【編集興記】AIが動物福祉を前進させる! 改正動物愛護法の完全施行とマイクロチップの代替え技術とは

[2024/06/03 6:01 am | 編集長 国久豊史]

ちょっと気になったペット関連のトピックスを、編集スタッフが持ち回りで紹介する“不定期”コーナーです。

6月1日、改正動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)が完全施行されました。この法律は2019年に成立し、2021年から段階的に施行されてきました。

改正の目的は、動物の福祉と権利を一層強化することです。主な改正点には、飼育環境の改善義務の強化、動物虐待の厳罰化、ペット繁殖・販売業者の規制強化、動物愛護管理センターの機能強化、そしてマイクロチップの装着義務化が含まれます。

具体的には、飼育環境の改善義務では、犬や猫のケージサイズ、運動の機会、適切な温度管理が規定されました。動物虐待に対する罰則が強化されています。

ペット販売業者には、販売する犬猫にマイクロチップを装着し、飼い主情報を適切に登録する義務が課され、販売年齢の制限も導入されました。

また、第一種動物取扱業者に対する飼育頭数制限が導入され、乱繁殖の防止と適切な飼育環境の確保が図られます。経過措置を経て、社会全体で動物愛護の重要性を再認識し、責任ある行動を心がけることが求められています。

さて、そのなかのひとつがマイクロチップの扱いです。マイクロチップの装着については、新たに販売される犬猫には装着が義務化されましたが、既存のペットについては努力義務にとどまります。

すでに飼育されているペットについては、マイクロチップを装着することが推奨されますが、強制ではありません。飼い主の負担軽減や高齢や健康上の問題を抱えるペットに対しては、装着がリスクを伴う可能性もあるからでしょう。

ただし、すでに飼われているペットに対する装着義務化は、段階的に適応させる必要があります。日本は災害が多い国であり、災害が発生すると犬や猫と離ればなれになることが多々あります。

そんな際にマイクロチップを装着していれば、登録データを確認することで、飼い主のもとへ戻ることができます。また、所有者情報が明らかになることで、飼育放棄を抑止する効果も期待されます。

ペット先進国といわれるイギリスでは、一足早く2016年には飼い犬へのマイクロチップの装着が義務化され、飼い猫についても今年の6月10日を期限として装着が義務化されました。

違反者には最高500ポンド(約100,000円)以下の罰金が科せられます。こうした動きは、遅かれ早かれ日本にも波及するのではないでしょうか。

マイクロチップ装着の意義を知っても、装着させたくないと考える人もいます。ペット保険各社が、マイクロチップ装着に対してのアンケート調査を行ったところ、いまだに半数以上の飼い主が「装着を検討しない」と答えています。

その理由としてもっとも多いのが、「痛そう」「かわいそう」「健康上よくない」というものです。しかし、すでにペットの負担が少ない小型のマイクロチップや、注射の際に痛みの少ないバックカットタイプの針が採用されているように、飼い主の心配を払拭するような製品も販売されています。

しかし、それでも……という人もいると思います。体内に異物をいれるのに抵抗があるということです。それを解決するのが、昨今のAI技術かもしれません。

例えば、すでに人間ではセキュリティの観点から空港などのセキュリティでも導入されている「顔認証」システム。ワシントン州立大学の研究チームが、昨年末にタンザニアの狂犬病予防接種クリニックでこの顔認証システムの有効性を検証したところ、識別率が98.9%というを正確さだったようです。この認証アプリは、カナダのPiP My Pet社と共同で開発されました。

そして、もうひとつが「鼻紋認証」です。犬や猫の鼻紋は、人間の指紋のように個体ごとに独特の模様や特徴を持っています。鼻紋は、生後6カ月になるころに完全に形成され、その後変化はないとされています。

鼻紋認識技術は年齢や体重の変化に影響されにくく、非接触で識別が可能なため、マイクロチップを埋め込む必要もありません。さらには、マイクロチップが抜き取られても個体識別が可能です。鼻紋は永久に残るということです。

すでにお隣の韓国では、スタートアップ企業のPetnowが「鼻紋」アルゴリズムのアプリを開発し、行方不明のペットを飼い主と再会させるのに実際に役立つアルゴリズムを作成しています。これは、ここ数年で人気が高まり、盗難や転売の危険にさらされている犬種にとって特に意味のあることです。

これらの技術は、マイクロチップに変わるものと期待されています。ただし、それがすぐに実現するのかというと、まだまだハードルは高いといえます。

まずは、DWH(データウェアハウス)の問題。誰が、どのように管理するのか。その財源はどうするのかです。一般企業がそれを担うのか、それともマイクロチップのように環境省及び日本獣医師会が担うのか。

マイクロチップの装着は獣医療行為であり、獣医師しかできません。当然ですが、その費用は動物病院の財源になります。

また、マイクロチップの情報を登録する際にも手数料(400~1,600円)がかかります。仮に年間の流通頭数が80万頭だとすると、ブリーダーによる初期登録で3.2億円、飼い主による変更登録で約3.2億円がかかります。これはオンラインでの金額で、振込などの場合は約4倍にもなります。こうした既得権を手放すでしょうか?

「顔認証」も「鼻紋認証」も飼い主が写真で撮影するだけで登録できます。獣医療行為でないので、動物病院で処置する必要がありません。そうなれば、かなりハードルは下がるように思います。

いずれにしても、現状では法律で義務づけられているので、マイクロチップは装着しなくてはなりません。ただ、動物福祉の観点から考えると、マイクロチップ以外の選択肢があるのは、飼い主だけでなく、ペットにとってもメリットになると思います。

[編集長 国久豊史]