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腸内細菌のバトルロワイヤル 〜仲間を大切にする利他的なビフィズス菌

[2024/02/27 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

あなたが食べるものは、あなたの大腸に住む細菌たちの満足or不満にダイレクトに影響を与えます。女性がメイクの仕上がり具合でその日の気分が左右されるように、あなたが摂取する食べ物によって、腸内のどの種類の細菌が繁殖するかが左右されるのです。

腸内細菌たちの最高の燃料は「人間には消化できない繊維」。腸内細菌はこの繊維を発酵させて、私たちにも消化できるように変換してくれています。

ヒトや犬・猫は単糖を吸収・代謝(利用)できますが、多糖そのままだと細かくバラバラにする分解酵素を持っていないため利用できません。

具体的には単糖が連なった構造をしているオリゴ糖や多糖は自力では分解できません。小腸や大腸に住んでいる腸内細菌という専門家に、繊維の分解という業務を外部委託(アウトソーシング)していると考えたらイケてる気がします。

腸内細菌はヒトの腸管内で猛烈な生存競争をしており、細菌同士の生存競争の過程で自分の成長に必要な燃料(栄養素)を求め、人の食べ物に対する欲求にも影響を与えているのです。

腸内細菌の視点で見ると、エサであるグルコース(多糖)をめぐって競合または協力する争奪戦。つまり、腸内細菌はほかの種の腸内細菌との生存競争に勝つために、自分がより成長できる栄養素を摂取するよう人間に働きかけたり、逆にライバル種の腸内細菌が欲する栄養素を抑制するよう働きかけたりという綱引きを行っています。

サッカー日本代表風にいえば「絶対負けられない戦い」がここにもある。腸内細菌のなかでもバクテロイデス属は、めちゃくちゃ自分勝手(利己的)でマンナンを独り占めしているという報告があります。

バクテロイデス属のなかには、マンナン分解酵素を持っている菌と持っていない菌がいるけど、分解できるバクテロイデス(Bacteroides thetaiotaomicron)は、マンナン分解酵素によって分解したエサを丸呑みして、マンナンを分解できないほかのライバル菌(Bacteroides xylanisolvensなど)に取られないように独り占めするのです。

このような自分勝手なバクテロイデスとは対照的に、善玉菌のエースであるビフィズス菌は奉仕精神溢れる利他的な腸内細菌。

例えば、母乳にはヒトミルクオリゴ糖(HMO)など独特の物質が200種類以上含まれていますが、これを分解する酵素(オリゴ糖分解酵素)を持っているビフィズス菌は、酵素を持っていないほかのビフィズス菌のために、食べられるように分解してあげています。

赤ちゃんの腸内に生息するビフィズス菌のなかでも母乳中のオリゴ糖を分解できるのは、2種類だけで、ビフィダム菌(Bifidobacterium bifidum)とロンガム菌(Bifidobacterium longum)だけだと報告されています。

ちなみに腸内を撹乱する悪玉菌は、オリゴ糖を分解する酵素を持っていませんし、オリゴ糖自体も好きじゃないため食べられない。仲間を大切にするビフィズス菌がますます好きになってきます。

[獣医学博士 川野浩志]