近年、犬猫の多頭飼育崩壊が大きな社会問題になっています。「多頭飼育崩壊」とは、安易に数を増やし、知識が無いままに繁殖をしてしまい、飼い主の経済力や世話が追いつかず、破綻してしまう状態を言います。
個体差がありますが、犬の場合は年に2回の発情期があります。中型犬や大型犬の場合は出産頭数も多いので、避妊・去勢手術をせずにいれば、あっという間に増えてしまいます。飼っている犬が増えれば、食事やトイレの世話、飼育スペースに散歩、ペット用品、医療費などが増えます。
また、それだけでなく1頭で飼っているとき以上の配慮が必要になります。確かに何頭かの犬を飼っていると、それぞれ個性があってとても楽しいのですが、許容範囲を超えてしまうと、飼い主も犬も不幸な道を辿ることになります。複数頭飼育をする前に自分の生活スタイル、住環境、経済力、体力などを冷静に考えて、自分が犬を何頭飼えるのかを判断する必要があります。下記のことを考えながら、しっかりとした飼育ができるかどうか、新しい犬を迎える前に考えてみましょう。
すべての犬の登録と狂犬病予防注射をする
すべての犬の飼い主は「狂犬病予防法(昭和25年8月26日法律第247号)」により、その犬の所在地を管轄する市町村長に犬の登録を申請し、その鑑札を犬に着けなければならないと定められています。また、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年1回受けさせ、その注射済票を犬に着けておかなければなりません。これは飼っている犬のすべてに行う必要がありますので、複数頭飼育の場合はより費用がかかります。
十分な生活スペースと寛げる場所を用意する
それぞれの犬が快適に過ごすためには、一定の広さや寛げる場所が必要です。しかし、犬の数が多すぎるとそれがストレスとなり、問題行動や病気として表面に現れてきます。下記のような犬の行動や症状が見られた時にはストレスのサインかもしれません。そうなると、一時的に犬を隔離したり、部屋を分けたりする必要がでてきます。
・過度に体を舐めたりして、毛が抜けてハゲができる
・落ち着きがなくなる
・すぐに逃げたり、隠れて出て来なくなる
・過剰に吠える、鼻を鳴らす
・他の犬や人に対して攻撃的になる
・自分の尻尾を追い掛け回してグルグルと回る
・元気がなく食欲不振あるいは亢進になる
・下痢になる
・過剰に家具やケージなどを噛む
すべての犬の避妊・去勢手術を徹底する
1頭飼いの場合でも万が一の場合を考えて、また生殖器系の病気を防ぐためにも避妊・去勢手術は必要です。複数頭飼育をする場合には、さらにその重要性が増します。雄同士を飼う場合は縄張り争いやストレスを防ぐため、また、雄と雌を飼う場合には放っておくと驚くほどのスピードで増えてしまうので手術が必要です。
犬にとって繁殖行動は抑制することができないものです。近親であっても交配をしてしまいますので、1~2年でしっかりと世話ができる頭数を超えてしまいます。また、避妊・去勢をせず、欲求を残したまま交配をさせないことは、犬にとって大きなストレスになります。それが原因で、下記のような問題行動や病気を引き起こすこともあるのです。
・犬同士の喧嘩
・トイレ以外の場所で排泄したり、過度なマーキングを壁などにする(雌でもマーキングはする)
・過度に体を舐める
・自分の尻尾をグルグル回りながら追いかける
・異常な鳴き声をあげる
・外に出たがる
・自分の体を血が出るほど噛む
ワクチン接種と定期的な健康診断をきちんと受ける
病気に感染したり、重篤な病気を早く発見できるように、ワクチン接種をすることや定期的な健康診断を受けることはとても大切なことです。複数頭飼育するということは、その頭数分の費用がかかることになります。
犬同士の関係性や相性に気をつけ争いにならないように配慮する
1頭飼いであれば、飼い主との関係性だけを考えればよいのですが、多頭数飼育なると犬と犬の関係性を考える必要がでてきます。犬にとって必要なものは飼い主の愛情です。先住犬にとっては、あとから来た犬はライバルになります。飼い主に注目されるのが減れば、先住犬の大きなストレスとなり、喧嘩や自傷行為、問題行動につながってしまいます。
そして、後から来た犬との相性が悪ければ、トラブルやさらなる問題行動を引き起こすことになります。また、大喧嘩になり、その後の関係性が犬の生涯に渡って悪くなることもあります。相性が悪く、仲良くできない場合はそれぞれ別の部屋で過ごすことにもなってしまいます。そうなれば、より多くのスペースが必要となります。特に成犬同士の初対面には十分な注意が必要です。無理に合わせることなく、時間をかけて様子を見るようにしましょう。
1頭1頭にあわせた食事の管理をし、先住犬から与える
普段の食事の量や質も、1頭1頭の年齢や健康状態に合わせて用意する必要があります。多頭数飼育になればなるほど、その管理は難しくなっていきます。犬同士の関係性にも配慮し、食事も先住犬から与えるようにする必要があります。
しつけは犬の性格や状況に合わせて1頭ずつ行う
犬はそれぞれ能力や性格が違います。それを考慮しながら、しつけも1頭ずつ行う必要があります。複数頭飼育となれば、それをここに行わなければいけません。時間も根気も頭数分必要となります。
犬が老齢になったときには介護が必要となる
犬も人間と同じように、老齢になると足腰が立たなくなったり、認知症になったりします。その場合には介護が必要となります。複数頭飼育であれば、介護に必要な時間や体力、人手、費用がより必要となります。
災害時の避難方法を考える
近年、地震や噴火、洪水など自然災害等で避難を余儀なくされる事態が多々発生しています。自治体では災害時にペットと一緒に非難する同行避難を推奨するところが増えてきました。日ごろから飼い主は万が一のことを考え、犬をどう運び、避難所でどのように飼育するのかをしっかりと考えておく必要があります。1頭なら無理なく速やかに移動ができますが、多頭数飼育の場合には頭数によっては飼い主ひとりでは限界がでてきます。家族がいる場合には役割分担をしておく必要もあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか? ひとりで飼える頭数には限度があります。その限度を超えてしまうと、飼い主も犬も不幸な道をだどることになります。飼った以上は、その犬の終生に渡って責任を持って育てていく必要があります。もし、事情があってどうしても飼えない状況になってしまった場合にも、犬の幸せを願い、しっかりと育ててくれる人に自らが託す必要があります。決して「捨てる」ような行為は許されないことです。もちろん「多頭飼育崩壊」をすることもです。飼い主も犬も幸せに過ごすことが何よりも大切。それを一番に考えて決断しましょう。