いま「ペットの終活」が注目される理由とは?
数年前から「ペットの終活」についての話題が増えてきました。その多くはシニア期以降の犬や猫の終焉をテーマに、最後の過ごし方や供養の仕方に重きを置く考えになっています。しかし、私は少し違う考えを持っています。それは「命には限りがあることを意識して、後悔のないように、いまを楽しく有意義に過ごすためにペットの終活を実践する」という考えです。その考え方がいまペットロスを軽減することに繋がるのではないかと注目されつつあります。今回は「生きる」をテーマにしたペットの終活についてお伝えします。
ペットの終活とは
「ペットの終活」という言葉を目にしたとき、多くの飼い主は「そんなことは考えたくない」「まだまだ考えるのは早すぎる」と思うことでしょう。毎日、元気なペットの姿を見ていれば、別れの時のことなど考えたくないのは当然かもしれません。
じつは人間の終活においても、はじめは「縁起でもない」との思いが強く、なかなか浸透しませんでした。初めは葬儀会社や霊園などから発信が始まり、人間の終焉を考える=終活というイメージでしたから無理もないことでした。しかし、多くの終活アドバイザー等の活動もあり、「死」がテーマではなく「生きる」が最大のテーマであるということが広まっていきました。「さまざまな準備を整え、その後の人生を穏やかに有意義に過ごし、後悔しない人生にしよう」ということです。いまでは「死」に背を向けることなく、受け止めることの大切さを感じ、若いころから終活を始める人が増えています。
私は「ペットの終活」においても、同じような考え方が必要であると思っています。犬や猫は人間の約4倍のスピードで年を重ねていきます。人間の生涯よりも、とても短いのです。平均寿命は小型犬・中型犬で15年、大型犬で10年、そして猫で15年。単に時の流れに身を任せて過ごしているだけだと、あっという間にペットは旅立ってしまいます。
だからこそ、最後の過ごし方や供養の仕方を考えるだけでなく、愛するペットとともに生きる時間を「どう生きるのか」を真剣に考えていただきたいのです。大切なのは、いつか訪れるペットとの「別れ」を飼い主がきちんと受け止め、それまでの時間をできる限り楽しく、幸せに過ごすということです。そのために飼い主が何をしたらよいのかを考え、いまから行動することが「ペットの終活」だと考えます。
しかし、ペットは人間と違い自分で終活をすることはできません。人間の終活と決定的に違うのは、ペットに代わって飼い主が進めていくということです。愛するペットに対する思いを一つひとつ形にしていくのが「ペットの終活」です。日々、飼い主にたくさんの癒しを与えてくれるペットに対しての恩返しにもなると思っています。
愛するペットを亡くして後悔すること
私は数年前に大型犬のボルゾイを3頭飼っていました。パパ・ママ・息子です。しかし、3頭とも寿命をまっとうすることなく、早くに旅立ってしまいました。息子はペットホテルの従業員が判断ミスをし、病院への搬送が遅れたことによる胃捻転での急死。私が駆け付けたときにはもう亡くなっていました。3歳という若さでした。パパは5歳のときに脳内出血からのショック死。動物病院で獣医師とともに1時間以上蘇生を試みましたが、息を吹き返すことはありませんでした。ママは8歳のときに血管肉腫というリンパの癌に侵され、闘病の末に亡くなりました。それぞれ亡くなった経緯も年齢も違いますが、現実に直面したときの狼狽や心に残った思いは同じでした。
「もっと一緒に遊んでおけばよかった」「もっとしてあげられることがあったはず」「もっと病気や介護について勉強しておけばよかった」「もっと葬儀やお墓について考えておけばよかった」など、後悔の言葉ばかりが、走馬灯のように頭のなかを巡りました。こんなにも早く旅立ってしまうとは思いもせず、ただ毎日のことだけを考え、彼らと過ごしていたのです。「別れ」が突然にやって来ることも気づかずにです。あれから時間が経ちましたが、いまでも思い出すと胸が締め付けられるくらい苦しくなります。私のなかに残る後悔が、そうさせていると感じています。
少し前に、ウェブアンケートの結果がネット上に掲載されていました。ペットロスを経験したことのある飼い主に「生前にこんなことをしてあげればよかったと思うこと」という問いかけをしたそうです。それに対して、次のような回答が寄せられていました。
「もっと遊んであげればよかった」
「もっとかわいがってあげればよかった」
「もっと一緒にいてあげればよかった」
「人間の都合で散歩にいかないときがあったことを後悔している」
「お留守番が多かったことを後悔している」
「もっと健康に気を遣ってあげればよかった」
「もっと早く病院へ行ってあげればよかった」
「病気の知識を持って毎日を過ごせばよかった」
「もっとよい病院を探しておけばよかった」
そしてペットの最後を看取れなかった飼い主からは、次のような回答が寄せられていました。
「最後のときにもっとそばにいてあげればよかった」
「嫌いな病院でひとり死なせてしまったので自分で看取ってあげればよかった」
「亡くなる瞬間に声をかけてあげればよかった」
「最後の看取り方を事前に考えておけばよかった」
回答された飼い主もペットが生きていたときには、きっとその時にできることをやってあげていたはずだと思います。でも振り返ってみると私と同じように「もっとできたはず……」という後悔が浮かんできてしまうのです。
愛するペットが旅立ったときの悲しみの深さは、ペットロスになってしまうほど耐え難いものがあります。100%後悔もなく、穏やかな気持ちで見送れることはないでしょう。しかし、アンケート調査の回答にあるような後悔の念は、ペットが生きている間にさまざまな準備を整え、いまをより楽しく幸せに過ごすことで、その重さを少しは軽減できると思うのです。
そして、その分だけ最後のときに少しだけ穏やかに、「ありがとう」という感謝の気持ちを添えて見送ることができると思うのです。「ペットの終活」は後悔の念をできるだけ軽減し、少しでも穏やかな気持ちで、旅立ちを見送るために必要なものです。それがペットロスを軽減することにも繋がると考えています。
ペットが元気な間に「もっと遊んであげよう」「もっとかわいがってあげよう」「もっと健康に気を遣ってあげよう」と飼い主が思えば、ペットはいまよりも楽しく、幸せに過ごせることになります。「よい病院を探しておこう」「よい保険に加入し、万が一のために備えよう」「介護について勉強しておこう」と飼い主が思えば、ペットはいまよりも適切な治療と介護を受けることができます。
また、「供養の仕方を考えておこう」「よいお墓を探しておこう」と飼い主が思えば、失敗することなくペットにふさわしい供養をすることができるのです。そして、万が一のことは飼い主にも起こります。「この子が路頭に迷わないように、自分に何かあったときに託せる人を決めておこう」と飼い主が思えば、愛するペットはその後も幸せに過ごしていくことができます。
ペットは家族の一員です。飼い主が愛するペットのために、そして自分自身のために、いまを活き活きと生きることを目的とした「ペットの終活」を積極的に考える時期が来ているのです。
「ペットの終活」取り組みのポイント
飼い主の皆さんのなかには、すでに「ペットの終活」を意識して実践している方もいると思います。また、知らず知らずのうちに必要と感じ、進めている方もいることでしょう。下記は「ペットの終活」に必要な4つの項目を簡単に説明したものです。
●医療・保険
飼い主の治療方針を決めて、ホームドクターを探しておきます。ペット保険やペット信託について知り、もしもの事態に備えておきます。
●想い・思い出
ペットの詳細情報(犬種・猫種、性別、生年月日、マイクロチップ番号、避妊去勢の有無、譲渡先、接種済みの予防接種、病歴、かかりつけの動物病院名、ペット保険、薬の副作用、アレルギーなど)を1冊のノートに整理します。ペットの写真やペットとの旅行など、これまでの思い出を整理し、振り返ることで、ペットと一緒にこれから何をしたいのかが見えてきます。一緒にしたいことを箇条書きに書き出していきます。
●介護・ホーム
ペットが寝たきりや認知症になったときの介護の方法や方針、延命治療について考えておきます。利用できる施設やサービスなども事前に情報収集しておきます。
●供養・お墓
飼い主が望む、ペットに合った供養スタイルを考えておきます。いまは本当にさまざまな供養スタイルがあります。いざというときの金銭的・精神的な負担が軽減できるよう、事前に調べて、具体的に見積りを取るなど、準備をしておきます。
これから始める場合は、まずはペットの詳細情報をまとめて、家族が共有できる場所か、誰もがわかる場所に置くようにしましょう。その後、上記の内容を順番に進めていき、1冊のノートやファイルにまとめておくことをオススメします。ノートは「ペットの終活」の意味合いからは、いまを楽しく幸せに過ごし、後悔を軽減し、穏やかな気持ちでペットを見送るためのものです。しかし、飼い主に万が一のことが起こったときには、ペットに対する思いや気持ちを、新しい飼い主へ伝えるための愛情溢れるノートにもなるのです。それを見れば大切に育ててくれることでしょう。
飼い主であるあなたは、ペットを家族に迎えてから今日まで、どんなふうに過ごしてきましたか?「ペットの終活」を進めながら、これまでの時間を振り返り、そして、ペットとともに過ごす未来を思い描くことができたなら、これから先はより楽しく幸せな時間を過ごすことができます。「元気なうちにやりたいこと」「いまのうちからやるべきこと」をいまから進めていきましょう。詳しい内容は 「ペット終活のすすめ」の第1章~第8章をご覧ください。
まとめ
人間もペットも命には限りがあります。その限りある命を意識して生きることで、人生も愛するペットとの時間も、いまよりももっと輝くと思います。「ペットの終活」は決して「死」がテーマではなく「生きる」がテーマです。飼い主とペットとの毎日がより満ち足りたものとなるよう、それを実現するひとつの方法だと考えていただければ幸いです。
【告知】
ペトハピでは、12月1日に「恩返しのペットの終活」と題したセミナーを、リソル⽣命の森にて開催します。講師は著者であり、ペットジャーナリストとしても活躍する阪根 美果さんです。終活を進めるうえで重要なポイントや、ペットとの暮らしについてなど幅広くお話します。ぜひご参加ください。
「恩返しのペットの終活」
開催⽇時:12⽉1⽇(⽇)13:00〜14:30
開催場所:リソル⽣命の森 フォレストアカデミー
住所:千葉県⻑⽣郡⻑柄町上野521-4
申込み:リソル⽣命の森に電話にて(0475-35-3333)
受講料:500円(教材費含む)
URL:https://www.seimei-no-mori.com/events/event/20191201
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