生化学からの「猫の栄養学」と「オゾン」による飼育環境の衛生管理

健全であること。これはブリーダーとしての責務だと思います。繁殖する犬や猫に敬愛心を持ち、犬種・猫種ついて知り、衛生的な環境を整え、健康を考えた繁殖をし、健全な子犬・子猫を産出し、健全な飼い主を選び託す。そのためには、つねに学び進化し続ける必要があるとペトハピは考えています。ペトハピが紹介している「太鼓判ブリーダー」とは、そういった志と向上心をもつ世界にも誇れるブリーダーたちなのです。

今回のセミナーは、猫のブリーダー向けに「猫の栄養学」と「オゾンによる飼育環境の衛生管理」の2本立てで開催しました。当日は、新型コロナウイルスの感染が各地で確認されるなか、関東だけでなく青森や長野からも30名の熱心なブリーダーが参加しました。

会場となったのは、高圧洗浄機で有名なドイツのケルヒャー。セミナーの前に、ペット家庭の掃除にオススメな製品の紹介と実演がありました。ちょっとしたゴミをサッと手軽に掃除できる小型で軽量なクリーナーの「スティッククリーナー」、立ったままで水拭き掃除ができる床掃除の概念を変える「フロアクリーナー」。そして、「スチームクリーナー」は、洗剤などの化学製品を使わずに高温のスチームだけでバクテリアを99.99%除菌するなど家中の汚れをきれいにします。参加者されたブリーダーさんたちは興味津々で、説明を聞いたり、実際に使ったりしていました。

生化学からの猫の栄養についてのアプローチ

「猫の栄養学」の講師は、日本獣医生命科学大学准教授で医学博士の川角 浩先生です。生化学の研究から、猫に必要な栄養素を解説しました。生化学とは、生命がどのように維持されているか、あるいはどのように病気を発症するかを生物の構成や物質、作用や反応を化学的に研究する学問です。

まず、大前提として、猫は犬と異なり完全な肉食獣であることが定義されました。猫はタンパク質要求量が高く、低タンパク量のフードではタウリンやアルギニン、アラキドン酸、レチナールなどが欠乏し、中心性網膜変性や拡張型心筋症、発育異常、繁殖障害を発症してしまいます。また、肝臓の尿素回路の活性が低下することにより、アンモニア中毒を発症しやすくなるといいます。アンモニア中毒は、放っておくと脳神経にダメージを与え、嘔吐やアンモニア臭のよだれなど、神経症状を発症する危険もあるのです。

猫の唾液には、消化酵素であるアミラーゼ(ジアスターゼ)がまったくないため炭水化物を消化できません。よって、炭水化物の許容量は私たち人間、雑食性の犬よりもはるかに少ないということです。さらに、猫の肝臓には糖を分解する酵素=グルコキナーゼがありません。なので、肝臓での糖の取り込みは期待できないということになります。また、腸の長さも体長比で3~4倍と、雑食能力のある犬の5~6倍よりも圧倒的に短いということも、肉食動物としての特徴を裏付けています。

猫には40%程度までの炭水化物を利用できるという意見もありますが、川角先生は、より適した三大栄養素の比率を究明したいと考えています。

猫にとっても肥満は万病のもと

避妊・去勢によって、ホルモンバランスが崩れ肥満になるということがいわれています。もちろん猫種や生活環境によっても差はありますが、猫は肝臓での糖の取り込みができないので高血糖になりやすいといのは事実です。過剰な糖は脂肪細胞において中性脂肪と蓄積されるため、もともと肥満になりやすいといえます。さらに猫は、身体のなかでインスリンが十分に作用しない状況(インスリン耐性)になると血糖の調整がうまくいかず、2型糖尿病を発症してしまいます。糖尿病は、腎臓病の原因にもなりうるので、やはり肥満には注意が必要のようです。

キャットフードと飲水

日本だけでなく、欧米でもドライフードの市場は、ウェットフードよりも大きいのが現状です。それは、栄養バランスが優れているうえ、開封後も長期保存が可能であること。そして、手軽で1食あたりの価格が安いといったメリットがあります。

ただ、ここで重要なのが水分です。ウェットフードには70~80%の水分が含まれていますが、ドライフードには3~11%程度しか含まれていません。なので、ドライフードを与えるときは、つねに新鮮な軟水を飲める状態にしておく必要があります。

しかし、どうしても水を飲まない場合には、ウェットフードを主として、ドライフードを添加するのがよいということです。ウェットフードは炭水化物の含有量も少なく、形状が猫本来の食事に近いからです。川角先生の研究によると、ドライフード主体の食事からウェットフード主体の食事への変更により、好気的エネルギー代謝の亢進を示した症例が報告されました。

猫の生命の営みには、特に水の代謝が不可欠で、猫の病気の70%以上は脱水に関係した病気と考えられています。水は体内に取り入れた栄養を全身へ運び、消化を助け、さらに酵素を働きやすくさせる役割を担います。

猫は犬より水分濃縮能が高く、一度に摂取できる水が体重の4%程度と少ないために、口渇に任せて飲水させると猫泌尿器症候群(FUS)に罹患しやすくなります。いかに猫に水を飲んでもらうか、30のヒントが示されました。

容器の素材はプラスチックではなく、ステンレス、ガラス、セラミック(陶磁器)にする。浅い皿にして頭数分用意する。循環式流水器を利用する。トイレから離れたところ置くなどすでに一般的な対応だけでなく、鶏や魚の煮汁で風味をつけたり、スポーツドリンクを5~6倍に薄めて与えることも推奨されました。

オゾンによる飼育環境の衛生管理

ブリーダーは飼育環境の衛生管理を徹底しています。一般的には空気清浄機を使うケースが多いのですが、それだけで除菌・消臭ができるわけではありません。今回は、オゾンのパイオニアでもあるマクセルによる、オゾンを活用した飼育環境の衛生管理の方法がレクチャーされました。

オゾンは⾃然界にあり、オゾン層として太陽の有害な紫外線Bを多く吸収し、地上の生態系を保護する役割を担っています。そのオゾン層を破壊する物質がフロンとなのです。オゾンは、私たちの身近なところでも活用されています。食品加工工場や食品スーパーをはじめ、病院、ホテル、タクシー会社などはオゾンで除菌・消臭を行っています。

オゾンの特徴は主に3つ。まず、酸化力が高いということがあげられます。酸化とは、ウイルスや原因物質を不活性化させることです。酸化力が高ければ、除菌・消臭能力が高いということになります。そのチカラは塩素の約6倍ともいわれています。

次に原料。空気だけを電気分解して作られます。アルコールや塩素などの薬剤を生成してつくるものではないので、安全・安心な物質と言えます。そして、コストも安いというメリットもあります。

最後に残留物がないということ。オゾンは自己分解するので残留物が残ることはありません。ウイルスや原因菌を酸化し最終的にCO2とH2O、いわゆる二酸化炭素と水になるというわけです。さらに、耐性菌をつくらせないというメリットもあります。WHO (世界保健機関) 、国連は、薬剤耐性菌の増加は危機的状況という報告書を出しています。こういった面でもオゾンの有効性は実証されています。

ただし、オゾンは酸化力が高いので、使い方を誤ると人体だけでなくペットにも影響を与えます。食品工場などと違い、常に人とペットがいる空間ではオゾン濃度をしっかり管理する必要があります。マクセルは、そうしたことに配慮した一般の家庭で使える、酸化力と安全性を両立させた低濃度オゾン除菌消臭機「オゾネオ」シリーズを製造・販売しています。

マクセルは、衛生的な空気環境をつくるためには「守り」と「攻め」両方が必要だとしています。「守り」は空気清浄機です。空気清浄機は空間の空気を吸い込み、製品内のフィルターなどでウイルスやニオイの原因菌などを除去します。しかし、壁やカーテン、ソファなどに付着したものは吸い込むことができないので効果はありません。それらに対しては「攻め」が必要になります。オゾン発生器は、酸化力の高いオゾンを空間の隅々まで運ぶので、空気清浄機では除去できない、付着したウイルスやニオイの原因菌などに直接攻撃し、除菌・消臭してくれるのです。このように「守り」と「攻め」両方を稼働することで、理想的な飼育環境が実現できるのです。

続いて、オゾン⽔⽣成機の紹介もありました。オゾンは自己分解の過程において、水と反応するとOHラジカルという物質に変化します。OHラジカルはオゾンよりもさらに除菌・消臭能⼒が⾼いのが特徴です。ニオイなど気になるところに直接噴霧することで除菌・消臭します。オゾン水は、塩素系水溶液に⽐べて約20倍の効果がありながらも、非常に短寿命という性質によって、気体のオゾン同様に残留物が残らず耐性菌もつくらないという利点があります。そういったところから、現在では水道局、食品加工工場、病院などでも活用されているのです。

今回は説明だけでなく実演も行われました。オゾンの実験は、不織布にフェノールフタレインでピンクに着色したアンモニアを吹き付け、オゾンを発生させたボックスと、オゾンを発生させていないボックスに入れました。10分間ほど経過したところ、オゾンを発生させていないボックスの不織布はピンクの色が残ったままでしたが、オゾンを発生させたボックスの不織布は元の白い不織布に戻っていました。

オゾン水の実験は、コップにアンモニアを吹き付けニオイを確認いただきました。鼻を近づけず少し離れた状態でも強烈なニオイでした。そのコップをオゾン水でゆすいだところ、まったくニオイがなくなりました。残留臭もなく、皆さんも効果に納得されていました。

現在、中国の武漢市で発生した新型コロナウイルスが、国内でも感染が広がっています。現時点では、新型コロナウイルスを入手したり、実際に効果試験を行なったりできる状況にはありませんが、オゾンはさまざまなウイルスを除去する効果は確認されています。オゾンによる殺菌、衛生、疾病治療、予防医学などへの応用や研究をする「日本医療・環境オゾン学会」でも、新型コロナウイルスに対するオゾン水の期待される効果について見解をだしています。安心・安全なマクセルの「オゾネオ」シリーズは、こういった状況でも効果が期待できそうです。

今回の「栄養学」の講義は、獣医師を目指す学生さん向けの高度な内容でした。しかし、猫の生涯にわたって飼い主をサポートし続けるためには、常に最新で正しい情報を得なくてはなりません。健全なブリーダーは、いままでの経験則やエビデンスのない俗説だけでは足りないことを知っています。「いままでの認識が変わった」「難しかったけど勉強になった」などの声と共に、難病とされる「FIP(猫伝染性腹膜炎)」に対する米国での治療法などにも要望をいただきました。今後もペトハピでは、健全なブリーダーを支援していきたいと思います。