ペット生活ファーストステップ Vol.13

愛犬の健康と長寿は健康診断が支える!

[2016/05/02 6:00 am | 辻村多佳志]

前回までの記事では、特定の病気を未然に防ぐために、飼い主さんが必ず行っておくべき対策についてご紹介しました。どれも重要な健康対策でしたが、今回は、愛犬の健康と長寿を支える土台、ペットとの共生生活の基礎の基礎になる「健康診断」について考えていきましょう。

毎年1回の健康診断では、足りないかもしれません

私たち人間にとって、病気の早期発見などに欠かせない健康診断は、もちろん犬にとっても重要です。犬は人間の言葉を話せませんから、体調に何らかの変化があったとしても飼い主さんに声が届きにくいですし、なにより犬はがまん強い動物です。もともと犬は痛みを感じにくい動物だそうですし、野生の世界では、ちょっとした体調不良で寝込んでしまっては、ほかの動物に襲われる危険も高まります。ですから、犬が明らかに苦しそうな素振りを見せたとするなら、もはや病気が危険息まで悪化している可能性が高いのです。

さらに、犬の平均寿命は15歳弱と言われています。つまり、人間にとっての1年は、犬にとって5年に6年にもあたるわけです。先月まで元気だった愛犬が突然息を引き取ってしまった……という悲劇的な結末が、いつあなたの身に襲い掛かるかわかりません。というよりも、健康診断を怠っていると、かなりの確率で悲劇に見舞われると考えておくべきでしょう。

人間に比べて数倍のスピードで年を取っていく犬にとって、健康診断は年1回では足りないかもしれません。とくにシニア犬にとって、年数回の健康診断は命綱です。混合ワクチン接種やフィラリア駆虫薬投薬に合わせて、健康診断を行う飼い主さんは多いと思いますが、できれば病気の兆候がなくても定期的に健康診断を受けておきましょう。

愛犬のホームドクターをつくろう

では、健康診断を行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか。「病気の早期発見」はすぐに思い浮かぶことでしょう。しかし、それ以上に重要なのは「ホームドクターをつくれる」ことです。

健康診断や各種の病気予防対策、治療をいつもお願いしているホームドクターのもとには、愛犬の過去の体調や病歴、どんな病気をおこしやすい体質なのかなど、「過去の情報」が蓄積されていきます。この蓄積がなによりも重要なのだそうです。前回の健康診断と比べ体調にやや変化があれば、病気のさらなる早期発見に役立ちますし、たとえ血液検査などの数値が悪かった場合でも、それが本当に重大な病気によるものなのか、または一時的な体調不良なのかを判断しやすくなります。

さらに大切なのは、「触診検査の確実性が高まる」こと。犬の健康診断の際には、獣医さんが愛犬の体の各部を注意深く触診します。子犬時代から定期的に診断を受けていると、関節の病気や腫瘍、皮膚病、ケガなどのわずかな兆候に気づきやすくなるのだそうです。健康診断や病気のたびに別の獣医さんを受診する人もいるようですが、可能ならば子犬のころから同じ獣医さんを受診し続けるべきでしょう。引っ越しなどでやむを得ず獣医さんを変える場合は、今まで面倒を見てくれた獣医さんからカルテのコピーをもらうと安心できます。必ず過去データをもらえるとは限りませんが、遠慮せずにお願いしてみましょう。

血液検査のデータには、愛犬の体の様子が見事に現れます

では、健康診断ではどのような検査を行うのか、一つひとつ見ていきましょう。まず、触診はほとんどの獣医さんが行う基本中の基本。それに加えて「血液検査」を行う場合がほとんどです。昨今は血液検査技術が発達し、小規模な獣医さんでも血液検査システムを備えていたりしますし、検査にかかる時間も20分程度と、以前に比べ大幅に短縮されました。検査料金は項目によって異なりますが、体調維持のための基本的なもので3000円~5000円、より高度な検査の場合は1万円前後と考えておけばいいでしょう。

正直なところ、触診と血液検査で5000円は高い、とてもではないが年間数回も検査できない、と感じる飼い主さんは少なくないかもしれません。しかし、触診や血液検査を怠ったがために病気が進行してしまったら、毎月何万円、何十万円という高額な治療費が必要にならないとも限りません。わが家の愛犬がお世話になっているホームドクターによると、血液検査の測定表を見ると、その犬の体の各臓器がどのような状態になっているのか、今後どのような変化をたどっていくのかを、まるで透視でもしたかのように思い浮かべることができるそうです。

血液検査で異常が現れた、または触診などで気になる所見が見られた犬には、尿検査、レントゲン検査、エコー検査など別の検査を行って症状を特定します。また、過去に大きな病気を治療した犬や、慢性的な疾患を抱えている犬、体の各部が衰えを見せているシニア犬などでは、体調管理のためにこれらの高度な検査を定期的に行う場合もあります。各検査のだいたいの費用は、小型犬の場合で尿検査と便検査で2000円前後、レントゲン検査とエコー検査で5000円~1万円見ておけばいいでしょう。

血液検査、ぜひ知っておきたい重要項目

健康診断で血液検査を行うと、検査結果数値がプリントされた用紙を前に、獣医さんが気になる項目や問題ない項目などを説明してくれるはずです。そのままふむふむと聞いているだけでも十分に役立ちますが、とくに重要な項目について知っておけば、愛犬の状態がよりつかみやすくなります。簡易的な血液検査で行われることが多い項目から、いくつかご紹介しましょう。


  • 血糖値/高すぎると糖尿病、低すぎると肝疾患が疑われます。
  • 総蛋白/下痢をおこすと変化したりしますが、高い場合は脱水症状が疑われます。
  • Cre/クレアチニン。肝臓や腎臓、血液など体の重要な部分の不調が現れます。低すぎる場合は筋肉が破壊されているのかもしれません。
  • 総コレステロール/肝障害、胆管障害、糖尿病などに関係してきます。
  • BUN/血中尿素窒素。腎臓・肝臓の病気や消化管出血、尿路障害などに関係します。
  • ALP/アルカリホスファターゼ。肝臓や胆のうの状態を表す数値。
  • ALT/アラニンアミノトランスフェラーゼ。以前はGPTと呼ばれ、肝細胞が壊れている量がわかるため、肝障害の判断に重要。
  • WBC/白血球数。白血病や造血機能の病気などもわかるのですが、体内に何らかの炎症が起きていることを示すことが多いです。
  • Amy/アミラーゼ。数値が高い場合は膵臓の病気が疑われます。
  • 総ビリルビン/赤血球の破壊状況を表す数値です。

元気なうちからホームドクターを作っておくと、安心して愛犬と暮らすことができますし、病気の早期発見が望めます。治療費を抑えることにもつながりますから、愛犬に苦しい思いをさせないためにも、健康診断は必ず受けておきたいですね。

[辻村多佳志]