【猫飼いTIPS】犬は犬種によってかなり容姿が違うのに、猫はそうではないのはなぜ?

なぜ猫は、犬のように体格や体型に極端な違いがないのでしょうか。犬の場合、コーギーやダックスフンドは短足でがっしりとした細長い体つきをしていますが、グレイハウンドやウィペットは細く長い足にスリムな体型です。マスティフは体重が45kgを超える超大型の短毛種です。一方、マルチーズやシーズーは流れるような長い毛を持ち、ハンドバッグに入れて持ち運ぶこともできます。

世界最大の純血種および家庭猫(ハウスホールドペットキャット)の血統登録機関で、かつキャットショー公認機関としても世界最大の団体のひとつである「TICA(The International Cat Association)」によると、現在73の猫種が認められています。犬については、アメリカンケネルクラブ(AKC)ジャパンケネルクラブ(JKC)が約200種を登録していますが、国際畜犬連盟(FCI)は350種以上を公認しています。

外見の違いは突然変異によって生まれる

動物の外見には、大きさが違ったり、尻尾が短かったり、毛がカールしていたりしたり、独特の模様があったりします。これは遺伝子の突然変異によるもので、つねに自然に現れるとされています。

そして、その新しい形質に魅力を感じた人々によって何世代にもわたって受け継がれていくのです。現在認められている猫種は過去75年間に生み出しされました。一方、犬種は数百年前から形成されています。

猫と人の歴史は、犬と人の歴史の半分程度

猫も犬も、品種改良される前から人間と共存していました。犬の家畜化は少なくとも1万9000年前まで遡れますが、猫の家畜化はそれよりも新しく約1万年前とされています。しかし、人間と犬の関係が発展するにつれ、人々は犬が専門的な仕事をこなせることに気付きました。さまざまな環境で暮らす人々は、品種改良によって人間の生存や生活に役立つ犬をつくり始めたとされています。

例えば、山岳地帯でヤギを飼うのと、牧歌的な土地でヒツジを飼うのとでは、犬に求められる特性が異なります。また、財産を守るために犬を飼育したり、農場で力仕事を手伝うために犬を飼育したり、大きくて力のある鹿や小さくてスピードのあるネズミ、地下の巣穴に隠れるアナグマなど、特定の種類の動物を狩るために人は犬を改良してきました。

つまり、今日ドッグランで見られる驚くべき多様性にとんだ犬たちは、特定の形質に対する計画的な交配によって生み出されてきたのです。

それに比べて猫の役割は、人間の家庭でにおいて、ペットか害虫駆除のどちらかのみを担っていました。猫は、これらの単純な仕事を、あまり違いのない体型とサイズで完璧にこなしていたので、人間は猫の体を劇的に改造しようとは思わなかったと考えられます。

しかし、文豪・ヘミングウェイの愛した「スノーボール」が有名ですが、欧米では多指の猫(https://pet-happy.jp/cat-life/post-10421.html)が繁殖されています。いまでは「幸運の猫」として愛されていますが、当時は船の積荷をネズミから守ることを目的として繁殖されていました。例えば、帆船のマストなどに上ってしまったネズミを捕まえるのには安定感が必要です。多指であることは、ポールなどを掴んで素早く動くのに役立っていたようです。

選択的交配の危険性

しかし、選択的交配には危険もあります。強い選択は多様性(幅広く性質の異なる群れが存在すること)を低下させることになります。特定の形質を強く選択すると、似た者同士を交配させることになり、その過程で多様性が失われてしまうのです。

種を決定する形質に関連する突然変異は、遺伝的疾患を伴うことがあります。場合によっては「ピギーバック変異」が起こりうるということです。例えば、スコティッシュフォールドには突然変異がふたつあり、骨軟骨異形成症という重度の関節炎を発症する可能性が高いとされます。また、ペルシャ猫は、つぶれた顔と長くてふわふわした被毛が特徴ですが、多嚢胞性腎臓病を発症する遺伝的な傾向があります。

犬では、スタンダード・プードルのダークコートを生み出す遺伝的変異が、皮膚がんの一種である「扁平上皮癌」を発生させる可能性があります。あえて、扁平上皮癌になるプードルを生み出そうとするブリーダーはいません。しかし、これらの変異体はゲノム上で非常に近接しているため、一方を選択すると他方も一緒になってしまう可能性が高いのです。

特定の誇張された身体的特徴は、特に犬においては健康上の問題を引き起こす可能性があります。シワシワの顔をした「シャー・ペイ」の特徴的な皮膚のひだには、細菌が繁殖して感染症を引き起こす可能性が高く、“鼻ぺちゃ”と言われる頭蓋骨が極端に短い「短頭種」の犬や猫は、呼吸困難に陥る可能性があります。

TICAやAKCなどの団体は、犬や猫の遺伝的疾患に関する科学者の調査を常にフォローしており、自分たちが望んでいる形質(=スタンダード)でも、遺伝的疾患が発生しないよう最善を尽くしています。しかし、そもそも選択している形質(もしくは特性)が最善ではない場合もあるのです。

まとめ

このように、猫は犬と違って使役目的で品種改良されることがなかったため、その形質に大きな違いはありませんでした。しかし、それはこれからも変わらないとは言い切れません。例えば、突然変異によって現れた形質を、より極端な交配により強化すれば、そこに問題となる因子(例えば遺伝的疾患)が顕著に現れる危険はあります。

欧米でも、20年前にはブリーダーに対して「犬種・猫種における誇張された形質(スタンダード)は変えなければならない」と指摘するのは簡単なことではなかったようです。ただ、ここ十数年の間に、これらの形質のもっとも極端なバリエーションを抑制することに取り組んでいるブリーダーが増えてきており、より健康な犬や猫を生み出すために、蓄積された遺伝子データを取り入れた繁殖を実施するのが当然になっています。

欧米から十数年遅れとなりましたが、日本でも同じ動きが始まっています。すでに健全なブリーダーは徹底していますが、判明している遺伝的疾患を持つ親犬や親猫(アフェクテッド)だけでなく、無症状(キャリア)であっても繁殖プログラム入れないのです。その勇気ある行動が、遺伝的疾患の可能性を限りなくゼロにし、不幸や子犬や子猫が生まれることを未然に防ぐことになるのです。

さらに、安易に異種交配、いわゆる“ミックス”を生み出さないことも重要です。科学的な知識を持たない人々が安易に繁殖をすれば、奇形や遺伝的疾患を持つ不幸な子犬や子猫がたくさん産まれてしまうのです。

ブリーダーは種の保存と命を生み出すという意味に真摯に向き合い、取り組むことが求められます。また、私たち飼い主も、商業的なキャッチコピーに騙されることなく事実を知ることが大切です。そのうえで、犬や猫をどう迎えるかを考える必要があります。ともに健康で幸せに過ごすパートナーなのですから。