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世界的に著名なペット脳神経外科のパイオニア

[2015/12/25 10:00 am | 編集部]

近年の飼育環境の変化でペットの高齢化が進行し、飼い主が望む獣医療が変化しつつある。従来は大学病院で行われていた二次医療は、民間の獣医師の専門化により、ホームドクター的な一次医療を超えて可能になってきている。さらに大学病院やほかの専門病院との連携により、より高度な獣医療を提供している獣医師も増えてきた。

多様化・細分化する獣医療。飼い主は「どんな病院を」「どんな獣医師を」選ぶべきか。知識・技術は当然だが、ペットとともに飼い主も思いやる心も望まれる。多くの飼い主たちが信頼を寄せて全国から集まる病院、ペット業界のプロたちが推薦する病院、そして獣医師が信頼して紹介する病院にこそ、その答えがあるのだ。ここでは、そんな「選ばれし獣医師」を紹介していく。

世界的に著名な脳神経外科のパイオニア

1995年に滋賀県草津市に開業したアツキ動物病院は、地域に密着する一次診療の病院として、日々努力を重ねてきた。2003年には飼い主からの切実な願いに応えるために、自ら滋賀医科大学付属病院脳神経外科の門をたたき、人の脳神経外科を学ぶ。当時、獣医療にはなかった最新の専門知識と技術を身に付け、高度医療部門(二次医療)を立ち上げた。それがアツキ動物医療センターである。

「脳神経外科の治療において、世界の誰かに任せるのではなく、自分に治せないものがないように日々精進しています」と井尻 篤木(あつき)院長は力強く語る。センターには先進的な医療機器や設備が整えられ、世界トップクラスの最新医療を提供する。「アツキ動物医療センター」には、飼い主の切実な希望と、その気持ちに応えようと切磋琢磨する院長の情熱が込められている。脳神経外科のパイオニアとして、世界中から注目されている井尻院長に話をうかがった。

井尻 篤木 院長
1991年:酪農学園大学獣医学科(現・獣医学群獣医学類)卒業
1995年:民間動物病院勤務を経て、アツキ動物病院を開院
2003年:滋賀医科大学医学部付属病院脳神経外科研究生となる
     後に、高度医療部門を立ち上げ、アツキ動物医療センターに改名する
<所属学会>
獣医神経病学会 獣医麻酔外科学会 日本獣医がん学会 人工骨開発プロジェクト

・獣医師を目指したきっかけ

「獣医に向いていると背中を押された」

私の幼少時代には、まだ野良犬や野良猫がたくさんいました。もともと動物が好きで、時間があればその野良犬や野良猫と遊んでいたのです。それを見ていた近所のおばさんから「獣医に向いている」と言われたのがきっかけです。中学生のころにはもう「獣医になる」という夢を語っていました。その夢を持ち続けて、現在の私がいます。自宅では、ボルゾイ3頭とチワワ1頭を飼っています。病院にいる時間が多いので、彼らには週に1度くらいしか会っていません。私が居候ですね(笑)。

・高度医療部門(脳神経外科・整形外科)を立ち上げた理由

「飼い主の切実な希望に応えたい」

1995年に一次医療であるアツキ動物病院を開院したのですが、そこでは従来のありふれた病気をできるだけ簡単に安く治療することを方針として、日々治療にあたってきました。人間社会の発展とともに、ペットに対する考え方やペットを取り巻く環境も変化し、ペットも人間と同じような病気を発病することがわかってきました。

二次医療である高度医療部門を立ち上げようと思ったのは、脳腫瘍になった犬の飼い主からの「治してほしい」という切実な希望があったからです。当時の獣医療では、その治療には限界があったため、私は人の医療の世界に目を向けました。

獣医療において、知識や技術を向上させるには、ふたつの道があります。海外に行って獣医療のベーシックな専門医制度を受けてくる道と、人の医療から学ぶために、医学部に行って未来の獣医療を先取りしてくる道です。

私の場合は後者に特化したタイプで、滋賀医科大学の門を叩き、そこで学ぶことにより、獣医療からすると「未来の医療」を先取りさせてもらいました。滋賀医科大学医学部付属病院脳神経外科で教育を受けられたことは、私の大きな強みです。その最新の知識と技術を持って、2003年にアツキ動物医療センターとして高度医療部門(二次医療)がスタートしたのです。

その後も滋賀医科大学はもちろん、京都大学や金沢大学などと共同研究を重ね、知識を得るとともに、実践的にやれる範囲を広げていきました。私は獣医師ですので、獣医療における海外のベーシックな知識と技術も学ぶ必要があります。その部分は海外で論文を発表したり、学会に参加したりすることで高めていきました。

そして、現在は「脳神経外科・整形外科」を専門として、治療にあたっています。「治してほしい」という飼い主の希望。「その希望に応えたい」というのが、私のすべての原動力ですね。今後もその原動力のもと、まい進していきます。

・高度医療部門(脳神経外科・整形外科)で診療している主な病気

「症例数は年間約500例」

症例数のうち約300例が脳神経外科のものです。主な病気は、脳腫瘍、脊髄損傷、脊椎損傷、椎間板ヘルニアなどです。ここで治療を受けた飼い主や一次医療からの紹介も多く、全国各地から来られています。

・先進的な設備による治療法

「世界の最先端を走る治療」

まずは、マイクロサージャリ―(超微小手術)です。これは顕微鏡を使って行う手術で、肉眼では見ることのできない部分を拡大し、細かい部分の施術を可能にしたものです。

また、一般的に手術前の検査時だけに使用するCT(コンピューター断層造影)やMRI(磁気共鳴画像法)を手術中にも使用し、犬や猫の最新の状態を常に確認しながら進めていく、最先端の手術法を取り入れています。これにより脳や脊髄などを損傷することなく、安全に手術を行うことができるのです。

さらに、京都大学との共同研究においては、3Dプリンターを使用してインプラント(人工骨)を製作しています。3Dプリンターとはコンピューター上のデータをもとに立体を造形する機器のことです。これを使用することで、今までかなりの時間をかけて製作していたインプラント(人工骨)を、短時間で正確に製作できるようになりました。

椎間板ヘルニアの手術の際には、骨と骨との間に入れるインプラント(人工骨)を。腫瘍の手術の際には、腫瘍摘出後の頭蓋骨のインプラント(人工骨)を。3Dプリンターはさらなる応用が可能ですね。これらは獣医療の世界では初めて導入したものばかりです。今後もさまざまな治療法を見出し、世界トップクラスの外科治療に力を注いでいきます。

・治療をするうえで大切にしていること

「飼い主の期待に応えること」

私は現場の獣医なので、何よりも「飼い主の期待に応える」ということです。もしくは、ペットロスをいかに解消するかということですね。

特に高度医療部門(二次診療)には一次診療では手に負えない病を抱えた犬や猫がやってきます。ここは「何とか助けたい」という思いを持った飼い主が、後悔しないためにある分野なので、その医療と飼い主の心のケアがうまく連動しているのか、とても気になるところです。

人間の幸せのために動物がいるので、動物を治療することで飼い主の心が癒えなければ意味がありません。ここで治療を受けて現実的に助かることもあれば、そうでない場合もあります。後遺症や障害が残ることもあります。いかなる場合であっても、ここで治療を受けたことで、飼い主の心が病んでしまったら意味がありません。日本には、飼い主に対しての心のケアをするシステムが確立されていません。いわゆる、ペットロスを解消するシステムですね。

獣医師の真の目的は、「動物を介して、人間社会に貢献する」ことです。だからこそ、私は飼い主の心を癒すのも獣医師の仕事だと考えています。医療と飼い主の心のケア、そのゴールをいかに見出すか。それは獣医師として一生、戦っていかなければならないことですね。

・来院のアドバイス

「治療の可能性を探ってほしい」

脳腫瘍などの命にかかわるような病気にかかった場合、もう打つ手がないと、病名を聞いただけであきらめてしまう飼い主もおられます。現在、獣医療はかなりのスピードで進歩していますので、あきらめずに治療の可能性を探っていただきたいと思います。

・今後の展望

「ストイックさを持ち続ける」

今後の展望というか、思い続けていきたいことですね。とにかく、ストイックさを忘れないように、やっていきたいです。例えば、「ラグビーワールドカップ2015 イングランド大会」の日本代表の試合です。

逆境で追い詰められて、もがいて、苦しくて……。それでもあきらめることなく、ゴールにたどり着いたときには、何とも言えない爽快感と達成感がありましたよね。私もそんな風に、自分を追い込み、困難な目標を立てて、いつでも真剣勝負で向き合いたい。そんなストイックさを持ち続けて、誰から見ても否定されない獣医師でありたいですね。

・院長にとって「動物」とは?

「責任の重いもの」

獣医師として「責任の重いもの」ですね。飼い主にとって大切なペットを委ねていただくのですから、飼い主にも、ペットに対しても大きな責任を感じます。同じペットでもわが家のボルゾイやチワワに対する気持ちとはまったく違います。病院に来られる飼い主やペットの前では「獣医師」ですので、病気を治すことが最大の使命です。その責任の重さを常に感じながら、治療にあたっています。

【アツキ動物医療センター】
住所:〒525-0058 滋賀県草津市野路東4-17-3
TEL:077-567-5999
URL:http://www.atsuki-animalhospital.com/

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