【みんなで防災:第10回】避難場所でのペット飼育の心がけ

過去の災害では避難所に犬や猫などのペットがいることによって、辛い避難生活に安らぎを感じることや支えになったという声がある一方で、鳴き声がうるさい、毛が飛んできて不衛生、ニオイが酷い、ノミが発生したなどが原因で、他人とのトラブルに発展してしまうことも多々ありました。

避難所には動物が好きな人、嫌いな人、アレルギーを持っている人など多様なたくさんの人が集まります。生活スペースも限られ、人とペットの距離も近くなります。そのため、飼い主は普段よりも周囲に配慮することが求められます。

周囲の人への配慮

避難所ではペットの世話やフードの確保、飼養場所の管理は飼い主の責任で行うことになります。飼い主同士が協力をして、ペットの飼育が可能なエリアと禁止のエリアを分ける等のルールをつくり、周囲の人への配慮を心がけましょう。また、災害状況の把握や物資入手のため、正しい情報を得るようにすることも大切です。避難所等でのチェックポイントは次のとおりです。

飼い主同士で協力し、避難所の人たちに配慮する

ペットの飼い主同士で「飼い主の会(仮称)」をつくり、ルールや役割分担を決めて協力し合うようにしましょう。その内容を避難所内に提示し、飼い主以外の人にも周知して理解を得ることが大切です。

飼育ルールの作成のポイントは、「ペットは飼育場所で飼育し、避難者の居住区と区別する」「ペットは基本的にキャリーバックやケージに入れるまたは係留して飼育する」「ペットの飼育管理は飼い主の責任で行う」「避難所は避難住民が優先の原則を守る」「散歩時はリードを装着し、排泄の後始末は飼い主が確実に行う」などです。

【事例1】(岩手県)ペット飼育者の多い避難所では、飼育していない避難者からの理解を得るために「飼い主の会」を設立し、各飼育者が役割を分担しぺット飼育体制を確保。
【事例2】(仙台)飼育者向けの避難所における飼育ルールを配布。


ぺットのフードや用品など支援物資配布の情報を共有する

ペットの飼育管理に必要なペット用品やフード等は、飼い主がそれぞれ避難所に持ち寄ることが原則です。しかし、避難が長期化する場合には、支援物資を調達する必要があります。

「飼い主の会(仮称)」は避難所の備蓄品の保管状況、使用状況を確認して、必要に応じて飼い主への配分を行います。また、救援物資の受け入れ、届いた救援物資の保管場所の確保、保管状況や使用状況を確認して、飼い主への配分を適切に行いましょう。

ぺットの飼育が可能なエリアでも周囲の人への配慮する

避難所内のぺット飼育可能なエリアであっても、鳴き声や抜け毛の飛び散り、排泄物の処理など周囲の人への配慮をしましょう。また、避難所周辺などに散歩に出た場合にも注意が必要です。

特にペットの排泄臭を防ぐために避難所周辺での排泄は避けましょう。やむを得ず排泄してしまった場合には、消臭ウォーターなどをかけてニオイの元を断ちます。排便は必ず持ち帰り、定められた場所に捨てましょう。

災害ボランティア等の支援を活用する

ペットに関するボランティア活動を行うことができる団体、ペット関連業者、動物病院、動物専門学校等に協力を依頼し、避難所におけるペット飼育を補完できる体制を作ることが大切です。行政やボランティアセンターと連携して、適切な飼育のための支援を依頼しましょう。

ペットの健康管理

災害時は物資が不足するため、衛生的な状態を確保することが難しい場合があります。また、大きなストレスから免疫力が低下し、人もペットも体調を崩し病気が発生しやすくなります。

特にペットは慣れない環境下であるため、むやみに吠える、攻撃的になる、食欲がなくなる、排泄をしない、下痢をするなどの問題が多く見受けられます。ペットの体調に気を配り、できる限り不安を取り除いてあげるようにしましょう。また、ペットの排泄は決められた場所で行い、速やかに排泄物を処理するなど、衛生に注意することが大切です。

車中泊での注意点

過去の災害において、ペットとともに避難した飼い主が選んだ避難場所には自家用車もありました。しかし、その車中泊で多く発生したのは、命の危険にも繋がるエコノミークラス症候群と熱中症、低体温症でした。

エコノミークラス症候群は、飛行機などの座席で長時間じっとしていて急に立ち上がった際に発生しやすい症状であるため、その呼び名が付けられました。正式な名前は「肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)」で、車内のように狭い空間で長時間じっとしていると、足や下半身などにできた血のかたまり(血栓)ができ、それが血流に乗って肺の血管(肺動脈)につまり、胸の痛み・呼吸困難・循環不全などをきたす病気です。

そうならないためには、定期的に車外に出て運動をしたり、水分をこまめに摂取して血の巡りをよくするようにすることが大切です。

夏場など暑い時期には熱中症にも注意が必要です。熱中症になると、意識がない・意識があっても倒れたまま動かない・体が異常に熱い・息が荒い・舌が異常に赤いなどの症状が見られます。車内の換気を度々行い、水分をこまめに摂取しましょう。

晴れの日はもちろんですが、曇りの日や外気温がそれほど高くなくても車内の温度は上昇しがちです。特にペットだけを車内に残す場合には、ペットが外に出ない程度に窓を少し開けておくなど車内の温度に注意しましょう。また、飲み水を十分用意することも忘れずに行いましょう。

また、寒い時期には低体温症に注意が必要です。低体温症は病名ではなく、直腸の温度(直腸温)が35℃以下になった状態を言います。冬場の外の気温が低いことで起こると思われがちですが、室内や車内でも起こることがあります。前兆としては、体の震え・思考力の低下・動作の緩慢(かんまん)などが見られます。さらに症状が進むと呼吸停止・致死性不整脈から死に至ります。

特に体温調節機能の低下や筋肉の減少、食欲の低下などがある高齢者の場合は低体温症になりやすいので、冬場の避難生活にはカイロなどお腹や背中などを温められるものが必須となります。避難グッズに入れておくとよいでしょう。

まとめ

過去の災害で起きた避難所でのペット飼育に関する問題の多少には、避難所ごとの意識の違いもありました。避難所の責任者の考え方、避難住民の数、避難住民の状況(動物嫌い、アレルギー、神経質等)によってもペット飼育に関する対応が大きく変わります。

しかし、それがどんな対応であっても、周囲の人への配慮が必要となります。飼い主同士で話し合い、共通のルールをつくり、飼い主の責任でペットの飼育管理をすることが大切です。飼い主自らの体調の管理と共に、ペットの健康管理にも留意しましょう。

車中での避難生活を選択した場合には、エコノミークラス症候群や熱中症、低体温症には十分に気を付けましょう。

第11回は「ペットが迷子になったら? 保護したらどうする?」をテーマに話を進めます。