動物の地震予知(後編)
犬と猫は、共通の祖先(ミアキス)を持つ。ミアキスは、恐竜が滅び、哺乳類が地上を支配するようになった約6500万年前から4800万年前に生息した小型(イタチぐらいの大きさ)の哺乳類である。森の中で樹上生活を送っていた動物のうち、森を出て行ったのがオオカミ(犬の祖先)であり、そのまま残ったのがヤマネコ(猫の祖先)である。
森を出たオオカミは獲物を得るために、仲間を集め、社会生活を始めた。ヤマネコが残った森には、木の実や小虫など食べるものが豊富にあるため、一頭でも生活できる。その一方で、自分の身は自分で守らなくてはならない。そのために、猫は想像を超えた能力を身につけた。そのひとつに「地震予知」の能力がある。阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)発生前の猫の異常行動は、犬のそれより遥かに多い。
「異常行動」とは、いつもと明らかに異なる行動のことであり、猫の場合は「いつもいる場所にいない」「どこかに行ってしまった(行方不明)」など地震発生後に気づくことが大半であり、地震の発生前に気づくことは稀である。しかし、「行動量」は地震の発生前には明らかに増えることが東日本大震災後に分かった。この「行動量」を測るのに、都合のよい機器がある。
猫の首輪に「Fitbit(フィットビット)」などの活動量計を装着するのである。この小さな万歩計のような機器はコンピューターやスマートフォンなどと同期して、行動量を見やすいグラフで表示することができる。地震前の猫の行動量は、数日前から増加し、複数回のピークを示す。実際に猫(約20頭)の行動量変化を麻布大学(著者の前任地)の山内寛之博士が観測しており、Webサイトで見ることができる。観測地は関東に限られ、熊本地震では役に立たなかったのが残念ではある。
阪神・淡路大震災後から20年余におよぶ「動物による地震予知」研究によって、およそ「半径200キロメートル」以内の地震であれば、かなりの確率で「地震の規模と期日」を予測できる。私は、この予測は猫にしかできないような気がしている。もちろん、犬にも可能性はある。「異常行動」の質が猫とは異なり、「吠える」など分かりやすいことがメリットではあるが、「行動量」など客観的なものでないことが大きなデメリットでもある。また、Fitbitの装着による行動量の測定も、「散歩」が強く影響するため、地震の来襲によるものか、判別が難しい。いずれにしても、猫であれば、犬のデメリットを確実にカバーできる。
動物はどうやって大きな地震の来襲を感じ取っているのだろうか? これは依然として不明のままであるが、何かしらの形で、動物が地震を予知していることはほぼ間違いないだろう。2004年スマトラ島沖地震(2004年12月26日)でも、タイ南部のリゾート地カオラックで、観光用の象が津波が来る直前に高台へ向かって走り出し、背中に乗っていた観光客十数人が難を逃れている(ロイター通信)。ほかには、スリランカの自然公園の象も、ピューケット(タイ)の野良犬が津波の前に逃げ出し、津波にさらわれた犬は一頭もいなかったという。
そして、猫は純血種よりも雑種のほうが予知能力が高いと考えらえる。このことは、「自分の身は自分で守る」本能が、雑種のほうが高いことを意味しているのかもしれない。
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