【犬飼いTIPS】犬もシニアになると認知症になる? 〜愛犬のQOLを向上させるには

私たちと同じように、犬も年を重ねると体や心に変化があらわれ始めます。こうした変化には、関節のトラブル問題や視力の低下、体重の変化、心臓病などがあります。

さらに、神経的な問題も生じ始めます。老化はゆっくりと進行するので、愛犬の健康をできるだけ長く幸せに保つためには、徴候を見逃さないことが重要です。今回は犬の認知症についてのお話です。

犬は認知症になる?

認知症は、記憶力や思考力、社会生活能力が低下する状態です。人間の場合はアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)が多いのに対して、犬はこの特定の脳疾患にはなりません。

しかし、残念ながら犬も認知症になる可能性はあります。犬の場合は、加齢による不可逆的な脳の退行性変化=認知機能障害症候群(CCDまたはCDS)と呼ばれています。

最終的には認知や意識の変化、学習と記憶の欠陥、刺激に対する反応性の低下につながります。この症候群は、人間の認知症やアルツハイマー病との類似性も研究されています。

犬の認知症の徴候と症状

加齢は認知症の危険因子であり、悲しいことに認知症が進行すると日常生活に支障をきたすほど症状が重くなることがあります。老衰した犬は、犬の認知機能障害を示す特定の行動をとることがわかっていて、頭文字をとって「DISHAA」と呼ばれます。

 ・見当識障害(Disorientation)
 ・社会的交流(Social interactions)
 ・睡眠覚醒サイクル(Sleep-wake cycles)
 ・トイレの失敗の増加(House soiling)
 ・活動性(Activity)
 ・不安(Anxiety)


犬の認知機能障害の臨床症状は加齢とともに進行し、犬の幸せや人ととの関係に悪影響を及ぼします。ピュリナでは、DISHAAの評価ツールを公開しています。気になる人はチェックしてみましょう。

犬の認知症の原因

犬の認知症の正確な原因はわかっていません。しかし、人間が加齢に伴う変化により問題が生じるのと同様のメカニズムである可能性が高いとされています。

現在も犬の認知症と人間のアルツハイマー病との類似性が研究されています。最新の研究では、犬の脳は加齢に伴い萎縮し、細胞が死滅することがわかっています。これは、学習と記憶を司る大脳皮質と運動調節機能を司る小脳に影響を及ぼします。

また、認知症の犬の脳にはアミロイドβというタンパク質が蓄積していることが研究でわかっています。このタンパク質が排出されずに蓄積すると、シナプス(神経細胞同士が情報を伝達する部分)の機能が低下します。

また、神経伝達物質(モノアミン)は感情や行動の調節を担っていますが、認知症の犬の脳内では、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)が過剰に活性化し、神経伝達物質を分解してしまいます。その結果、うつ病や統合失調症などの精神疾患や神経疾患の原因となることが示唆されています。

てんかんのある犬や、ほとんど体を動かさない生活スタイル(セデンタリー・ライフスタイル)の犬も、認知症を発症するリスクが高いことが示されています。

犬の認知症の治療

認知症の犬には、生涯にわたるリハビリとサポートが必要です。治療法はありませんが、進行を遅らせるために家庭でもできることはあります。

健康的で刺激的な環境を維持することは、認知機能低下の進行を遅らせるのに役立ちます。一般的に、運動や遊び、精神的刺激を毎日与えることが必要です。また、就寝時間を厳守することで、認知症の症状を最小限に抑えることもできます。

シニア犬にとって家をより生活しやすく安全なものにすることも効果的です。代表的なものは、次のとおりです。

環境

ベビーゲートで玄関や階段など危険な可能性がある場所へのアクセスを遮断します。また、トイレや食事のエリアなどは極力変更しないようにしましょう。夜間照明があると暗闇を移動するのに役立ちます。

食事

脳の健康のための療法食を利用することも検討しましょう。こうした療法食には抗酸化物質、ビタミンB、E、β-カロテンなどのカロテノイド、カルニチンなどが含まれており、これらはすべて犬の認知機能を向上させるのに優れていると考えられています。

また、オメガ3脂肪酸やメラトニン、ビタミンB、S-アデノシルメチオニン(SAMe)などをサプリメントで摂取させることも有効です。

習慣の徹底

見当識障害は、記憶障害と並んで早くから現われる認知症の中核症状のひとつです。時間や場所などの感覚が薄れ、進行すると飼い主なども認識できなくなります。犬の不安を軽減するには、散歩、食事、遊び、就寝の時間を規則正しく、予測可能なスケジュールにします。

また、寝床やくつろぐ場所、トイレや食事の場所などはつねに同じ場所にしてあげましょう。また、部屋の模様替えなどは極力控えましょう。

薬物療法

不安症が主な要因である場合には、抗不安薬(精神安定剤)が有効な場合もあります。セレギリンは、モノアミン酸化酵素Bを阻害し、必要な量の神経伝達物質が脳内に留まるようにします。

まとめ

犬の認知症は、人間のアルツハイマー病と同様に、シニア期に起こる不可逆的な脳の退行性プロセスです。犬が認知症で死亡することはありませんが、いずれQOLを低下させます。

また、認知症が要因となって健康障害が進行すること、通常の生活が困難になります。介護が必要になったり、状況によっては動物福祉の観点から安楽死を検討すべきなど非常に難しい選択に直面することになります。

そうなったときに慌てないように、日ごろから治療や介護、看取り方などを考えておく必要があります。

【参考】
 ▸ペットの介護
 ▸ペットの終活