ペットの歯磨き、きちんとできていますか?

ペットの歯磨きをきちんとしていますか?

私たちがペットと暮らす毎日において、歯磨き、ブラッシング、シャンプー、爪切り、耳掃除など、定期的なお手入れは飼い主の重要な仕事です。ペットにとって清潔で健康な体を維持するためのケアであることはもちろんですが、こうしたお手入れなどの触れ合いを通じて、ペットとのコミュニケーションを図ったり、病気の前兆などちょっとした体の変化にいち早く気づくことに役立ちます。

上に挙げたお手入れの数々の中には、当然ペットが嫌がって難しいものもあります。その代表とも言えるのが、歯磨きかもしれません。抵抗するペットとの攻防戦に負けて、しばらく歯を磨けていない……なんて人も少なくないのでは。

しかし、人間でもペットでも歯磨きは大切なことです。歯周病が全身的な疾患の発症や進展に関わってくるのは人間もペットも同じです。「うちの子は口の中にモノを入れるのが嫌だから……」なんて言って歯磨きを怠けていると、重篤な症状につながることもあるのです。そうしたペットの飼い主たちが全国から助けを求めて集まるという、目黒洗足動物病院の和田院長先生にお話をうかがいました。

目黒洗足動物病院院長 和田 整 先生
麻布大学卒業後、都内動物病院勤務を経て2012年に目黒洗足動物病院を開業。麻布大学付属動物病院全科研修医終了。獣医高度技術研修臨床研究終了。一般内科、一般外科、歯科をはじめ、がん腫瘍科から予防医療まで、犬猫のことならなんでもおまかせの地域に根差した頼れるホームドクター的存在。麻酔での治療が一般的な動物病院において、犬への負担を最小限にした無麻酔歯石除去を行う数少ない獣医師

3歳以上の犬猫の約80%が歯周病・歯肉炎!?

「歯磨きというと“虫歯予防”をイメージする人も多いと思いますが、そもそも、犬や猫が虫歯になることはほとんどありません」

なんと! 冒頭から意外な事実。では、犬や猫に歯磨きは必要ないということでしょうか?

「いいえ。犬や猫などペットの虫歯リスクは極めて低いのですが、一方で、気をつけなくてはいけないのが歯周病や歯肉炎です。歯周病が原因で歯肉が上がってしまうのを戻すのが大変なのです。その原因となる歯石予防のためにも、歯磨きはとても重要です」

実は、3歳以上の犬と猫の約80%は歯周病・歯肉炎を患っているとも言われているそう。歯石は食事による食べかすなどが元になりますから、ペットが成長して、生涯で食事の回数が増えていくほど歯石が溜まりやすくなり、歯周病・歯肉炎のリスクも高まるということになります。

「歯石の約75%は細菌です。この細菌が歯周病や歯肉炎を引き起こし、放っておくと歯が抜けてしまったり重度の場合は顎の骨が溶けてしまうこともあります。歯石のたまった口で食事をすることで、フードと一緒に細菌が体内に入ると、腎臓、肝臓、心臓などにも悪影響を及ぼしかねません」

本当は恐ろしいペットの歯周病

和田先生の元に訪れるペットの中には、飼い主さんが歯周病とは気づかずに、まったく違う病気やケガと思い込んで受診するケースも少なくないのだとか。

「例えば、鼻の根本や顎に出血が見られ、“どこかでケガを負ってしまった”と連れられて来て、実は歯周病によるものだった、というペットも多いですね。これは歯周病が進行して、歯の根元が腐食し、その先の骨や皮膚まで溶かしてしまったケースもあります。一見すると被毛がなくなり赤く出血しているので飼い主さんは外からの傷のように思ってしまいがちですが、実は口の中の損傷が外にまで貫通してしまっているのです」

一見ケガにしか見えないですが、これも歯周病が悪化したのが原因だそうです

こちらも口の中に穴が空いたひどい状態に

歯周病をチェック!

ペットのこんな症状が気になったら、歯周病かもしれません
口臭が気になる
歯石がついている
クシャミや鼻水がよく出ている
フードの食べ方が不自然
口を気にしている、よだれが多い
噛んで遊んだおもちゃに血がついていたことがある
顎のあたりが腫れてきた

ますは飼い主さんが口を触ることに慣れさせて

やはり、ペットのお口のケアは、放っておくわけにはいかない問題です。しかし、嫌がるペットに無理に歯磨きをすれば、さらに嫌いになって大変さも増す悪循環に。暴れるペットに噛まれたりなど、飼い主のケガにつながるかもしれません。

「最初から歯ブラシで奥歯まで磨こうとするのは難しいと思います。まずはガーゼでペットの歯の汚れをふき取れるようになることを目標にするといいでしょう。日ごろのスキンシップでペットのお口の周りを触りながら、徐々に慣れさせてください。子どものころから始めれば慣れるまでそう時間はかかりませんが、大人になってからでも諦めずに、根気よく、少しずつステップアップしていきましょう。奥歯までガーゼで拭けるようになったら合格。あとは、ペットの反応を見ながら、歯ブラシまで使えるようになれれば言うことはありません」

犬の場合、大型犬に比べて小型犬のほうが歯石がつきやすい傾向にあるそうです。さらに、犬種別ではダックスフンドが歯石が溜まりやすいとのこと。これも口内の酸性度やよだれの量が関係していると言われたりするそうですが、はっきりとした理由はないそうです。だからこそ、日ごろの歯磨きが大切なのです。

一方で、猫は犬よりもさらに口元を触られるのを嫌う傾向にあるため、より歯磨きに慣れさせるには時間と根気が必要になります。無理にブラシまでステップアップしようとせず、ガーゼでこまめに拭き取ることを習慣にしましょう。

「ペットが歯磨きを嫌うために、代わりに歯磨きガムを与えている飼い主さんも多くいらっしゃいます。お口のケアのひとつとして悪い物ではありませんが、硬すぎると歯の表層をはがしてしまうなどのダメージもあります。飼い主さんが爪で押してみて、跡が残るくらいの硬さがあれば充分です。また、ガムを飲み込んで食道に詰まった子もたくさん見てきたので、そういった危険があることも伝えるようにしています。やはり、ガーゼでの拭き取りや歯ブラシでのケアをメインに、ガムはあくまでその補足と考えてください。人間だって歯磨きガムだけで生活をしないのと同じですね」

和田先生が行う無麻酔歯石除去とは?

では、すでに家庭のケアでは落とせない歯石が溜まってしまった場合は、どうすればよいのでしょうか?

こうした場合に動物病院で歯石除去の相談をしたり治療を受ける人も多いでしょう。ただし、動物病院ではその多くが全身麻酔をして行われるため、ペットへの体の負担も大きなものに。高齢で内臓に疾患を抱えているペットなどには難しい場合も。私たち人間が歯科医院でやってもらう歯垢除去のように、気軽に行えるものではありません。

そこで、和田先生はできるだけ無麻酔歯石除去を行うそうです。

「歯科医院で歯石除去をしてもらった経験のある方ならわかると思いますが、歯石除去は歯や歯茎を傷つける施術ではないので、痛みは伴いません。しかし、口の中を機材でいじられるのは決して気持ちのいいものではありませんし、不安な気持ちになりますよね。犬だって同じことなんです」

つまり、従来の動物病院ではペットの歯垢除去のための全身麻酔は、痛みを感じさせないためではなく、不安で暴れないための措置というのが大きな目的。それなら、暴れるような不安な気持ちにさせなければ、麻酔は不要なのではないか。そう考えたのが始まりだったそう。

「もちろん、無理やり押さえつけるわけではありません。麻酔を使わずに、犬がおとなしくいてくれるための、エコーや眼科診療時の補ていの技術を応用しています。大切なのは犬との信頼関係。試行錯誤を繰り返しましたが、この方法で当院に来られるほとんどの犬たちはおとなしく奥歯まで歯石を取らせてくれますよ」

獣医師の世界では、「歯石を取る=麻酔をかける」というのが当たり前だったそうです。しかし、きちんと保定ができて、きちんと犬とコミュニケーションが取れれば、無麻酔で治療ができるので、一回で治療が終わらなくても、また一カ月後など短期間で治療ができるのがメリットだと言います。

「実際にペットショップやトリミングサロンなどで麻酔を使わずに管子やスケーラーなどで歯石を取ってくれるところもあります。ただ、それはあくまでも“歯石を取ること”なんですね。歯周ポケットの汚れもきれいにしないと根本的な治療にはなりません。無麻酔であっても麻酔をかけた場合でもやり方はまったく同じなので、きちんと治療できるのです」

歯の表面だけでなく歯周ポケット内部の歯石も取り除けるため、歯周トラブルの根本から解決できるという無麻酔歯石除去。体への負担も最小限にできるので、年に数回、歯石が溜まるたびに除去できるのも大きなメリット。体力の弱った高齢犬でも安心です。

「もちろん、麻酔を使って治療をしないといけないケースもあります。でも、そんなひどい状態になるということは、飼い主がまったく歯磨きができていないからです。治療を終えた後に何ができるか、といったら私には何もできないんです。数カ月後にまた同じようになっても、1年に何回も麻酔はかけられません。歯磨き教室で歯磨きのコツを教えたり、病院で歯石を取る回数が減るようにいろいろと提案しています。結局は、飼い主さんの毎日の努力が大切なのです」

やはりどんなに技術が進んでも、いちばん大切なのは、家庭での習慣的な予防ケアということには変わりないようです。

医療が進み、ペットの平均寿命も延びています。それはすごく喜ばしいことですが、その分、高齢になるほどに歯周病のリスクも高まっていきます。まずは飼い主さんの日々のケアで、歯石がつきにくいお口の環境を整えてあげましょう。食事後、歯に付着した歯垢は24~48時間で歯石になるといわれています。歯石予防には、毎食後の歯磨きが効果的です。ペットとスキンシップを楽しみながら、あせらず一歩一歩、歯磨きを習慣づけていきましょう。

目黒洗足動物病院
住所:〒152-0012 東京都目黒区洗足2-6-13
TEL:03-6451-0316
診療対象動物:犬・猫
診療時間:9:00~12:30/16:00~19:00(休診日なし)
URL:http://meguro-s.com/index.html

Previous post

あなたのかわいいペットたちが「かるた」になる!?

Next post

ペットがもたらす高齢者の健康への効果(後編)

コメントを送信