【編集興記】猫のFIP治療が可能になるかもしれない ~米国でFIP用GS-441524の販売が開始

[2024/06/24 6:01 am | 編集長 国久豊史]

ちょっと気になったペット関連のトピックスを、編集スタッフが持ち回りで紹介する“不定期”コーナーです。

猫伝染性腹膜炎(FIP)は致命的な疾患ですが、これまで飼い主はGS-441524(ヌクレオシド類似体)を使って猫を治療してきました。この薬剤は必ずしもすべての症例に有効ではありませんが、ある程度の効果が現れています。

また最近では、獣医師が猫のFIP治療にレムデシビルを処方し、治療に成功しているという報告もあります。レムデシビルは、GS-441524と同様にヌクレオシド類似体であり、猫への適応外使用での有効性が確認されています。

問題はこの薬を獣医師が処方できないため、今すぐ治療が必要な猫にとっては解決策にはならないことです。そして、飼い主が自ら闇市場(ブラックマーケット)で、真偽が定かではない薬を入手するしかないということでした。

しかし、米国では6月1日からFIPの治療薬の販売が開始され、猫のFIP治療が可能になりました。これは、FIPに苦しむ猫と飼い主にとって朗報です。

米国動物病院協会(AAHA)のリリースによると、すでにイギリスやオーストラリアなどでは、FIP用に改良されたGS-441524が治療薬として使用されています。この薬は、BOVA社というコンパウンドファーマシー(調剤薬局の一種)が製造しています。

この薬はレムデシビルや闇市場で販売されるGS-441524とは異なり、注射ではなく錠剤の形で提供さています。条件付きではありますが、獣医師が処方できるようになりました。

これは、今年5月10日に米国食品医薬品局(FDA)がこのFIP治療薬に関する声明を発表したことによります。声明では、猫のFIP治療薬として承認した薬剤は存在しないとしつつも、FIP用に改良されたGS-441524が特定の患者に調合されるのであれば、承認要件を施行することはないとしています。

米国獣医師会(AVMA)と全米猫獣医協会(AAFP)も、獣医師がFIPの治療に必要なレムデシビルやFIP用に改良されたGS-441524を、動物病院に在庫することを認めるようにFDAに働きかけているようです。

カリフォルニア大学デービス校獣医学部では、この病気と治療法の研究を続けており、米アニバイブ・ライフサイエンス社のコミットメントには「私たちは、FDAと協力し、安全で効果的かつ手頃な価格の解決策の承認を得るために全力を尽くしています」と書かれています。

GS-441524の販売が開始されたものの、現時点で承認薬がいつ提供されるかについてのタイムラインは示されていません。しかし、米国で研究が続けられているのであれば、FDAの承認薬が開発される望みはまだあります。

日本においては、2020年に厚生労働省がレムデシビルをヒトの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬としてに承認しました。レムデシビルは、米ギリアド・サイエンシズ社が開発した抗ウイルス薬です。

体内に入ると活性化するプロドラッグで、ウイルスのRNA複製酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)を阻害することで、ウイルスが遺伝子をコピーして増殖するのを防ぎます。

しかし、これはあくまでヒトの治療薬して認可されたもので、この薬を獣医師が動物に使用することは厳しく制限されており、入手するのも困難です。

日本獣医師会や動物臨床医学会など獣医療の発展を担う組織が、レムデシビルやFIP用に開発されたGS-441524を獣医師が処方できるように、農林水産省に積極的に働きかけることが望まれます。

そうなれば、かかりつけの動物病院ですぐに治療を開始することができるので、FIPを発症した猫と飼い主の大きな希望と支えになることでしょう。

[編集長 国久豊史]