Class_55

仲間を大切にする利他的な善玉菌「ビフィズス菌」の話

[2022/07/12 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

あなたが食べるものは、あなたの大腸に住む細菌たちの“命運”にダイレクトに影響を与える。土壌の種類や雨量や日照量が植物の成長を左右するように、あなたの食べるもので「どの細菌種があなたの腸内で繁栄する?」かを左右するのです。

腸内細菌の最高の燃料は“人間には消化できない繊維”です。腸内細菌はこの繊維を発酵させて、私たちにも消化できる分子に変換しています。ヒトや犬猫は単糖を吸収・代謝(利用)できるけど、多糖そのままだと細かくバラバラにする分解酵素を持っていないから利用することができません。

具体的には単糖が連なった構造をしているオリゴ糖(3~10個連なったもの)や多糖(それ以上連なったもの)は自力では分解できないため、小腸や大腸に住んでいる腸内細菌という専門家に繊維の分解業務を外部委託(アウトソーシング)しています。

腸内細菌の視点で見ると、エサであるグルコース(多糖)をめぐって競合または協力する争奪戦。サッカー日本代表風にいえば「絶対に負けられない戦い」がここにあるのです。

腸内細菌のなかでもバクテロイデス属は、めちゃくちゃ自分勝手(利己的)でマンナンを独り占めしているという報告があります。バクテロイデス属のなかにはマンナン分解酵素を持っている菌と持っていない菌がいますが、分解できるバクテロイデスは、マンナン分解酵素によって分解したエサを丸呑みして、マンナンを分解できないほかのライバル菌に取られないように独り占めしています。

このような自分勝手なバクテロイデス属とは対照的に、善玉菌のエースであるビフィズス菌は奉仕精神溢れる利他的な腸内細菌。

例えば、人の母乳にはヒトミルクオリゴ糖(HMO)など独特の物質が200種類以上含まれていますが、母乳中に含まれるヒトミルクオリゴ糖を分解する酵素(オリゴ糖分解酵素)を持っているビフィズス菌は、酵素を持っていないほかのビフィズス菌のために、食べられるように分解してあげています。

赤ちゃんの腸内に生息するビフィズス菌のなかでも母乳中のオリゴ糖を分解できるのは、2種類だけで、ビフィダム菌とロンガム菌だけとされています。ちなみに、腸内を撹乱する悪玉菌はオリゴ糖を分解する酵素を持っていませんし、オリゴ糖自体も好きじゃないから食べられません。

仲間を大切にするビフィズス菌がますます好きになってきました。

[獣医学博士 川野浩志]