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ヒトと犬の虫歯の原因と治療

[2021/10/19 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」という言葉がありますが、虫歯の敵は誰なのか? スバリ、答えは口腔内の細菌。つまり細菌を制すれば虫歯をコントロールできるのです。口の内にいる虫歯菌(ミュータンス菌)は砂糖が大好物で、砂糖を食べるとおしっこ(乳酸、酢酸、プロピオン酸など)を歯にぶっかける。おしっこが歯の表面(ヒトロキシアパタイト)を溶かす(脱灰)ことで虫歯になる。したがって、虫歯をコントロールしようと思ったら、口のなかの細菌がおしっこを出さないようにすることが本質なんです。

虫歯がご馳走(砂糖)を食べたあとに出すおしっこで歯から溶け出したカルシウムやリン酸は、じつは“復活”するシステムがあるのです。これを「再石灰化」と呼びます。つまり、溶け出したカルシウムやリン酸が、唾液によって再び歯にピタッと取り込まれ、歯が元気モリモリと元に戻る。このように食事をする度に、歯は脱灰と再石灰化を繰り返しています。ところが、砂糖をたくさん食べたり、歯磨きをしないで歯垢をほったらかしにしたり、(特に睡眠中など)唾液も少ないような口内環境が続くと、再石灰化の復活スピードが追いつかず虫歯へと進行するわけです。

虫歯が進行するプロセスをザックリ説明すると以下のようになります。

①口腔内細菌が歯にペタッとくっつく
②口腔内細菌が食物中の砂糖(炭水化物)を食べておしっこを出す
③口のなかが酸性になると、歯が溶け始め脱灰する
④カルシウムやリン酸が失われると、その奥にあるエナメル質に穴が開く
⑤さらに奥にある象牙質まで進むと、冷たい飲食物がしみる
⑥さらに進行し歯髄神経まで達すると、激しい痛みが出る


従って、以下の3つの条件が重なり合うと、虫歯が発生することになるのです。

 ・虫歯菌を代表とする酸を作る口腔内細菌(歯垢)
 ・細菌のエサとなる糖質(主に砂糖)
 ・少ない唾液


では、犬は虫歯になるのでしょうか。犬にも虫歯が発生していることは事実ですが、発生率はヒトより格段に低い値となっています。その理由は、薄く尖ってる歯と歯間間隔が広いという形状、発酵性炭水化物をほとんど含まない食事、唾液のpH値が高い(犬:7.5、ヒト:6.5)、唾液に「アミラーゼ」がほとんど含まれていないからとされています。

ただし、pH値が高く、唾液中のカルシウムやカリウム、ナトリウム濃度がヒトと比較して高いことから、歯垢が石灰化して歯石になりやすくなっています。その結果、特に犬は歯周病になりやすいのです。

一方で、虫歯の原因となる虫歯菌は弱酸性の環境で活性化することがわかっており、犬の口腔内は弱アルカリ性で虫歯菌が繁殖しにくいがゆえに犬は虫歯になりにくい。ただし、老犬になって唾液の分泌量が減ると、虫歯を発生しやすくなります。だから犬は虫歯が少ないけど、歯石がつきやすく歯肉炎の有病率が比較的高いというわけです。

予防としては、前回お伝えしたように、ヒトでは「糖アルコール(キシリトールなど)」が有効とされていますが、犬においては、キシリトールは低血糖と急性肝不全を起こすことが報告されているので、「エリスリトール」を使った予防が期待できます。何はともあれ「口腔内細菌の数を減らす」ことが大切なんですね。

[獣医学博士 川野浩志]