犬の気持ちは、どうすればわかるの?

犬と人間は心が通い合う。犬を飼っているみなさんなら、ほとんどの人がこのように感じているでしょう。でも、犬を初めて飼う人や、しつけのことをあまり考えてこなかった人だと、自分は本当に犬の気持ちがわかっているのかな? と不安を覚えることも多いかもしれません。今回は、犬の気持ちを感じ取るときに役に立つ、ボディランゲージのお話です。

監修/訓練士 藤田真志
麻布大学獣医学部卒/動物人間関係学専攻 (社)ジャパンケネルクラブ公認家庭犬訓練士 (社)ジャパンケネルクラブ愛犬飼育管理士 2004年に「HAPPY WAN」を開業

尻尾を振っている犬は近寄っても安心?

犬は表現力豊かな動物です。残念ながら人間の言葉は話せませんが、その代わりに、仕草や視線、表情などでコミュニケーションをとることができます。うれしいときにはブンブンと尻尾を振る、怒られたときやウンチをしているときには申し訳なさそうに頭を低くする、などはよく見かける光景です。

このようなボディランゲージについては、ノルウェーのトウーリッド・ルーガスさんが研究・発表した“カーミング・シグナル”が有名です。みなさんの中にも、本を買って勉強した経験のある人がいらっしゃることでしょう。では、この本さえ読めば犬の気持ちがわかるようになる? 残念ながら、そう簡単にはいかないようです。

「人間に個性があるように、犬にも個性があります。同じような行動をとっていたとしても、すべての犬が同じことを考えているとは限りません。また、親や兄弟から早い時期に引き離されてしまった犬は、コミュニケーションのとり方が身についていないこともあります。人間はどうしても、犬のことを擬人化して見てしまいがちなのですが、私がこうしているから犬はきっとこう思ってくれているだろう、と決めつけると、犬の気持ちを読み違えてしまいます」

犬の気持ちを理解するためには、本に書いてあったことを丸暗記して当てはめるのではなく、可能な限り長く真剣に犬と向き合い、いま目の前で見せているボディランゲージに至るまでに、どんな行動があったのかを観察する必要があるようです。また、ボディランゲージはあくまでもいまの気持ちの表現で、もっとも大切なのは、犬と人間との信頼関係が築かれているかどうかです。道端で初めて出会った犬が尻尾を振っていたから撫でようとしたらガブリ、などという事故は、犬が悪いから起きたのではなく、人間が犬の気持ちを理解しようと努力してこなかったから起きたのだ、と考えておくべきでしょう。

たとえば、尻尾の動きは、もっともわかりやすいボディランゲージといえるでしょう。犬はうれしいときに尻尾を振ります。しかし、尻尾を振っているからといって喜んでいるとは限りません。

「犬が尻尾を振るのは、何かに注目しているからです。たとえば、誰かの家を訪ねたときに、その犬が尻尾を振っていたからといって、歓迎してくれているとは限りません。自分の縄張りに知らない人が入ってきたため、緊張して尻尾を振っている場合も多いのです。頭を撫でようとして真正面からいきなり手を出すと、犬は追い詰められてしまい、“ファイト(戦い) オア フライト(逃走)”という行動をとって噛みつくことがあります。犬にとっては自分の身を守るための正しい手段ですから、悪いのはいきなり手を出した訪問者と、犬に人慣れをさせてこなかった飼い主ということになります。人と犬とが幸せな共生生活を送るためには、犬のボディランゲージについて、人間がもっともっと勉強する必要があるのではないでしょうか」

柴犬など、つねに尻尾がクルッと巻き上がっている犬や、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなど断尾の慣習がある犬もいますから、見ただけではわかりにくいこともあります。しかし、尻尾を上げて小刻みに、とくに先端だけを振っているときは、警戒心から振っている可能性があります。逆に、尻尾全体から力が抜け、下げ気味でゆさゆさと大きく振るのはリラックスしているとき、喜んでいるときです。犬に留守番を頼んで出かけていた飼い主が帰ってきたなどで、うれしい気持ちが頂点に達すると、尻尾がヘリコプターのようにブンブン回ったり、お尻や体全体までくねくね揺れてしまうこともあります。ただし、尻尾の動きだけを見ていては犬の気持ちを読み誤ります。

一部分だけを見ていても、気持ちは伝わりません

「一部分だけに注目するのではなく、目の表情や耳の動き、体全体から伝わる雰囲気にも気を配りましょう。人間もそうですが、犬の目は驚くほど感情を伝えてくれます。犬と人とが常にアイコンタクトをとるしつけや、犬の気持ちを常にくみ取ろうとする心がけが大切になります。犬の目がキラキラ輝き、いかにもやさしそうに見つめている場合は、目の前の人に行為を持っているときです。グッと見開いて白目を見せているのは警戒心の表れ、視線を逸らしたり横目遣いになるのは、相手を落ち着かせようとしているときで、怒られて反省しているからではありません。また、自分の興奮を抑えようとして顔を背けたり、視線を逸らしたりする場合もあります。こういうときは、喜びを我慢できずに尻尾がゆさゆさ揺れたりします」

目と同様に、耳にも表情がよく表れますが、これも誤解の元です。耳をピンと立てて前を向けているときは、何かに注目しているか警戒しているとき。耳をペタッと伏せているときは、喜んでいるときや友好的な気持ちになっているとき、または警戒しているとき。このように、正反対の気持ちが同じような耳の表情として表れることも多いからです。ほかにも、口が閉じていたら不快や警戒、開いていたら喜びや安心のシグナルになりますし、体全体が伸びやかならば安心の、背中が丸まっていたら不安の表れだそうです。

「こういった、さまざまなボディランゲージに注意して総合的に判断することが大切ですし、犬の気持ちを正しく判断することが、しつけにも大きく役立ちます。たとえば、犬がトレーニング中にあくびをする、座って後ろ足で耳をかく、などの行動を見せることがありますが、これは飼い主をばかにしている行動ではありません。しつけの方法が高圧的だったり、トレーニング内容がその子に合っていないことが理由なのです。犬のしつけは、メリットを感じさせるほど行動が強化されるものなので、気乗りしないまま仕方なく飼い主に従っているようでは、効果が薄れてしまいます。飼い主の方がトレーニング方法を変えましょう」

さらに大切なのは、犬のボディランゲージを読み取るだけで終わりにするのではなく、そのメッセージに人間が応えていくことなのだそうです。

「トレーニングに集中できない犬は多いので、犬の気分をうまく盛り上げてあげるテクニックが求められます。コツは“掛け声”。犬は、高くて短い音で話しかけられるとテンションが上がり、低くて長い音だと落ち着く傾向があります。はしゃぎすぎてしつけに集中できなくなっているようなら、低く長くゆっくりした声で語りかけると集中力を取り戻してくれますし、やる気のない犬は高く短い声で励ますのです。犬の気分は刻々と変わりますから、そのときどきのボディランゲージを見逃さないように心がけましょう」