ペットの健康を考えよう Vol.3

Vol.1では「獣医さんのお仕事」を、Vol.2では「ペットの高齢化対策」を、それぞれお伝えしました。とはいえ、ほとんどの飼い主の人は獣医療や動物の生態については素人。的確なタイミングで適切なケアができているのかどうか、不安にお感じの人も多いでしょう。そんな不安を払拭してくれるのが「ホームドクター」です。今回も引き続き、日本獣医師会副会長の酒井健夫さんにお話をうかがいます。

公益社団法人 日本獣医師会副会長 酒井健夫さん

ホームドクターはこんなに頼れる!

人間にとって「かかりつけ医」、つまりホームドクターが大切なように、愛するペットの健康管理にもやはり、ホームドクターの存在は欠かせません。前回のインタビューで、犬や猫の1年は人の4年~6年に相当するというお話をしました。つまり犬や猫は、健康管理を1年も怠ると、重大な結果を招きかねないのです。では、飼い主はどうすればいいのでしょうか。

「とくに病気やケガの兆候がなくても、気になることがあれば何でも気軽に相談できる『ホームドクター』を探しましょう。現在、動物病院の65%は、ひとりの獣医師と数人の看護師が診療にあたる、いわゆる街の獣医師です。何かあったらすぐに駆けつけられるご近所の動物病院で、幼齢期から継続して診療を受けるほか、人間と同様にコンパニオンアニマルにも健康診断を受けさせる習慣を身につけましょう。適切なホームドクターが見つからない場合は、お住まいの地域の獣医師会に相談してください。すべての都道府県や政令都市には獣医師会があり、病院などの検索ができるほか、病院選びの相談も受けつけています」

各地域の獣医師会では病院選びの相談などもできるそうです

子犬や子猫のころからずっと診てもらっていれば、成長に伴う身体の変化などの情報がカルテに残ります。また、愛するペットのことを普段からよく知っている獣医さんならば、病気の小さな兆候も発見しやすくなります。さらに大きなメリットは、ペットの病気やケガを未然に防ぎ、健康的で快適な毎日を送ってもらうためのアドバイスをもらえることです。うちの子には獣医さんがついていてくれるとなれば、病気に対する不安感も大きく減ることでしょう。でも、街の獣医さんは医療設備が整っていないのでは? そんなことをお考えでしたら、それは要らぬ心配です。

「現在は各種の検査機関・検査サービス会社が増え、動物病院と連携して高度な検査を行っています。微生物検査、血液化学検査、内分泌検査、遺伝子検査、アレルギー検査、免疫学検査、ウイルス検査、病理学検査、画像検査など取り扱う検査項目も多彩ですから、街のホームドクターであっても多くの疾患が診断できるようになっています」

病気や健康のことはもちろん、さまざまな相談にも乗ってくれるのがホームドクターです

ホームドクターの診察によって、高度な検査の必要性が出てきた場合は、専門機関に検体などを送り検査してもらうわけです。さすがに当日結果がわかるというわけにはいきませんが、これができるとできないとでは大違い。検査を受けるべきかどうかの判断も獣医さんがしてくれるので、素人考えで不必要な検査をしてしまう失敗もなくなります。

また、専門分野に特化した動物病院の存在も、必ず覚えておきたい知識です。普段のヘルスケアはホームドクターにお願いし、ペットの身体に大きな異変があれば、ホームドクターと飼い主が相談して専門病院を受診する。獣医療が専門化・高度化した現在、このような2次診療は、よりよい獣医療環境を望むなら欠かせないと考えるべきでしょう。

「眼科、歯科、皮膚科、循環器科、整形外科、腫瘍専門、夜間救急などさまざまな専門形態に特化した病院があります。飼い主の方によっては、これら専門病院の情報をつねに把握し、疾患別にそれぞれ診療施設を変えて通院している方もいます」

なかでも、夜間救急を手掛ける動物病院は必ず調べておくべきでしょう。何か起きてからあわてて調べていては遅いのです。

ペットと一緒に、人も幸せになろう!

では、ホームドクターに定期的に診てもらっていれば、ペットの健康管理は万全なのでしょうか? いえ、それは違います。いかにホームドクターといえど、24時間365日、ずっと目を光らせてくれているわけではありません。飼い主による病気の早期発見も重要です。

「コンパニオンアニマルの身体の不調を早期に発見するためには、普段からのスキンシップによる観察が大切です。つねに動物と触れ合うことで、腫瘍の発生や皮膚の病気、関節の不調など、さまざまな病気の兆候を早期に発見できます」

動物は我慢強いので、明らかにグッタリしている姿などを見せたときには、もう命が危険な状態かもしれません。いつもより少しおとなしい、歩き方がなんだかぎこちない、いつもより体をかいている、何かを訴えるような目をしている、そんな、飼い主にしか気づけないサインを見逃さないためには、つねにペットと真剣に向き合い、心を通わせている必要があります。さらに酒井さんは、人と動物がともに幸福になれる社会こそが、日本獣医師会が目指す未来だと力説します。

毎日の愛情のこもったスキンシップがペットの不調の発見につながります

「人と動物が、ともに健康であり続け、ともに長生きできる社会を築くことが、日本獣医師会の大きな目的です。コンパニオンアニマルが長生きするようになったいま、飼い主もまた高齢化し、病気や体力の衰えにより世話をできなくなるケースもあるのです」

たしかに、飼い主が寝たきりになったり亡くなったりしたら、遺されたペットは路頭に迷ってしまいます。いったいどうすればいいのでしょうか。

「動物病院では、犬や猫を保護した後に健康チェックやワクチン接種、マイクロチップの装着などを行い、相性のいい里親さんを探すマッチングシステムに取り組んでいます。ご自身が高齢となり、これから子犬や子猫を飼い始めるのは心配だとお考えの方でも、相性のいい成犬・成猫とならともに充実した日々を送れることでしょう。日本獣医師会は、大規模災害時の被災動物救護活動や、動物病院を含む介護動物施設確立の推進、老人ホームと老齢動物の共存社会の確立など、国民生活の向上に向け獣医師が貢献できる活動を引き続き展開していきます」

じつに頼もしい活動ですね。ペットのことを何でも相談できるホームドクターがいれば、私たちの未来もペットの未来も、より明るく幸せなものになりそうです。

ペットの健康が気になる方は、ぜひホームドクターを探してみてください