私たち人間は年齢を重ねるにつれて老化が始まり、その老化現象のひとつとして現れるのが老眼です。老眼は40代半ばくらいから症状を自覚し始める人が多いとされています。
ピントが合わなくなることで今まで見えていたものがぼやけて見えるようになり、小さな文字になると眼鏡なしでは読むことができず、毎日不便さを感じている人も多いのではないでしょうか。
では、猫も加齢とともに老眼になるのでしょうか? 今回は猫の目のお話です。
猫は老眼にはならない
猫は動体視力が優れていて、優秀なハンターです。身体能力も優れているので、獲物を見定めて狩りをする能力は抜群です。しかし、猫も年を取るにつれ動きが鈍くなり、物を追いにくそうにしているのを見ると、「そろそろ老眼かな?」と思っている飼い主もいることでしょう。
そもそも老眼は水晶体の弾力性が弱まり、ピントを合わせる調整力が低下した結果、近いところが見えにくくなる症状を指します。猫の場合は加齢によってこの調整力が衰えることはないので、老眼になることはありません。
しかし、年齢を重ねた猫には老眼のような症状が現れることがあります。それは、目の病気によるものだとされています。老眼だと思い込み、治療が遅れると失明する可能性がある病気もありますので、注意が必要です。
老眼に症状が似ている猫の目の病気
前述したように、猫は老眼になることはありませんが、加齢による病気によって視力が低下する可能性があります。老眼のような症状を伴う病気をしっかりと理解し、まずは予防をし、症状が出たらすぐに対処できるようにしておくことが大切です。
白内障
白内障とは、水晶体が白く濁っていく病気です。視界がドンドン狭くなり、症状が進行すると瞳孔の奥が変色し、やがて視力が失われます。猫の場合は白内障が進行し、水晶体が完全に白くならないうちは行動に変化が見られないことが多いようです。
なぜなら、猫は聴覚が優れているので、視覚以外の感覚を頼りに生活することができるからです。瞳孔が白く濁ってくる、ものにぶつかる、薄暗い所ではあまり動かない、白目が充血しているなどの症状が見られたら、早急に獣医師の診察を受けましょう。
ただ、白内障は治療法が見つかっていないため、早期発見をしても症状を遅らせることしかできません。できるだけ早く治療を開始することで、視力を保ってあげることが大切です。
緑内障
緑内障は眼圧がとても高くなり、角膜とレンズの間に入っている液体が多くなることで、網膜や視神経に異常がみられる病気です。眼の赤みや目やになどの症状も出ますが、眼が白く濁る、眼が飛び出したように大きくなる、光を嫌がる、眼を痛がるなどの症状もあります。
特に瞳孔(黒目)が左右で大きさが異なる場合は、注意が必要です。症状が進行すると失明の可能性もありますので、異変を感じたらすぐに獣医師の診察を受けましょう。
核硬化症
核硬化症とは、加齢によって水晶体が衰退して物が見えづらくなる症状で、治療を行うことは稀です。しかし、あまりにも著しく視力が低下するようなら、何らかの対処をする獣医師もいるようです。年齢を重ねるにしたがって、愛猫の視力が衰えてきているようなら、核硬化症を疑うようにしましょう。
網膜変性症
網膜変性症とは、目の奥にある網膜(色や明暗、視覚情報を識別する役割をする)が変形することで視力が悪くなる病気です。この病気は猫の加齢によって現れてくる場合もありますが、もっとも代表的な原因は遺伝性であり、これは進行性網膜萎縮症(PRA)とも呼ばれています。
症状としては涙が出る、眼が赤い、老眼のように見えづらくなる、視力低下によって動作がぎこちなくなるというものがあります。症状が進行すると失明の可能性もあります。遺伝性の場合は、進行を抑えることはできず、治療法もありません。
タウリン欠乏による網膜変性症の場合には、タウリンが豊富なキャットフードを与えることで進行を抑えることはできますが、回復させることはできません。また、そのほかの病気から二次的に引き起こされた網膜変性症の場合は、その病気を治療することで進行を抑えることが可能な場合もありますが、この場合も網膜自体を回復させる有効な治療法はありません。
末期になるまで、ほとんど気づかれないことが多いので、日ごろから愛猫の様子を観察して、異変に気付くようにすることが大切です。
糖尿病
糖尿病は、インスリンの不足、もしくは正常に働かないことで血糖値が高くなる病気のことです。糖尿病になることで、視力が低下する原因となる「白内障」や「網膜剥離」といった病気を発症する可能性があります。
糖尿病と診断された場合は、食事療法、運動療法、インスリン投与などの治療が行われます。眼に症状が表れている場合には、その治療が行われます。糖尿病は猫が太ることでかかりやすくなるので、日ごろから肥満にならないように注意が必要です。もし愛猫が大量に水を飲む、老眼のように見えづらそうにしているときは、早めに獣医師の診察を受けましょう。
高血圧
高血圧症は、血圧の高い状態が一定期間続く病気です。腎疾患、甲状腺機能亢進症などにより発症することが多いとされていますが、この高血圧状態が長期間続くと視力に影響のある網膜剥離、眼内出血を引き起こすことがあります。
高血圧の治療は血圧を下げる治療と、高血圧の原因となっている病気の治療が行われます。高齢の猫の約20%が高血圧症を患っているともいわれていて、眼に何らかの症状が伴うケースも増えています。愛猫の様子がおかしいと感じたら、早めに獣医師の診察を受けましょう。
猫の視力は人間よりかなり悪い
優秀なハンターである猫は、視力がよいだろうと思われがちですが、じつは猫の視力は人間の10の1ほどしかありません。半径2m以内のものがぼやけて見えているという「ド近眼」なのです。そもそも老眼のような見え方をしているということです。
では、なぜそんな状態で小さな虫などを捕まえられるのでしょうか。それは、動体視力が優れているからです。静止しているものはあまり見えませんが、動くものははっきりと見えているそうです。くわえて、猫は聴力や嗅覚も優れているので、それらの器官をフルに使って獲物を認識しています。
まとめ
猫は加齢によって老眼になることはありません。普段何気なく生活している猫ですが、そもそもの状態が老眼のような状態で近くのものがぼやけて見えているわけです。
しかし、ほかの病気から視力が低下したり、失明したりする可能性もあります。早期発見、早期治療が愛猫の視力を守ることに繋がります。愛猫の目や行動に異変を感じたら早めに獣医師の診察を受けましょう。