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腸内細菌の野望〜知らなかった驚異的な酵素パワー(後編)

[2022/07/05 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

前編では、腸内細菌の主な働きをわかりやすく解説しました。今回は腸内細菌の具体的な活動から、スーパーヒーローたる所以を紹介しましょう。

大豆に含まれるイソフラボンはそのままでは生体内に吸収されにくく、酵素(β-グルコシダーゼ)で分解されないと吸収できずうんちとして出るだけ。しかし、酵素を産生する美魔女菌が腸内に存在すると、大豆イソオフラボンを分解して、機能性の高いエクオールをつくり出し肌をピチピチにしてくれます。

また、ヒトが分解できないキノコや大麦に含まれるβグルカンが大腸が届くと、βグルカンを好むビフィズス菌や痩せ菌(バクテロイデス菌)がバクバク食べる。さらに、ヒトが分解できない食物繊維に含まれるセルロースを腸内細菌である痩せ菌(バクテロイデス菌)が分解して栄養を取り出すことができるのです。特にバクテロイデス・プレビウスは、海藻に含まれる食物繊維を分解できる酵素(ポルフィラナーゼ)をつくります。ルミノコッカス属の腸内細菌も食物繊維の成分であるセルロースを分解する能力を持ち、プレボテラ属の細菌も食物繊維を分解してくれるのです。

その一方で、デブ菌(ファーミキューテス門の腸内細菌)は、本来は便として排泄される脂質や糖質の分解能が向上し吸収してしまうから太りやすくなります。余計なことをしているわけです。

このように腸内細菌がつくり出す“酵素”が仲介し、体内でいろいろな化学反応を起こして機能しています。いまは絶滅危惧種になりましたが、昔は“お見合いおばさん”が出会いの少ない男女をお見合いさせてまさに仲介していました。

体内で例えるならば、唾液に含まれる消化酵素(アミラーゼ)は炭水化物を分解し、胃液に含まれる消化酵素(ペプシン)は肉などのタンパク質を分解しますし、膵液に含まれる消化酵素(リパーゼ)は脂肪を分解。さらに、アセトアルデヒド分解酵素(ALDH2)は、ビールやワインを分解します。そのため、この酵素が少なく、アセトアルデヒドが貯まりやすい私はお酒が弱いのです。

ビタミンやミネラルは酵素のサポーターだとイメージするとよいでしょう。炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルという5大栄養性に続いて、腸内細菌は6番目の栄養素としての地位を確立しつつあります。

もう食物繊維は、「うんちに出るだけの無意味な存在」とか言わせねぇ~。

[獣医学博士 川野浩志]