Class_13

抗菌剤に頼らず細菌性皮膚炎をコントロールする方法

[2021/08/03 6:01 am | 獣医師 川野浩志]

犬の「膿皮症」は、とてもよく見られる細菌感染症です。特にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーで治療中のワンちゃんは数カ月ごとにこの膿皮症を繰り返します。

この膿皮症の主犯格であるブドウ球菌は、犬の皮膚や粘膜に常在する細菌ですが、アレルギー性皮膚疾患などが原因で皮膚表面の細菌のバランスが変化することにより、「いつもより増えちゃった状態=ディスバイオーシス」になって赤くなったり、ブツブツになったり、カイカイになったりします。

さらに厄介なのが、ブドウ球菌はバイオフォルムを形成することが知られています。つまり、スーパーマリオで例えると、マリオがスターを取って無敵になった状態で、クリボー(抗生物質)だってハンマーブロス(免疫細胞)だってはねのけてしまうということなんです。

細菌が生体に感染した際には、いろいろな糖を食べて元気モリモリになります。しかし、見た目は糖によく似た形をしているけど食べたらお腹がいたくなる糖(糖アルコール)をスプレーのなかに入れて皮膚に吹きかけると、ブドウ球菌が間違えて食べてお腹が痛くなり、糖アルコールを吐き出します。しかし、ブドウ球菌は吐き出した糖アルコールをまた間違えて食べて、腹が痛くなって吐き出します。これを繰り返すころで、どんどん元気がなくなる。この作戦は、まるで白雪姫が毒リンゴを間違って食べてしまったことに例え、「白雪姫作戦」と命名します。

ちなみに、この白雪姫作戦は私たちが使う歯磨き粉にも応用されています。糖アルコールは、虫歯菌であるミュータンス連鎖球菌にも効果があり虫歯予防の効果が有ります。さらに、歯周病菌である「ジンジバリス菌」のバイオフィルムをぶっ壊すのです。

ペットにおいても抗微生物薬は、感染症の治療において重要な役割を果たしています。その一方で、抗微生物薬の使用量が増大するにつれて、その薬剤の効かなくなる微生物が発生する薬剤耐性(AMR)の問題に悩まされるようになってきています。

できるだけ抗微生物薬ではなく、感染症をコントロールすることは未来のペットのためにかかせない課題のひとつです。そこで、細菌がエネルギーをつくり出す際に必要な糖と似た構造で細菌が代謝することができない糖アルコールを使い、細菌のATP産生を抑え、さらにバイオフォルムを形成を抑制することによって、常在菌のバランスを整えるという新しい概念を提案しています。

これまでの犬の膿皮症の治療戦略としては、薬用シャンプーで洗ったり、抗菌薬を塗ったり飲んだりすることでした。しかし、抗菌薬に頼りたくない場合やバイオフィルムがバリバリできているケースでは「白雪姫作戦」をトライしてみる価値はあります。

[獣医師 川野浩志]