ペットが新型コロナウイルスに簡単に感染するとは考えられていない

[2020/06/09 6:00 am | 編集部]

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のアウトブレイクから5カ月、遅れてWHOが世界的なパンデミックを宣言してから約3カ月が経過しました。この間、感染者数は世界で680万人を超えました。しかし、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の陽性が確認されたペットは25頭未満でした。

国際獣疫事務局(OIE)によると、ペット(犬や猫)がSARS-CoV-2に感染したという報告は世界中で20件程度ですが、いずれの報告もペットが感染源であることを示唆していません。SARS-CoV-2の陽性が確認された数少ないペットから得られた証拠は、その感染自体は、COVID-19に感染した人間(飼い主など)との密接な接触の結果であることを示しています。

米国獣医師会(AVMA)は、6月3日のレポートで以下のように報告しています。


SARS-CoV-2の実験的感染の研究では、フェレット、シリアハムスター、および猫(ペットとして飼育されている)は、人間からの感染が確認されていますが、犬では確認されていません。また、試験管や培養器のなかでの試験では、理論的には動物から動物へ感染する可能性があることが示唆されています。しかし、これもまだ確定的な中間宿主は特定されていません。このように、ペットが通常の環境下で容易に感染するという証拠はほとんどなく、また、ペットが人間にウイルスを感染させるという証拠も今のところありません。私たちにおけるCOVID-19は、人間から人間への感染とされています。

出典:米国獣医師会(AVMA)

ペトハピでもすでに「新型コロナウイルスは猫から猫へ感染拡大するのか?」で触れているように、ペットが通常の条件下でSARS-CoV-2に感染することは稀であることを示しています。その裏付けとして、米国の2つの民間研究所からレポートが出されています。米国、カナダ、ヨーロッパなどの犬や猫から採取された何千もの検体をPCR検査した結果、陽性反応が見られなかったのです。それらの検体は、COVID-19の感染や陽性の疑いのある人と接触した可能性のあるペットの検体ではなく、犬や猫の呼吸器疾患を引き起こす一般的なウイルスの検査のために提出したものではあります。しかし、検体の多くは、人間のCOVID-19の感染者数が多い地域であるというのは事実です。

ペットへの感染は香港からはじまった

ペットへの最初のSARS-CoV-2感染報告は香港からでした。香港農業水産管理局(AFCD)は、COVID-19が原因で入院した人のいる家庭のペット(犬30頭、猫17頭、ハムスター2頭)を検疫所に収容し検査したところ、陽性反応が出たのは犬2頭と猫1頭のみで、ウイルスのRNA配列および血中の抗体の検出によって確認されました。この3頭はいずれも呼吸器疾患などの症状を示さず、PCR検査結果で陰性が確認されたあと、14日間にわたる検疫所での滞在を終え、無事に家庭に戻りました。この詳細は5月14日に「Nature」に掲載されています。

米国では、米国疾病管理予防センター(CDC)と国立獣医サービス研究所(NVSL)が、ニューヨーク州で2頭の猫への感染を報告したのが最初でした。2頭の猫には軽度の呼吸器疾患の兆候がみられましたが、完全に回復するとされました。2頭のうち1頭の飼い主はCOVID-19に感染していることが確認されましたが、彼が同居するもう1頭の猫は検査で陰性でした。感染した別のもう1頭は屋内外で生活するの猫で、飼い主にはCOVID-19の症状はなく検査もされていませんでした。しかし、この猫はCOVID-19感染者数の多い地域に住んでいたことから、感染していたが無症状であった飼い主、もしくは近所の別の感染者との接触によって感染したのではないかと推測されました。5月21日の時点では、米国で感染が確認されたペットはこの2例だけです。

ミンクから人間への感染が発生した可能性も

このように、ペットの感染は人間からのもと考えられており、ペットからペットへ、ペットから人間への感染は通常生活においては可能性が低いとされていました。そんななか、オランダのミンク養殖場で20匹のミンクがSARS-CoV-2に感染し、肺炎を発症して死亡するという発表がありました。そして、数人の飼育員がCOVID-19の症状を示したというのです。当初は飼育員がミンクにウイルスを感染させたと考えられていましたが、その後、ゲノム配列を比較解析したところ、感染した飼育員のひとりはミンクから感染した可能性があることが示唆されました。

ただ、5月29日にWSAVA(世界小動物獣医師会)が出した勧告では、このような状況でも現段階で感染のルートを証明することは困難であり、人獣共通感染を証明するためにはさらなる検証が必要であるとしています。

同様に、オハイオ州立大学のウイルス学者Linda Saifは、実験室での同種の動物への感染、今回のミンク養殖場での感染を踏まえて以下のように語っています。


動物が同じ種のほかの動物に感染する可能性があるという事実は、それが人々に感染する可能性があることを必ずしも意味しない。また、動物から人間への感染という方向を証明することは非常に難しい。

出典:Nature

それでも、その可能性を排除すべきではないとする声もあります。その根拠は、ウイルスが種をまたいで感染することは珍しくなく、その広がりを制御することは困難だからというものです。SARS-CoV-2ももともとはコウモリを起源とする可能性が高いとされ、2009年にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザウイルス(H1N1)も養豚場で豚から人に直接感染し、その後人に伝染して広まったとされています。これは、ウイルスが亜種をつくり動物体内で循環し続けるからだといいます。

私たち飼い主に求められること

SARS-CoV-2はまだ調査・研究が継続されており、絶え間なく新しい情報が発表されています。ペットとの関係性についても、まだ確定的な結論には至っていません。ですので私たち飼い主は、日々の更新情報を注視しながら、冷静に対応をする必要があります。また、国内では不安を煽るような記事も見られますが、正確な情報を見極めることも大切です。

「新型コロナウイルスは猫から猫へ感染拡大するのか?」でも言及しているように、まずは、私たちが感染しないように注意すること。そして、万が一のペットへの感染を避けるために、これまで推奨されていることを繰り返し行うことです。

・帰宅時はすぐに手洗いうがいをする
・猫は完全室内飼育にする
・ペットとの濃厚接触を避ける
・飼い主が感染した場合のペットの預け先を決めておく

[編集部]