猫との暮らしで知っておきたいこと Vol.18

【猫飼いTIPS】猫の腸内細菌の善玉菌は人や犬とは異なる

[2020/04/24 6:01 am | 編集部]

近年、食べたものを消化吸収する腸には、猫の健康を左右する大切な役割があることがわかってきました。腸内細菌を食事やサプリメントなどで活性化させることで、全身の免疫細胞が活発に動くようになり、健康を維持し、病気の予防にも繋がるといわれています。しかし、猫の腸内細菌については、あまり研究が進められていませんでした。「善玉菌を増やして腸内環境を整える」ことは、愛猫の健康寿命を延ばすためにも必要な要素です。

そもそも腸内細菌とは?

細菌が子猫の体内に入るルートは、母猫の産道、母猫やほかの猫との接触、外界のものを口にしたときの接触、食事などからとさまざまです。そして、付着した細菌が子猫の口や鼻の中、皮膚、生殖器などで増殖して、それぞれの場所に定着して常在細菌となります。そのうち腸の消化管内に定着したものを腸内細菌と呼びます。

猫の腸には1000種類以上、数にすると数百兆個の腸内細菌が生息しているのです。腸の内面を広げると想像するよりかなり広く、そこに花畑のように細菌類が生息しています。そのため、腸内フローラ(フローラ=花畑の意)とも呼ばれています。

この腸内フローラのなかに存在するのが腸管免疫です。これは、体内に侵入しようとする細菌に対しては、抗体をつくって防ごうとしますが、食品などの安全なものには免疫抑制機能を働かせ、過剰な反応を起こさずに栄養を取り入れるという優れた機能を発揮します。「善玉菌」といわれる菌を増やして、免疫細胞を強化し、「悪玉菌」といわれる菌を圧倒することは、猫の健康を維持するために必要な要素なのです。

「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」

腸内細菌は、それぞれの作用や体に与える影響によって、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」の3つに大別されます。

善玉菌は消化吸収の補助、ビタミンの合成、感染防御、免疫刺激など、体に対してよい影響を与え、健康維持に繋がる菌です。よく知られている菌には、ビフィズス菌や乳酸菌があります。それに対して悪玉菌は、腸内腐敗、細菌毒素の産生、発ガン物質の産生、ガス発生など、体に対して悪い影響を与え、病気の引き金に繋がる菌です。ウィルシュ菌やブドウ球菌、大腸菌(有毒株)などがあります。

また、日和見菌は健康なときは影を潜めていますが、体が弱ると腸内で悪い働きをする菌です。バクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌などがあります。「腸内環境を整える」ということをよく聞きますが、それは悪玉菌の数を減らして、善玉菌の数を増やすことにより、健康を維持していきましょうということなのです。

猫の腸内の「善玉菌」は?

人の腸内においては、乳酸菌の仲間のビフィズス菌が善玉菌の代表として重要であることが知られています。しかし、犬や猫の腸内細菌の研究は、数年前までほとんどされていませんでした。2017年1月に発表された東京大学、日清ペットフード、日本獣医生命科学大学の合同チームの研究で、犬の善玉菌で重要なのは乳酸菌の仲間の乳酸桿菌であることがわかりました。

猫の腸内細菌の研究は、2017年8月の科学誌「PLOS ONE」(電子版)で発表されました。猫にも人や犬と同様に腸内細菌があり、善玉菌を増やすことで健康になる可能性があり、善玉菌の代表として重要なのは、腸球菌であることがわかったのです。人や犬に重要であるビフィズス菌や乳酸桿菌は優勢ではなく、その同じ位置にいるのが腸球菌だったということなのです。

近年、人やペットの腸内環境を整えるために、ビフィズス菌などの乳酸菌を補うことを目的にした整腸剤や食品、サプリメントなどが広く使用されています。猫にも効果があると考えられ、幅広く使用されていますが、この研究結果から考えると、猫に特化したものが開発される必要があるということです。

加齢による腸内細菌の変化

この研究では、腸内細菌の加齢性の変化を調べるために、5つの年齢ステージ(離乳前、離乳後、成年期、高齢期、老齢期)の猫10頭から糞便を採取して行われています。その腸内細菌を培養して、ステージごとの特徴を調べています。

人ではビフィズス菌、犬では乳酸桿菌が加齢とともにその数が減少することが知られていましたが、猫も同じように加齢とともに腸球菌の数が減ることがわかったのです。特に高齢になるにつれ、人や犬に共通する「悪玉菌」が増えていくそうです。年齢を重ねるごとに腸球菌を補い、腸内細菌の中で優勢に保つことが、猫の健康を維持するために必要な要素ということです。

まとめ

「猫にとっては腸球菌が優勢な有用菌であることがわかりました。この発見は、猫に特化した腸内バランスを保つ、新しいペットフードや整腸剤の開発につながります。猫の健康改善法のさらなる進歩が期待されます」と発表資料のなかで東京大学の平山和弘准教授らがコメントしています。

「猫 善玉菌」でネット検索してみると、「犬猫用」「ペット用」と乳酸菌を主に考えた整腸剤や食品、サプリメントが多く見られます。猫の重要な善玉菌が人や犬とは異なることが示唆されたのであれば、愛猫の腸内環境を健康に保つために、「腸球菌」を含むものを与えたいと多くの飼い主が考えることでしょう。猫の健康のために、今後の開発を期待しましょう。

[編集部]