの一次診療の獣医師の紹介があれば、いつでも診察を受けることができる。もちろん、双方の獣医師との連携体制も整っている。まさに、地域に密着した高度医療センターといえるだろう。この「ネオベッツVRセンター」を率いるのが川田センター代表である。
「当センターはチーム医療を重視しており、獣医師たちが十分に意見を言い合える環境になっています」とチーム医療の大切さを語る。川田センター代表は、整形外科医として高い知識とすぐれた技術を持つスペシャリストである。「技術レベルは可能な限り高く」と外科技術向上のための努力を惜しまない。世界的にも認められた高度な外科技術を持ち、ネオベッツVRセンターのチーム医療を牽引する、川田センター代表に話をうかがった。
川田 睦 センター代表
1991年:山口大学農学部獣医学科家畜解剖学卒業。その後、民間病院にて勤務。Surgical Referral Services of Northern Coloradoに留学
1999年:にいはま動物病院を開業
2004年:鶴見緑地動物病院医長
2005年:ネオベッツ入社 ネオベッツVRセンター長就任
2014年:ネオベッツVRセンター代表就任
<所属学会>
獣医麻酔外科学会 動物臨床医学会など
・獣医師を目指したきっかけ
「環境が獣医師の道へと導いた」
実家は四国の愛媛県にあるのですが、ペットショップを営んでいます。父親は農家の出身で動物が好きで、1965年に脱サラし、仕入れ業者で修業をしたのちに、熱帯魚を専門に扱う店を開きました。そのころは熱帯魚がブームでしたので、私は物心つく前から熱帯魚に囲まれて過ごしていました。
数年後にはカナリアなどの鳥ブームがやってきました。熱帯魚を扱う仕入れ業者と鳥を扱う仕入れ業者が近い関係だったこともあり、鳥も扱うようになりました。その後もブームに乗って、シャムなどの猫、スピッツやマルチーズなどの犬を扱うようになり、徐々に動物の種類が増えていきました。
父親はエキゾチックアニマルが好きで、今ではワシントン条約で制限されているような動物がたくさんいましたね。例えば、爬虫類やペンギンもいました(笑)。ただ、母親は爬虫類はあまり好きではなかったので、父親は熱帯魚、母親は犬や猫と担当に分かれて、徐々に特化していくようになりました。
そんな中、1975~1980年くらいにパルボウイルス感染症という病気が広がりました。極端に白血球が減少して、血便や激しい嘔吐が起こり、命を落としてしまう恐ろしい病気です。そのころはペットショップにも獣医師にもその知識がなく、謎の病気とされていました。当時は、猫から始まったので「猫テンパー」といわれていました。
しばらくして犬にも発症するということで、わが家のペットショップも例外ではなく、犬や猫が1~2日でバタバタと亡くなっていきました。当時の私は、毎日、動物の死を目の当たりにして、ふたつの感情を持っていましたね。ひとつはたくさんの動物がいて、熱帯魚を含めれば1日に必ず「死」というものに直面していたので、生き物を扱うものには関わりたくないな、という気持ちです。もうひとつは高度経済成長期の日本で、工学系の道に進んでみたいという気持ちです。
両親は私が獣医師になればいいな、と漠然と思っていたようです。不思議なことに高校に入学するころには、自分の学力とのバランスもありましたが、工学系の道に進むのではなく、臨床獣医師になるのだろうなと思っていました。「やらなきゃいけない」という思い、そして「恐怖」もありましたが、動物に囲まれた環境で育ったので、それは自然なものでしたね。そのころから現在に至るまで、この仕事に対する迷いは一切ありません。
・二次診療である高度医療部門での診療を選んだ理由
「自分の技術や知識を極限まで高めるため」
私は一次診療と二次診療の線引きをしていません。獣医師は、基本的には技術者=職人だと思っているので、まず最初に知識と技術があって、それに立脚してホスピタリティが存在すると考えています。
私が以前に勤めていた藤井寺動物病院で、いくつかの高度な手術に携わる機会がありました。そのときになかなかうまくいかないことがあって、「なんでだろう」と思ったときに、海外の獣医師の情報を集めて解決策を探りました。すると、アメリカでは、ある特定の手術を専門医と言われる人たちが、年間に100回以上も行っているということがわかりました。
日本では、高い技術をもった獣医師であっても、同じような手術は年間に10~20回程度です。年間に数百回も行えば、見えてくるものがあるのではないかと思い、そして、私は海外に行きました。自分が望むレベルの知識や技術を得るためには、絶対に数が必要と思っていたので、それを集積するためには二次診療の現場にいることが合理的であろうと考えました。二次診療を選んだというよりは、自分の技術や知識を極限まで高められる場所を選んだということですね。
・民間施設であるネオベッツVRセンターでの診療を選んだ理由
「キャリアのある獣医師が直接診察をするということ」
この病院の特色は、一次診療からの紹介できた犬や猫をキャリアのある獣医師が直接診察をするということです。大学病院でもそういう獣医師はいるとは思いますが、基本的には研修医や若手の獣医師を診察にあて、彼らを育てることを重視しています。同じ二次診療でも、そこが大きく違う点です。
ですから、私も飼い主さんと直接話をして、治療方法を相談して手術を行います。飼い主さんにとってはキャリアのある獣医師が診察にあたることは、とても安心のできることです。私にとっても技術や知識を高められる場所だと思っています。
・整形外科で診療している主な病気
「症例数は年間約350例」
主な病気は、膝の前十字靭帯損傷、膝蓋骨脱臼などです。また、前足骨折の治療依頼は多いです。例えば、前十字靭帯断裂に対して行う脛骨高平部水平化骨切術(TPLO)は、私が日本人として初めてアメリカから許可を得た術式で、現在は日本でもスタンダードな手術として普及期に入っています。そのことからも前十字靭帯損傷に関する依頼が多くなっていますね。
・治療をするうえで大切にしていること
「治療する前よりもよくなること」
治療するからには、治療する前よりもよくなることです。手術も同じで、手術をするからには、手術をする前よりもよくなることです。これは残念ながら、若いときにはわからなかったことです。その当時は知識と技術が高まれば、それが自然に動物たちに役立つと考えていました。
それから私もいろいろと失敗をしたり、飼い主さんからお叱りを受けたりして、さまざまなことを学びました。その中で思ったことは治療する前よりもよくなる治療法を選ぶ、手術前よりもよくなる手術法を選ぶということです。ただ、そうなると誰しも消極的な治療法を選んでしまいがちです。
消極的であれば自分にとっても病院にとっても安全です。でもやるからには、積極的か消極的かではなく、「治療をする前よりもよくなること」「手術をする前よりもよくなること」がすべてです。それが理想であり、私の現在の最大のテーマですね。
・飼い主へのアドバイス
「体重管理を大切に」
自分の飼っている犬や猫のことを知ってほしいと思います。
整形外科疾患の発症率や治療後の状態は、肥満度により大きく変わってきます。太っているほど発症率が高くなり、治療後の回復も遅くなります。また、再発の可能性も高くなります。適度な運動と、犬であれば散歩で適正な体重を維持することが大切です。
犬種・猫種により発症しやすい疾患も変わってきますので、飼い主さんは自分の飼っている犬や猫のかかりやすい疾患を理解しておくことをオススメします。要はきちんと向き合うことが大切だということです。そうすれば、ちょっとした異常でも気がついてあげられるし、早期発見が治療の選択肢を広げることにもなります。
・今後の展望
「ふたつの悩みの解決策を探る」
非常に難しい質問ですね。私自身は田舎の出身で、都会にあこがれがあります。そして、獣医師という仕事を愛していますから、都会の真ん中により大きな病院ができるといいなと思っています。ヒト、モノ、情報などは中心に集まります。そして、そこでは一流の仕事が求められると思います。一流の仕事をしていけば、それが実現できるのかなと考えています。
また、それとは別の思いもあります。いま日本は高齢化や少子化の社会になり、ペットを飼う人も減ってきています。ペットショップを営む母親に聞いてみたところ、ブリーダーが減っていって、販売できる犬や猫がいないという状況だということでした。需要と供給のバランスが崩れたこともひとつの理由かもしれませんが、私自身は、動物との接点が少なくなっていて、ペットとの生活が人間にも潤いを与えるという事実が語られることが減ってきていることも関係していると思っています。
二次診療をしながら、ジレンマに感じることがあります。例えば、腫瘍や慢性腎不全、慢性肝不全などになった犬や猫は、獣医師が治療をすればするほど命を延ばすことができます。しかしながら、果たして最後のときをともに過ごすことにおいて、ほんとうに幸せを提供できているのかと思うことがあります。何年も病気の治療をするために病院へ通った飼い主が、その犬や猫が亡くなった後に、もう一度飼おうという気持ちにはなれないのではないか、と。
ですから、二次診療も含めて動物の医療というものが、このまま人間の高度医療を真似して、それに追従していくのは、動物を飼うというコミュニティから考えると、本当にそれでよいのかと考えてしまいます。これが、私のひとつの悩みです。
もうひとつは、このままシュリンクしていく業界の中で、これから業界を担う若手の獣医師たちが、きちんと生活できるだけの収入を得ていけるのかということです。もちろん、これは獣医だけでなく、業界や社会として解決していかなければならない大きな問題だと思います。
ただ、現在の立場としては、飼い主さん側の問題と動物病院側の問題があって、それをどうすれば解決できるのか、非常に悩んでいます。おそらく、動物病院自体もビジネスモデルを変えていかないと、社会に貢献することが困難になるのではないかと考えています。獣医師として、ネオベッツVRセンターのセンター代表として、広い視野を持ちながら、解決策を探っていきたいですね。
・代表にとって「動物」とは?
「空気のような存在」
私の場合は幼いころからたくさんの動物と一緒にいましたので、ある意味で空気のような存在です。一緒にいることがもう普通なので、好きとか嫌いとかの次元ではなく、いるのがあたりまえということです。そこに特別な意識はないですね。
【ネオベッツVRセンター】
住所:〒537-0025 大阪府東成区中道3-8-11 NKビル
TEL:06-6977-3000(ホームドクターがHPから予約)
最寄り駅:最寄り駅:地下鉄長堀鶴見緑地線 JR大阪環状線玉造駅 徒歩5分
URL:http://www.neovets.com
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