犬との暮らしで知っておきたいこと Vol.71

【犬飼いTIPS】股関節形成不全ってどういう病気なの?

[2022/02/11 6:01 am | 編集部]

股関節形成不全は、主に大型犬や超大型犬に高い確率で発症している疾患のひとつです。産まれたときには正常な股関節が成長とともに緩んでいき、それが根本的な原因となって股関節が異常に形成されていく疾患です。

一般的に両側の股関節に発症することが多いといわれていますが、片側性の症例も公表されています。小型犬種や猫にも発症が報告されていて、気を付けたい疾患のひとつです。今回は股関節形成不全についてのお話です。

発症する時期とふたつの型

股関節形成不全の原因は、遺伝的素因や成長期の偏った栄養や運動などが関与しているといわれています。その発症する時期などから、主にふたつの型に分けられます。ひとつは犬がまだ若年齢の時期に多く発症するもので、股関節のさまざまな程度の緩みが関節包、滑膜(かつまく)、大腿骨頭靭帯などの支持組織に炎症を起こすことで、疼痛(とうつう)を感じるようになります。

もうひとつは、中年齢から高年齢の時期に多く発症するものです。若年齢に発症したときのような股関節の緩みが見られることは少なく、関節構造の形成異常が多く認められます。関節の不整合や不安定などの構造異常とともに、骨関節炎を発症します。さらに進行すると、関節軟骨の損傷や関節可動域の減少などが見られるようになります。

股関節形成不全に見られる症状

この疾患に見られる特徴的な症状は、「後肢のふらつき」です。愛犬に下記のような症状が見られたら、股関節形成不全の可能性があるので、早期発見のためにも動物病院を受診することをオススメします。

・横座りをするようになった
・腰を振るように歩く(モンローウォーク)ようになった
・四肢を突っ張るように歩くようになった
・うさぎ跳びのように後肢を一緒に動かして走るようになった
・立ち上がるのに時間がかかるようになった
・高い場所からの昇り降りをしなくなった
・立っているときの後肢の左右の設置点間隔が狭くなった
・散歩を嫌がるようになった
・長距離を歩けなくなった
・散歩の途中で何度も座りたがるようになった
・段差を嫌がるようになった


上記のような症状は、ほかの疾患でも認められる症状です。例えば、膝関節疾患や前十字靭帯断裂、脊髄疾患や馬尾症候群、後肢および骨盤の腫瘍性疾患などです。それらとの鑑別をするためにも、動物病院の受診や検査が重要です。

股関節形成不全の診断方法

この疾患の診断には、飼い主からの情報、歩行状態、立っているときと寝ている状態での筋肉や骨格の触診、股関節のレントゲン写真などが必要です。ただ、若年齢の時期に発症した場合には、レントゲン写真には明らかな変化が認められない場合もあります。その場合には、レントゲン写真を公的機関に郵送して、その評価を依頼します。

例えば、特定非営利活動法人日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD Network)では、「イギリスの国際的な股関節評価機関であるBVA/KCスコアリングスキームのプロトコールを参考にし、股関節形成不全の際にレントゲン写真上に特徴的な変化の起こる股関節の所見を9つの項目に分け、それぞれの項目ごとにJAHDの評価基準に沿って0から5ポイントのスコアを付け、左右の股関節すべての項目の総スコア(0から90ポイント)で股関節形成不全を評価します」としています。

評価結果のスコアが低いほど優れた股関節で、スコアが高いほど重度の股関節形成不全を示しています。JARDの場合は犬の対象年齢を生後12カ月以上です。それらを総合的に判断して、股関節形成不全を診断することになります。

誤った治療をしないために

治療に関しては犬の年齢や症状、股関節の状態、飼い主の希望などによって、選択できる治療も異なってきます。また、獣医師によっても治療法は異なってきます。基本的には、内科的治療法(保存的)と外科的治療法のいずれかを選択することになります。どちらを選択するにしても、室内の滑りやすい場所にマットを敷くなど飼育環境を整えるとともに、体重制限や運動制限をするなどの保存治療が必須です。

内科的治療では鎮痛時やレーザー療法などによる痛みの管理が中心となります。これらを行うことで症状が緩和され、良好な生活を送れるケースもありますが、重度な場合や改善が見られない場合には、外科的治療を行うことになります。

外科的治療の手術は、「股関節全置換術」「大腿骨頭切除術」「骨盤3点骨切り術」などが主となります。犬の症状や股関節の状態などにより、手術時期や手術方法が異なります。

しかし、近年は獣医師による誤った治療で、症状を悪化させてしまったという事例を耳にします。そうならないためには、「正しい診断」が大切です。股関節形成不全の疑いがあるときには、できるだけ専門医に見てもらうことをオススメします。かかりつけのホームドクターに相談すれば、整形外科専門医を紹介してくれることでしょう。

まとめ

愛犬の股関節形成不全の早期発見は、飼い主の日々の観察力に委ねられています。前述したような行動が愛犬に見られたら、できる限り早期に動物病院に行きましょう。

一般社団法人ジャパンケンネルクラブ(JKC)では、発行する血統証明書にJARD Networkでの検査結果を記載できるようにしています。股関節形成不全は遺伝的要素も強いと考えられているため、発症する率が高い犬種の健全なブリーダーは、親犬たちの股関節を検査して血統証明書に記載しています。

もちろん、スコアの高い犬に関してはブリードラインから外し、不幸な子犬をできる限り産出しないように努めています。股関節形成不全の発症率が多い犬種を迎えたいときには、親犬がその検査でクリアしているかどうかも大きなチェックポイントとなるでしょう。

[編集部]