【猫飼いTIPS】猫のトキソプラズマ症を正しく理解しよう
猫のトキソプラズマ症は、トキソプラズマという原虫(寄生虫)の感染によっておこる病気で、人にも動物にも感染する人畜共通感染症のひとつです。この原虫はネコ科動物を終宿主として体内で有性生殖をしますが、ほぼすべての哺乳類や鳥類(中間宿主)に感染します。
猫を飼ううえで問題として取り上げられるのは、妊娠した人が初感染することで、その胎児が先天性トキソプラズマ症になる可能性があるということです。現時点での情報を正しく理解し、人と愛猫のためにできることを飼い主としてしっかりと考えることが大切です。
トキソプラズマとは?
トキソプラズマは単細胞動物である原虫で、世界中でその存在が確認されています。人を含む温血動物に広く感染します。ネコ科の動物はトキソプラズマが有性で増殖する唯一の宿主であることが知られていて、トキソプラズマ症の主要な感染源だと考えられています。猫自身の感染は、トキソプラズマに感染した動物の生肉(豚肉や鶏肉、牛肉など)や汚染された土壌や水を感染源として広く存在しています。
トキソプラズマの生育には3つの段階があり、その段階により宿主の動物がどのように感染源になるのかが違います。オーシスト(卵のようなもの)はネコ科動物の小腸内で有性生殖により形成されるため、糞便に混じって排出されます。そのため、この糞便が感染元になる可能性があります。
このオーシストの排出はネコ科動物の感染から2~3週間の間ですが、その間に排出される数は大量です。オーシストは抗菌剤や冷凍や乾燥に強く、体外の環境下で数カ月間生き続けます。ただし、70℃で10分間加熱することで死滅します。
実際には、オーシストの内部では1日程度でスポロゾイトという形態に変化します。このスポロゾイトはオーシストのなかに潜みながら感染力を保ち続けます。ほかの動物に感染したトキソプラズマは、体内でタキゾイトに変化して急激に増殖します。その後は宿主の免疫等で増殖が抑えられながらも、プラディゾイトに変化して多数の組織シストを形成し、脳や筋肉で潜伏しながら次のチャンスを待っているのです。
人へのトキソプラズマの感染源は、生肉と猫の糞の2つです。重要な点は、どちらであってもトキソプラズマに初感染の妊婦であれば、その胎児が先天性トキソプラズマ症に感染する可能性があるということです。公衆衛生上の問題とされている妊婦とトキソプラズマの問題は、単に猫を遠ざければよいということではないと理解をすることが大切です。
※人間のトキソプラズマ症の詳しい情報は、国立感染症研究所の「トキソプラズマ症とは」が参考になります。
トキソプラズマ症の猫と人の症状は?
成猫が感染しても多くの場合が無症状です。目に見える症状はほとんどなく、飼い主が気付くことは少ないといわれています。症状があっても数日間の発熱、リンパの腫れ、下痢を起こす程度です。
猫が初感染すると腸管の細胞内でタキゾイトに変化して激しく増殖します。まれにこの急激な増殖が体内で広がり、腸管外トキソプラズマ症を発症することがあります。そうなると、脳、肺、肝臓などの中枢神経系が侵され、免疫力の低い子猫が母猫からの胎盤や母乳から感染した場合には、ほとんどの場合は死に至ります。
衰弱した猫や免疫力の低い老猫などは重症化することも多々あります。持続性の下痢、発熱、貧血、虹彩炎やブドウ膜炎での目の濁り、中枢神経の障害による体の麻痺、運動失調による歩行困難などの慢性トキソプラズマ症の症状が見られることもあります。
人が感染した場合には、免疫に異常がなければ一般的に無症状です。しかし、10~20%の割合でリンパ節が腫れる、筋肉痛になる、インフルエンザのような症状が見られることがあります。免疫不全の人では、中枢神経系の障害、心筋炎、肺炎を起こすことがあります。
妊娠している人が妊娠の数か月前あるいは妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合には、胎児が先天性トキソプラズマ症になる可能性があります。母体が感染した時期によって、先天性トキソプラズマ症の発生率や重症度が違います。
症状としては、脳症、水頭症、頭蓋内石灰化、網脈絡膜炎、黄疸、肝臓や脾臓の腫れなどが見られる場合があります。母体を治療することによって、胎児への感染の発生を減らせるので、迅速で正確な診断が重要となります。
猫のトキソプラズマの診断はどう行われるの?
疑いがある猫は、まず糞便検査をするのが一般的です。糞便中のオーシストを検出します。ただし前述したとおり、感染した猫のオーシストが糞便とともに排出されるのは感染してから2~3週間です。ほとんどが無症状のため、トキソプラズマの症状が出るころには排出が終わっていることが多く、感染していても糞便からは検出できないことがほとんどです。また、検出されたとしても、オーシストは近縁のコクシジウム類との外見上の区別が困難であり、目視による顕微鏡検査では確定が難しいとされています。
便検査でオーシストが見られない場合や、発見されたオーシストがトキソプラズマであるかどうかを診断するには、さらに遺伝子を増幅して行うPCR検査が有効です。顕微鏡検査とは比較にならない精度でトキソプラズマの有無を明らかにできます。
もうひとつの方法は、血液検査による抗体検査です。血液採取の1回目と2回目の間隔を1~2週間空けて、採血した2回分の血清で抗体の数値が上昇するかどうかを確認します。その結果の診断は下記のようになります。
●2回とも陽性の場合はトキソプラズマに感染済みでオーシストを再排出する可能性はほとんどない。
●2回とも陽性で、1回目より2回目の抗体価が上がった場合はオーシスト検出の可能性が高い。このタイプは要注意。妊娠している人がいる場合は隔離が必要。
●陰性から陽性になった場合は急性期の可能性がある。オーシスト、タキゾイド、組織シストのどの段階で感染したかによりオーシストの排出開始時期が異なるため、必ずしも検出できるとは限らない。この場合も注意が必要。
●2回とも陰性の場合は、未感染もしくは感染したことはあるがトキソプラズマが腸管のなかにしか存在しなかったか、どちからの可能性がある。未感染の場合は、今後に感染してオーシストを排出する可能性がある。
上記のように、血液検査の結果が陰性であるから問題なし、陽性であるから危険いう単純な解釈ではありません。しっかりと獣医師の診断を仰ぎましょう。
猫のトキソプラズマ症の主な治療方法は?
猫がトキソプラズマ症との診断がされた場合、クリンダマイシンやアジスロマイシンなどの抗生物質やトリメトプリム・サルファ剤などの抗菌剤の投与を行います。しかしながら、猫の体から完全にトキソプラズマを取り除いたり、オーシストの排出を抑え込むような薬剤はありません。そのため、慢性のトキソプラズマ症の場合には再発を繰り返す可能性があります。
トキソプラズマ症の感染対策は?
猫の予防策は、オーシストの摂取を防ぐことにあります。以下の対策が必要です。
▸ほかの猫との接触を避ける。屋外への出入りをしている場合は感染猫と接触する可能性が高い。室内飼育をすることが予防となる。
▸生肉を与えない。
▸便はすぐに取り去る。トイレは定期的に洗浄・消毒するなど常に清潔を保つ。
人への予防策は、オーシストの摂取を防ぐことと、組織シストの摂取を防ぐことにあります。そのためには猫への予防策とともに、以下の対策が大切です。
▸土を触る際には手袋を付け、その後は手をよく洗う。
▸土が付いている生野菜はよく洗ってから食べる。
▸生水を食品に付着させない。飲むときには沸騰させてから。
▸生肉を食べない。
▸生肉を扱うときは手袋をし、調理後に手をよく洗う。
▸生肉を扱った調理器具や食器は熱湯消毒や洗浄を徹底する。
まとめ
トキソプラズマ症は、人へのトキソプラズマ症の感染源として猫がクローズアップされがちですが、人へのリスクは生肉など汚染環境からの経口感染の重要性も高いといえます。
妊娠したときに飼い猫の検査をする人が多いのですが、前述したとおり判断は非常に難しいものです。陽性だからといって、すぐに飼い猫を手放すのは安易な行動です。結果に左右されることなく、医師や獣医師など双方の見解を聞きながら、飼い主と猫がともに幸せに暮らしていけるように冷静に考えることが大切です。
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