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猫に特化した専門性の高い医療を提供する若き獣医

[2016/01/08 12:00 pm | 編集部]

近年の飼育環境の変化でペットの高齢化が進行し、飼い主が望む獣医療が変化しつつある。従来は大学病院で行われていた二次医療は、民間の獣医師の専門化により、ホームドクター的な一次医療を超えて可能になってきている。さらに大学病院やほかの専門病院との連携により、より高度な獣医療を提供している獣医師も増えてきた。

多様化・細分化する獣医療。飼い主は「どんな病院を」「どんな獣医師を」選ぶべきか。知識・技術は当然だが、ペットとともに飼い主も思いやる心も望まれる。多くの飼い主たちが信頼を寄せて全国から集まる病院、ペット業界のプロたちが推薦する病院、そして獣医師が信頼して紹介する病院にこそ、その答えがあるのだ。ここでは、そんな「選ばれし獣医師」を紹介していく。

専門性の高い医療を提供する

2012年4月に東京都江東区に開業した東京猫医療センターは、猫専門(日本には約30カ所存在)の動物病院である。服部 幸(ゆき)院長がこの病院を立ち上げたのは、「猫が犬と同じ病院で治療をすることは、猫にとっては大きなストレスなのでは?」という勤務医時代に感じた素朴な疑問からだという。

2013年にはISFM(国際猫医学会)のキャットフレンドリークリニックのゴールドレベルに認定されるなど、開業間もないころから世界に通用する最新医療を提供し続けてきた。東京猫医療センターには、猫とその飼い主に対する熱き思いが込められている。猫専門医として躍進を続けている服部院長に話をうかがった。

服部 幸 院長
北里大学獣医学部卒業
2年半の動物病院勤務
2005年:猫専門病院Syu Syu CAT Clinic初代院長を務める
2006年:米・テキサス州にある猫専門病院Alamo Feline Health Centerにて研修プログラム修了
2012年:東京猫医療センターを開院する
2005年より猫の専門医療に携わる

・獣医師を目指したきっかけ

「大好きな動物を知るために獣医になる」

私は幼いころから野生動物の研究者になりたいと思っていました。特にライオンやトラ、ヒョウなどのネコ科の動物ですね。ただ、それらの動物を知るためには、病気や体のことも学ぶ必要があると思い、獣医師になるのが一番かなと考えたのです。

父親が獣医師だったので、自宅の書斎には動物に関する本がたくさんありました。それを絵本代わりに読んでいたので、その置かれた環境もあったと思います。ですから、ネコ科に限らず動物が大好きで、休日には今でも動物園に行くことが多いです。

・「猫専門病院」を立ち上げた理由

「ストレスのない中で、猫の治療をしてあげたい」

猫は基本的に犬が苦手です。犬は病院で鳴いてしまうことが多いので、待合室や入院時の病室で犬と一緒に過ごすことは、猫にとって強いストレスを与えることになります。

猫は痛くても怖くても、鳴かずにずっと耐えています。病室の隅で小さくなって、その存在を隠すようにじっとしています。治療に来ているのに、そのストレスにより、治る病気が治らなかったり、長引いたり、別の病気を誘発したりする可能性もあります。

病院は主に病気を治しにくる場所です。動物の生態それぞれに違いがあるのなら、別々に診てあげた方がよいのでは? そんな疑問から猫専門病院はスタートしているのです。実際に猫だけの病院はとても静かで、ほとんどの猫がリラックスしています。入院中にお腹を見せながら寝ている猫もいるくらいです。

それから、動物の体臭の強さの違いもあり、猫だけの病院は臭いが少ないのが特徴です。病院なので快適とまでは言えませんが、それに近い環境の中で治療をしてあげたいと考えています。猫にやさしい病院でありたいですね。

また、猫専門にすることで、深い専門知識と経験が得られるとともに、最新の医療技術を提供することができるわけです。

専門化が進んでいるアメリカには、たくさんの猫専門病院があります。これから日本の獣医療技術もますます高度になっていくのですから、さまざまな診療分野で、より専門的に治療を行う必要性が高まると思います。なにより飼い主さんがそれを望んでいますからね。

・得意としている診療分野

「得意なのは『猫』」

得意としている診療分野は「猫」と言えるでしょう。年に数回はアメリカやヨーロッパの猫学会に参加し、最新の猫医療を提供することに努めています。また、アメリカの猫専門病院の研修を受けて、医療技術を磨いています。

この病院は腎臓病やホルモンの病気で来られる方が多いので、必然的にその病気の症例数が多いです。これらの病気は長期にわたる治療が必要になります。だからこそ、その猫と飼い主さんとの付き合いも長くなりますし、どのような治療のアプローチをしていくか、とても興味深い部分です。それについては日々、悶々と考えています。

猫専門であるからには、猫に対する幅広い知識と医療技術をますます向上させて、よい環境の中で、猫と飼い主さんを同時にハッピー(幸せ・満足)にしていきたいです。

・猫と飼い主さんに合わせた治療法

「猫と飼い主さんが同時にハッピーになれる治療法」

この病院に来られる理由は、「ほかの病院で治らない」「ほかの病院で病名がわからない」「ほかの病院で治療方針が合わない」などのセカンドオピニオンが7割なのです。

例えば、癌になったときに獣医師としては手術の提案をします。命を助けるため、あくまでも寿命を延ばすためということに絞れば、それは正解ですが、メスをいれたくないという飼い主さんもいます。保険に入っていなければ手術代が高額になるため、費用が出せないという方もいます。年金暮らしの方に30万円の手術を提案することが正解かといえば、私はそうは思わないのです。

まずは、「飼い主さんが望んでいることは何か?」を考えます。猫の寿命を延ばすことだけを考えて手術をすると、飼い主さんが不幸になってしまうケースがあります。そして、「猫が望んでいることは何か?」を考えます。飼い主さんの自己満足で何度も手術をすると、猫がボロボロになってしまいます。

猫も飼い主さんもハッピーでなければならない。どちらか一方だけではだめなのです。猫と飼い主さんが同時にハッピーになれる治療は何かを考え、それに沿って進めていく必要があると思います。

明確な答えはまだ見つかっていませんが、「オーダーメイドの治療」とはそれを実現するべく治療です。飼い主さんの治療・手術・費用などに関する考え方は十人十色ですから、とても難しいことではあります。実際にできているとは言い切れませんし、うまくいくこともあれば、そうでないこともあります。その差を縮めていくのは課題であり、目指すところです。

通院が嫌いな猫なら往診し、なるべく通院しなくてもよい治療を考える。内服薬が嫌いな猫であれば、注射で代用できる治療を考える。ほかの病院の治療方針が合わずに来院した飼い主さんがいたら、不満を聞き、それを解決しながら治療をアプローチしていく。そうした治療を続ける中で、猫と飼い主さんが同時にハッピーになれる答えを見つけていきたいと思っています。「オーダーメイドの治療」=「治療方針」ですね。

・治療をするうえで大切にしていること

「望むことと治療にギャップがないようアプローチする」

先に述べたことと重なりますが、できるだけ猫と飼い主さんに無理がない範囲、望むことと治療にギャップのないようにアプローチしていくことです。たくさん薬を飲ませたいし、サプリも飲ませたいし、できることは何でもやりたいという飼い主さんもいます。また、薬は1つしか飲ませるのは無理という飼い主さんもいます。

でも、いくら飼い主さんが飲ませたくても、猫が薬を飲むのを嫌がるようならできません。ですから、そこは飼い主さんと十分に相談しながら、飼い主さんの望むことと、猫の状態にマッチするような治療を選んでいくようにしています。

例えば、新しい飼い主さんが来院したとします。診察前にに記入していただいたカルテを見るのですが、私はまず住所を見ます。その方がどこから来たのかを確認するためです。もし、遠くから来られた方であれば、ここまでに多くの動物病院を通過して、わざわざこの病院に来られたわけです。その方が何か強い思いを持って来院されたことが想像できますよね。

だとしたら、注射を1本だけ打って帰ることを望んではいないと思うのです。もっといろいろと検査をして、きちんとした病名を知りたいのかもしれません。ほかの病院でできなかった治療を受けたいのかもしれません。住所を見ることで、その飼い主さんの思いの強さや生活環境を、ある程度は想定することができるのです。

また、来院された曜日や時間帯、飼い主さんの服装・持ち物からもさまざまな想定ができます。「夫婦でスーツを着ていれば共働きの会社員」「共働きであれば1日3回の投薬には無理があるので、1日1回の薬を探して処方するか」「でも両親と同居であれば1日3回の投薬が可能かもしれない」など、飼い主さんの生活スタイルなども想定できます。

初診時にはその想定をもとに話をしながら、飼い主さんがどこまでの治療を望んでいるのかを見つけていきます。猫のことだけでなく、飼い主さんのことも理解しながら、治療の方向性を決めていくことが大切ですね。

・今後の展望

「安心できる『老猫ホーム』の仕組みを構築する」

いつになるかはわかりませんが「老猫ホーム」をつくりたいと考えています。実際、老人ホームに入るときに「一緒に入居できないので猫を手放さなければならない」「飼い主さんが亡くなって猫が残り、世話をする人がいないので困っている」という方がいます。そういった理由で、年を取ったらどちらが先に死ぬかわからないので、飼うことができないと言われます。それはとても寂しいことです。

例えば、ご主人が亡くなられて奥様が独りになったときに、そこに猫がいれば生きる喜びを感じられるし、世話をしなければという役目があれば、生きる目標にもなるのです。認知症になることも防げるかもしれません。動物と暮らしていると、病気になりにくいというデータも少しずつ出てきています。

飼い主さんには、できる限り長い年月を猫と暮らしてもらいたいと思いますね。だからこそ、猫を手放さなければならないときのために「老猫ホーム」が存在するのです。

年齢や病気の有無によっても変わってきますが、一般的に猫を飼うには、年間で10~30万円くらいかかると言われています。老猫ホームにその費用を預けてということになりますが、安心できるように「信託」を利用して第三者機関に預ける形をとるなど、信用できる正当な仕組みを構築する必要があります。

もちろん、それは飼い主さんの望むことを第一に考えていくものでなければなりません。起こりうる事態も想定して、事前に飼い主さんと老猫ホームとがきちんと話し、契約を結ぶことも大切ですね。どのようにしたらよいか、その日のために情報を集めて、しっかり考えていきたいと思います。

ペットを飼っている人と、飼っていない人の医療費は、飼っている人の方が少ないというデータも出てきています。犬の場合は散歩が必要なので、年配の方には世話が大変な部分があるのですが、猫の場合はそれがないので飼いやすいのです。猫を飼える老人ホームが増えるなど、みんなが安心して猫を飼える社会ができるとよいですね。

・院長にとって「猫」とは?

「片思いをしている相手」

なんでしょうね。それがわかれば苦労はしないのですが……(笑)。片思いをしている相手ですかね。青春時代には片思いの相手に必死だったりしますよね。たまにちょっと振り向いてくれるけど、話まではしてくれない。どうやったら話をしてくれるか考えるけど、答えは見つからない。嫌われているかと思っていたら、いつの間にか近くにいたりする。猫からはそんなもどかしい距離感を感じますね。

私は自宅でメインクーンを2頭飼っているのですが、いつもそんな感覚を持ちます。でもその距離感が私には合っていて、居心地がよいです。きっといつまでも「片思い」なのでしょうね。

【東京猫医療センター】
住所:〒135-0004 東京都江東区森下1-5-4
TEL:03-6240-2271
URL:http://tokyofmc.jp

[編集部]