【犬飼いTIPS】耳の不自由な人に音を運ぶ「聴導犬」をご存じですか?

聴導犬は、耳の不自由な人に音を知らせて生活をサポートします。音が聞こえないという不安を軽減し、快適で安全な生活を支えるのが聴導犬の役目です。今回は耳の不自由な人をサポートするために大きな貢献をしている「聴導犬」についてのお話です。 ※耳の不自由な人=ユーザーと明記します

聴導犬の歴史

聴導犬は1975年にアメリカで発祥したといわれています。ある女性がラジオ番組に「家のなかで鳴る音に反応をするように、犬を訓練してくれませんか」と投稿したことがきっかけで、Hearing dog(ヒアリングドッグ)が誕生しました。

日本では日本小動物獣医師会が興味を持ち、1981年の国際障碍者年に聴導犬委員会を発足させたことから、聴導犬の日本での歴史が始まります。アメリカの文献などを参考に訓練法を考案し、1983年に4頭のモデル犬が完成します。翌年、埼玉県のユーザーに無償貸与され、日本初の聴導犬(シェットランドシープドッグ)が誕生しました。2002年10月に「身体障害者補助犬法」が施行され、ユーザーが認定を受け、法施行後初の聴導犬(柴犬)が誕生しました。

聴導犬ってどんな仕事をしているの?

携帯のメールの着信音、ノックの音、玄関チャイムの音、目覚まし時計の音、呼び鈴の音、FAXの着信音、赤ちゃんの泣き声、キッチンタイマーの音、やかんの笛の音など、生活をしていく上で必要な音を覚えます。例えば、携帯のメールの着信音が鳴ったら、ユーザーにタッチして知らせ、その後に携帯電話にタッチします。目覚まし時計が鳴ったら、ユーザーの身体を揺すって起こし、その後に目覚まし時計にタッチします。また、離れたところで音がした場合でも、ユーザーのところまで行きタッチをするなどしてそれを教え、音源まで誘導します。

外出時には窓口などで鈴を鳴らしてもらい、名前が呼ばれたことを知らせる仕事をします。自動車の警音などを知らせたり、緊急時には警報機音を知らせるなどして、ユーザーの安全を守る仕事もします。音の種類ごとに飼い主への合図を変えることによって、必要な情報をユーザーに正確に伝え、誘導していきます。聴導犬はユーザーの優秀なパートナーなのです。

聴導犬の候補犬の抜擢方法は?

聴導犬に求められるのは、人とともに快適に暮らすことができる犬であること。また、社会性が求められる場面で適性な行動ができる犬であることです。生後2カ月~4カ月の子犬が持つ気質を評価しながら、候補犬を選出します。それは、主に下記の3つの方法で選出されます。

聴導犬に向く犬を自家繁殖します。パピー・ファミリーのもとで1年間愛情を込めて育ててもらい社会性を身に付けます。その後、訓練をします。

保護犬を愛護センターから引き取り、訓練をします。引き取る際には、よき家庭犬となれるかのテスト、音反応テストを行い、聴導犬に向く犬を選抜します。

希望があれば、すでにユーザーが飼育しているペットを訓練します。その際には、よき家庭犬となれるかのテスト、音反応テストを行い、聴導犬に向く犬であるかどうかを判断します。


また、ほかの補助犬(盲導犬、介助犬)の協会でキャリアチェンジになった犬を、聴導犬の候補犬として導入するという取り組みも行われています。

聴導犬になるまでにはどんな訓練をするの?

まずは、「座れ」「待て」「伏せ」などの基本的な動作の訓練や歩行訓練をします。その後、商業施設等での社会化訓練、レストランでの飲食訓練、電車・バスなどの乗り物訓練、ユーザーが必要とする音を知らせる誘導訓練を約10カ月間かけて学習します。

これらが終了した候補犬は、ユーザーとの合同訓練を始めます。訓練センターの宿泊施設とユーザーの自宅の双方で実施されます。初めて犬を飼うユーザーの場合は、この合同訓練の期間中に犬の飼育法や犬とのコミュニケーションの方法を学びながら、実際の生活環境に合わせて、音を知らせる訓練を行います。

合同訓練終了後、ユーザーと候補犬は、厚生労働大臣が認めた指定法人で認定試験を受けます。合格すると晴れて社会的に認められた聴導犬の誕生です。聴導犬として活躍できる期間は2歳から10歳までの8年間です。10歳を過ぎた聴導犬は、引退犬ボランティアのもとで余生を送ることになります。引退犬ボランティアは、一般の家庭のほか、ユーザーがそのまま育てる場合、また子犬の時に育ててもらったパピー・ファミリーが育てる場合もあり、いずれにしても余生をのんびりと過ごしてもらうようにと託されます。

街で聴導犬に出会ったら

聴導犬は着用しているマントに「聴導犬」と表示することが義務付けられています。出会った犬がこの表示を付けていたら、それは仕事中です。犬を呼んだり、話しかけたり、頭を撫でる、おやつをあげる等の行為は避けるようにしましょう。仕事中に聴導犬の気が散ると、それが事故の原因になることがあります。ユーザーと聴導犬の安全のためにもそっと見守ってあげることが大切です。

まとめ

約70年の歴史がある盲導犬と比べ、聴導犬は40年と歴史が浅いため、2020年10月1日現在の実働頭数は64頭と非常に少なく、認知度も低いのが現状です。聴導犬がいる社会が当たり前になるよう、啓蒙活動をしていきたいものです。