クルマに乗って、どこにでも行ける犬になってもらうには?
藤田先生に聞く、しつけについてのワンポイントアドバイス、今回は、クルマに乗りたがらない犬の直し方です。人間でも、クルマ酔いをするから、怖いから苦手という人がいますが、犬も体調や性格が理由でクルマが嫌いになることがあります。しかし、その体調や性格は、飼い主さんのしつけ方が原因となっている場合も多いのです。
なぜクルマを嫌がるの?
いつものお散歩コースはスイスイ歩けるのに、クルマに乗せてどこかに行こうとすると、急にイヤイヤをする犬がいます。「お散歩に行きたがらない犬の直し方」で、藤田先生が「クルマに乗せていろいろな場所に連れて行きましょう」とアドバイスをしていますが、そもそもクルマに乗りたがらない犬の場合はどうすればいいのでしょうか。
「まず、なぜクルマに乗りたがらないのか、その理由を見つけましょう。クルマに乗ると気持ち悪くなって吐いてしまう、クルマの音や揺れが怖い、クルマに乗ると病院やトリミングサロンなど行きたくない場所に連れて行かれるから、など、苦手な理由はさまざまです」
つまり、クルマに乗るという行動が、嫌なこと、辛いことに結びついているから乗りたくない、というわけです。
「犬にとってもっとも苦手なことは、クルマの揺れです。人間なら、クルマは動いて揺れるものと理解できますが、犬はそうではありません。加速や減速、コーナリング時に身体が揺さぶられることで、いわゆるクルマ酔いをしてしまうのです。重要なのは、この揺れが、クルマの種類やドライバーの運転技術次第で大きく変わってくること。初心者の運転でよく見られるギクシャクした運転が、もっとも悪い運転方法です」
クルマ雑誌の記事執筆に長年携わってきた私が、ギクシャクした運転とは何かについてご説明します。初心者の運転がギクシャクする原因は、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作のうち、とくに「動き出す瞬間」「動きを止める瞬間」「動きの変化の切掛け」部分が、ON/OFFを繰り返すスイッチのようになってしまうことです。たとえば、発進時にアクセルペダルを一気に踏み込んでしまうと、クルマが動き出す瞬間に大きな加速度が発生し、この急激な加速度の変化がギクシャク感をもたらします。
人間がクルマに乗るときは、太ももから腰、背中、肩にかけてがシートの背もたれに密着し、支えられていないのは首と頭だけです。しかし、犬の場合は、シートに身を預けて身体を支えることができません。フセの体勢を取っていればいいのですが、座ったり立ったりしていると、全身を緊張させて揺れに対処しなくてはなりません。この辛さは、安全な場所を走行中にシートの背もたれから背中を浮かせ、体重をお尻だけで支えてみれば実感できるはずです。すべての操作の「動き出し」部分を滑らかに行うだけで、ギクシャクした揺れは大幅に軽減できますので、雪道を走るかのように滑らかな運転を心がけましょう。
クルマ酔いを直すには?
では、滑らかな運転を心がけてもクルマ酔いをしてしまう犬は、どう直せばいいのでしょうか。
「基本的な考え方は2つです。まず、酔っても気にせずクルマにどんどん乗せ、ゲーゲー吐かせているうちに、吐かなくなってくるという考え方。刺激をガンガン与えて慣れさせるこの方法は『氾濫法』と呼ばれ、さまざまなしつけの場面に応用できます。ただし、どんな犬にも効果が出るわけではありません。刺激が強すぎたり、揺れに順応する前に止めてしまうと、より強い反応を起こす『鋭敏化』が発生する場合もあります」
荒療治ですが、適応力の高い犬には効果がありそうです。
「もうひとつの方法は、酔わずにギリギリ耐えられる小さな刺激を根気よく与えて、徐々に慣れさせていく『脱感作法』という考え方です。ただし、この方法を行うためには、愛犬がどの程度までクルマの揺れに耐えられるのかを正確に見極める観察力が重要になります」
その観察力を身に付けるコツはありますか?
「ふだんから犬の様子を注意深く観察しましょう。そのうえでコツがあるとすれば、フードを食べるかどうかですね。運転中にドライフードを少し与えてみて、食べるようなら限界は越えていないと考えられます。クルマの揺れは犬にとってマイナス、フードを食べるのはプラスの効果をもたらしますから、そのプラスとマイナスをぶつけてみるわけです。フードを食べないときは、それ以上の恐怖や不快が犬を襲っていることになります」
クルマに乗り慣れていない犬を慣らすには?
では、クルマに乗り慣れていない犬や子犬に、クルマに慣れてもらうには、どうすればいいのでしょうか。
「最初から大丈夫な犬もいるので、まずは乗せてみてください。2度3度とクルマ酔いを繰り返す場合は、クルマのエンジンをかけずに車内でフードを与えてみましょう。クルマを食堂のようなものだと考えてもらうのです。この状態で怖がるようなら、クルマの横でフードを食べさせ、クルマという存在に慣らしていきましょう」
「そして、慣れてきたら、食べているときにエンジンをかけてみてください。構わず食べるようなら、車庫からゆっくりと出てすぐ戻るなど、短時間の運転を積み重ねながら、クルマは動くものと学習してもらいます。ふだんはおやつを与えず、クルマの中だけで与える方法も効果があります」
ただし、クルマの車内に犬だけを残すのは厳禁です。熱中症の危険がありますし、飼い主さんがいないと不安になってしまう犬も多いからです。また、フードを食べさせた後は、車内で跳ね回るなどの運動をさせないでください。満腹になった胃がクルッとねじれてしまう「胃捻転」を引き起こしたら生命に関わります。安全第一のしつけが鉄則です。さらにもう一点、クルマに乗り慣れていない犬は、揺れなどの刺激でトイレが近くなる場合があります。下痢をしてしまう犬もいるので、犬の様子をつねに観察し、そわそわし始めたらトイレをさせましょう。
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