今年2月、アメリカ合衆国国土安全保障省は、メキシコとの国境で犬型ロボットが国境警備のパトロールを行う研究をしていることを公表しました。犬型ロボットは米Ghost Robotics社が開発したもので、自律的に歩き回って警備し、リモートコントロールも可能。リアルタイムに動画を送ることもできるそうです。武器や兵器などの搭載は明らかにされていません。
国土安全保障省のブレンダ・ロング氏は「メキシコとの国境は人間や動物にとっては難所であるため、人間や動物がパトロールするよりもロボットのほうが適している」とコメントしています。近年はいくつかの国で、使役目的とした犬型ロボットの開発が進んでいます。今回は「犬型ロボット」についてのお話です。
なぜ犬型ロボットの開発が進むのか
開発が進む背景には、ロボット技術とAI技術の進歩があります。特にアメリカでは軍事でのロボット活用が進んでいます。ロボットは人間よりも3D業務に優れ、疲れることもなく24時間稼働できます。壊れたら代わりのロボットを配置すればよいという利点があるのです。
3Dとは「Dangerous(危険な)」「Dirty(汚い)」「Dull(退屈な)」のことで、特に3D業務の典型である国境警備は、人間よりも犬型ロボットのほうが適しているといいます。3Dをもろともしない犬型ロボットは、フード代もかからず、ケガもしないので治療費もかからず、老齢化して介護が必要になることも、気質や性格に合わせた訓練も必要ありません。充電やメンテナンスの費用はかかることはありますが、圧倒的に動物の犬より犬型ロボットのほうが優位なのです。
例えば、2019年には米フロリダ・アトランティック大学が、AIとディープラーニングを駆使した犬型ロボット「Astro(アストロ)」を開発して話題となりました。「Astro」は周囲の環境を認知して自ら学習する機能を持ち合わせた人命救助用のロボットです。頭部はドーベルマンをモデルに3Dプリンターで制作されていて、各種センサーやカメラ、指向性マイク、イメージングレーダーを搭載しています。
「お座り」「待て」「伏せ」など犬と同じタスクを持ち合わせていて、最終的には人間の合図や多くの言語を理解したり、ニオイを嗅ぎ分けて危険物・異物の検出、人間には聞こえない音を拾うなど、警察犬や災害救助犬、介助犬としての実用化を目標にしている犬型ロボットだそうです。
また、2021年3月には中国のロボットメーカーであるUnitree Roboticssh社が、犬型ロボットが大量に同時に動いている動画をツイッターで公開しました。BGMには映画『スターウォーズ』に登場するダース・ベイダーのテーマ曲(帝国のマーチ)を流していて、その一糸乱れぬ犬型ロボットの動きは「ロボットに支配される時代が来るのでは」と恐ろしささえ感じるといいます。
2021年10月に開催された合衆国陸軍協会の年次会議「陸戦用兵器に関する展示および専門的開発フォーラム」では、銃器装備の犬型ロボットが披露されました。30倍光学ズームや暗視用サーマルカメラを備え、有効射程1200メートルの銃器を装備し、発射から弾の再装填まですべてリモートで行える四足歩行型ロボットです。
米Ghost Roboticsが開発した「Vision60」という四足歩行型ロボットに、ライフルなど小型武器製造メーカーの米SWORD International社が製造した、ロボットプラットフォーム専用の銃器「Special Purpose Unmanned Rifle(SPUR)」を装着したものです。実際に販売がなされているかどうかは不明ですが、販売は時間の問題のようです。しかし、軍事に活用することについてSNS上を中心にさまざまな議論が生じています。
日本で開発された犬型ロボットは?
日本において軍用犬型ロボットの開発・活用はありませんが、シカやイノシシから農作物を守るために活用している例があります。犬型ロボット「スーパーモンスターウルフ」は、北海道奈井江町の太田精器が北海道大学と東京農業大学と共同で開発したもので、全長65㎝・高さ50㎝で、顔や姿をオオカミに似せています。
野生動物などが近づくと赤外線センサーで感知し、オオカミの鳴き声などを最大90dBで響かせます。また、目のLEDライトを点滅させながら、首を左右に振って威嚇します。威嚇音はオオカミの遠吠えに似た音や動物を狩るときの声、また動物の悲鳴など約50種類以上、威嚇するような人間の男性の声も使用されているそうです。タイマーを使用すれば、一定の間隔で音や光を出すこともできます。この犬型ロボットの四肢はがっちりした金属製のポールで、全身はオオカミの被毛のように見せた防水性コートで覆われています。動力は充電式電池で、太陽光パネルから充電して賄います。
例えば千葉県木更津市の農協では、2018年にイノシシの食害に悩む市内の水田で2カ月間、栗畑で1カ月間、「スーパーモンスターウルフ」を使用した実証実験を行いました。水田では、装置を置いた反対側で多少の被害があったものの食害は減少。栗畑ではイノシシに食べられたものはほとんどなく、食害が大幅に減少したそうです。このほか、北海道や山梨県など計9カ所で試験的に設置したところ、農地以外でも効果が見られたとか。ゴルフ場で野生動物によるコースの掘り返しがなくなったり、高速道路のインターチェンジでシカの侵入が減ったなど、一定の効果が報告されています。その後、量産化されるに至っています。
また、みなさんがご存じの「aibo(アイボ)」は、ソニーが1999年より販売している犬型のペットロボット(エンタテインメントロボット)です。全長約30cmで四足歩行ができ、子犬と似た動作をして、ユーザーとのコミュニケーションを介して成長するように設計されています。専用のメモリースティックを使用すれば、ユーザーが自分でプログラミングすることも可能です。人間の使役を代行することが目的ではなく、動作させてその挙動を楽しむためにつくられたロボットです。発売以降、高機能化したモデルチェンジが行われていましたが、2004年にロボット事業からの撤退が決まり、2006年にaiboは生産終了となりました。しかし、2016年6月にソニーはエンタテイメントロボット事業に再参入することを発表しました。2018年にはバージョンアップしたaiboが登場し、現在も進化し続けています。
まとめ
今日のAIやロボットの開発は凄まじいほどの展開を見せていて、海外においてはかなり進んだ使役目的での開発が進んでいます。日本の犬型ロボットは使役目的というよりも、aiboのようなエンタテインメントなど楽しさや癒しを目的したロボットの開発が多く見られます。
前述したアメリカや中国などと違い日本は島国であるため、国境警備や陸戦用兵器などに対する考え方の違い、また必要性が低いことが関係しているのかもしれません。さまざまな国において開発が進むのは悪いことではありませんが、武器を搭載した犬型ロボットが悪用される可能性を考えると、賛否両論があるのは当然です。
いかに開発が進もうとも、健全な使い方がされるようにと願います。近い将来、周りを見渡すとロボットだらけなんてことがあるかもしれませんね。